流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

チャンネル・掲示板

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幸せがつづいても、不幸になるとは言えない
 不幸がつづいても、幸せが来るとは限らない



Mousou2 昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー 

  
 

 
子を持つも持たぬも人の宿命(さだめ)なり 
日に日に努めて行かむ
あなたの人生なんだから好きなように
お行きなさい(生きなさい)


『誰も見てない

エリはお婆ちゃん子だった。
幼い頃から、何かあると一番に、お婆ちゃんに報告する。
「お婆ちゃん、今日ね、テストで90点取ったよ」と言えば、
「えらいねえ」と褒めてくれた。
エリの両親は二人とも学校の先生をしていた。
8時よりも前に帰ってきたことがない。
だから、お婆ちゃんといつも一緒にいた。

特に、夏休みは家にいると一日中、二人きりだった。
特に今週は、両親とも泊りがけの学校行事で
家を留守にしている。
「行って来ま~す」 「どこ行くの?」
「うん、今日も部活」 「ちゃんと、鏡を見ていきなさいよ」
「いいよ、どうせ練習したら汗まみれで、
頭もクチャクチャになるんだから」

エリは、中学でバスケットボール部に入っていた。
夏休みの前半は、朝練がある。
「だめよ、どこでいい男に会うかもしれないんだから」
「いやだぁ、そんなのいいよ」と言いながらも、
エリはお婆ちゃんの部屋にある姿見の前に立つ。
胸のリボンを結び直す。制服のスカートを
ポンッポンッと軽くはたいた。

「じゃあ、行って来ま~す」
「はい、行ってらっしゃい」
いつもと変わらぬ朝だった。 部活の帰り道、
リョーコに誘われて、駅の近くのファンシーショップに寄った。
リョーコはキティちゃんにハマっていて、
ケータイのストラップから文房具、 パジャマまで
キティちゃんだ。 二人で当てもなく店内をぐるぐると回る。

「え!?」エリはリョーコの顔を見た。
こっちを向いて、舌をペロッと出した。
リョーコは、手に持っていたキティちゃんの小さなポーチを
スポーツバッグの中に入れたのだった。
(え? 万引き?)エリは、呆然として立ち尽くしていた。
そのすぐ目の前で、 リョーコはキティちゃんのハンカチを
再びバッグに投げ入れた。そして、エリの耳元でささやいた。
「大丈夫だよ、ここはカメラもないんだから」
監視カメラのことを言っているらしい。

リョーコは、「エリにもあげるよ」と言った次の瞬間、
棚のハンカチを掴んだかと思うと、
エリのカバンにねじ込んだ。
エリは血の気が引くのがわかった。
身体が強張って動かない。
気が付くと、リョーコは店の外へ
何食わぬ顔をして向かって行った。

「リョーコ」と言葉にならない声を発して追いかける。
気づくと、駅前のハンバーガショップの前まで来ていた。
リョーコが言う。「大丈夫だって~」
「・・・」エリはまだ声が出ない。
「あの店はさあ、女の人が一人レジにいるだけでさあ、
奥の方は見えないのよ」
「だって・・・だって、これって万引きじゃないの」
「エリだって、持って来ちゃったんじゃないの?」
手にしたカバンから、ピンクのタオル地の
小さなハンカチが顔を覗かせていた。

「誰も見てないって」
「だって」 「あそこの店はさあ、有名なのよ、
やりやすいって。みんなやってるんだから」
「・・・」 「じゃあ、明日またね」
リョーコはそう言うと駆け出して行った。
エリは、リョーコの言葉を心の中で繰り返していた。
「誰も見てない、誰も見てない」
その証拠に、店の人は追いかけても来なかった。
「誰も見てない、誰も見てない」

家に着くと、ますます恐ろしさが募っていった。
でも、それを打ち消すように、何度も心の中で呟いた。
「誰も見てない、誰も見てない」
そこへ、お婆ちゃんに呼ばれた。ドキリとした。
「え?」何を言っているのか聞こえなかった。
「な、何、お婆ちゃん」
「エリ、今日の昼ご飯は、デニーズに行こうかねぇ」
「う、うん」
「じゃあ、早く着替えておいで、玄関で待ってるわよ。
ちゃんと鏡も見ておいでよ」

制服から真っ白なTシャツと膝までのジーンズに着替える。
心のモヤモヤは大きくなるばかりで、爆発しそうだ。
(どうしよ。お婆ちゃんに相談しようか。
でも、心配かけちゃダメだ)
「誰も見てない、誰も見てない」と、
まるで呪文のように繰り返す。
たしかに、誰も見ていない。
店員にも気づかれなかったし、他にはお客さんもいなかった。
これからだって、黙っていれば誰にもわからない。


「誰も見てない、誰も見てない」ふと、
姿見に映った自分の顔を見て驚いた。
真っ青な顔をしていた。
それも少し黒ずんだような。エリはハッとした。見ていた。
そうだ、見ている人がここにいた。
誰も見ていなかったけれど、 私が見ていた。
私の目が、私の心が見ていた。


「お婆ちゃん・・・」
エリは、蚊の鳴くような声で言った。
「どうしたの?何だか顔色がよくないね」
「お婆ちゃん、デニーズに行く前にお願いがあるの」
勇気を振り絞って、すべてを話した。…

Author:志賀内泰弘



『断絶 』




時は絶えず流れ、
 今、微笑む花も、明日には枯れる


添うて苦労は覚悟だけれど、
  添わぬ先から、この苦労

歴史・履歴への許可証

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


夢はでっかく、根はふかく。
花を支える枝 枝を支える幹 
幹を支える根 根はみえないんだなあ


Kobanasi_3


『石になったオオカミ』 岩手県の民話

むかしむかし、あるけわしい山のふもとに、家が二十軒ばかりの
小さな村がありました。
ある年の正月の夕方のこと、どこから来たのか、吹雪の中を
まずしい旅姿の母と娘がこの村を通りかかりました。
歩きつかれた母と娘は一晩泊めてもらおうと、
村の家々をたずねましたが、見知らぬ者を
泊めてくれるところはありません。
でもやっと、ある家のおばあさんが、「それでは、村はずれの
お寺へ行きなさい」と、道を教えてくれました。

母と娘はやっとの思いで、お寺へたどりつきましたが、
ここでも二人を泊めてはくれません。でも、
「本堂の縁の下でよければ、かってに泊まっていけ」と、
言ってくれました。
その夜、母と娘は雪がふきこむ本堂の縁の下で、
ブルブルとふるえながら抱きあっていました。

夜ふけになると、裏山ではオオカミたちが大きな声でほえていました。
そして夜が明けると、本堂の縁の下にあみ笠をひとつ残して、
母と娘の姿は消えていました。

さて、それから何ヶ月かたったある秋の日のことです。
となり村で用事をすませたお寺の和尚さんが
夜の山道を帰ってくるとき、峠で六頭のオオカミにおそわれて
殺されてしまいました。

そこで村人たちは、腕のいい熊平(くまへい)という猟師に
オオカミ退治を頼みました。
熊平はオオカミがすむほらあなをさがしだすと、
近くの木にのぼってオオカミが出てくるのを待ちました。
しばらくすると、六頭のオオカミがほらあなから出てきました。
「いまだ!」 ドスーン! ドスーン!

熊平は狙いをつけて次々と鉄砲をうちましたが、
オオカミたちはすばやく身をかわしてしまうので、
一発も当たらないうちに玉がなくなってしまいました。
そして玉がなくなった事を知ったオオカミたちは、
熊平がいる木の下へ走っていきました。
そのときです。
オオカミがすむほらあなから、一人の娘が出てきました。

娘はお寺の縁の下から姿を消した、あの娘です。
母親はいませんが、娘は生きていて、なんとオオカミと
一緒にくらしていたのです。
娘はオオカミたちに、大声でさけびました。
「その人には、帰りを待つ家族がいる。もう許してやりなさい!」

娘の声をきくと、オオカミたちはすぐに木の下をはなれて、
ほらあなへもどっていきました。
それから年がかわったある冬の夜、六頭のオオカミが
村を襲いにきました。
するとまた、あの娘があらわれて、
「この村には吹雪の晩、お寺への道を教えてくれた、
やさしい心をもった方がいるんだよ。暴れずに帰りなさい」と、
オオカミたちに言ったのです。

するとそのとき、村の猟師の放った矢がとんできて、
娘の胸につきささりました。
娘はその場にばったりと倒れて死んでしまい、
オオカミたちはいつのまにかいなくなってしまいました。

それからしばらくして、村の人が峠の道の脇で、
六頭のオオカミが石になっているのを見つけました。
それから毎年、娘が死んだ日の夜になると、
石になったオオカミたちの悲しそうな遠ぼえが、
峠の道から聞こえてくるという事です。

おしまい



『ウサギとカメとフクロウ 』和歌山県の民話

むかしむかし、由良(ゆら)和歌山県のほぼ中央の小山に、
ウサギとカメとフクロウが住んでいました。
ある日の事、ウサギとカメがかけっこをする事になり、
空を飛べるフクロウが審判を引き受けました。

「ヨーイ、ドン!」 フクロウの合図に、ウサギとカメは、
ピョンピョン、ノソノソと、かけ出しました。
「へへーん。ウサギがカメに負けるものか」
先を走るウサギが、もう少しでゴールという時、
空からフクロウが言いました。
「ウサギさん。カメさんは、もうとっくにゴールについているよ」
「なんだって! そんな馬鹿な事があるものか!」

ウサギがあわててゴールにかけ込んでみると、
先についたカメがゆうゆうと汗をふいているではありませんか。
「うそだ! ウサギがカメに負けるなんて、
こんなおかしな事があるものか!」

ウサギは、もう一度カメと勝負をしましたが、
今度も負けてしまいました。
「わーん! カメに負けてしまったよー!」
ウサギはくやしくてくやしくて、小山の木かげにかくれて
泣き続けました。

そしてあんまり目をこすったので、ウサギの目は
まっ赤になってしまいました。
そこへ神さまが現れて、ウサギに声をかけました。
「これこれウサギよ、もう泣くんじゃない。
お前は、フクロウとカメにだまされたんじゃ。
お前と一緒に走ったカメは山の中で引きかえし、
小山の向こうで待っていたカメが先にかけ込んだのじゃ」

それから神さまは、二匹のカメを捕まえて、
「この、おうちゃく者め!」 と、つえで背中を叩きました。
それでカメの背中は、ひびだらけなのです。

次に神さまは、フクロウを捕まえて、 「この、ろくでなしめ!」 と、
フクロウの目玉をつえで叩きました。
それでフクロウは、夜しか目が見えなくなったのです。

おしまい



「ウサギの角」




誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば、言い訳になるから……。


Mituo 人の為 と
書いて、
いつわり(偽) と
読むんだねぇ 

 
  
 
 
時は絶えず流れ、 
  今、微笑む花も、明日には枯れる  



鬼が餅つきゃ、閻魔が捏ねる、
  そばで地蔵が食べたがる 
 




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妄想劇場・番外編(18禁)

妄想劇場・番外編(18禁)

信じれば真実、疑えば妄想……


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18歳未満の方は
ご遠慮下さい。 
 

  
 
 
メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい。


これほど惚れた素振りをしても、ほんとに悟りの悪い人


名古屋の総合病院の一人娘、恭子、
見合いを控えて東京へグレードアップの修行に。

『名古屋から来た女』(3)

「恭子さん、何かスポーツをやってますか?」
オルガスムスが収まって、吾郎は恭子に腕枕をしながら、
聞いてみた。
「私、あまりスポーツが得意じゃないので、太極拳を少し。
アメリカに留学していたときに、チャイニーズの先生に習いました」

「膣の握力が素晴らしいんです」
「多分、骨盤底筋が強いんだと思います。
私、これでも医者なんですのよ。城北大の医学部を出ました」
「なぁんだ、僕も城北大です。法学部ですけど」
「まあ、奇遇ですね。どうぞよろしく」
「同窓生って、変なんですよね。初めて会っても、
懐かしい気がして」

「父が名古屋で病院をやってまして、私は一人娘なので、
いづれは病院を継ぐものと育てられました。
今度のことも、私勉強ばかりしてきて、男の方との
付き合ったことが無いんで、インスタントの花嫁修業なんです。

名古屋に帰ると、お見合いの話が待っていて、
それに失敗しないようにって、東京で修行をすることにしたんです」
「貴女と結婚する人は、幸せですよ。
貴女の○○は、素晴らしい。日本一の○○です。
証明書を書いてあげてもいいくらい」
「本当にそうなんですか?少し、自信が出て来ました」
「後は、見た目も大事ですから、お見合いに成功をするよう、
この1週間の間に特訓をします。僕の知り合いに
頼みますがいいですか?」

吾郎は、ケイタイを開いた。
「もしもし、珠美? 一寸お願いがあるんだけれど。
今週、時間あるかな?」
「明日なら空いているけれど、デートのお誘い?」
「それは来週にして欲しいんだけれど、
明日の10時半にブランチしながら相談したい。?
グランド・ビューホテルのロビーで待ってる」

「今の人は、外資系の会社に勤めていて、
おしゃれには抜群のセンスを持っているから、
頭のてっぺんから足先まで、面倒を見てもらうといいよ。
そういえば、彼女は城北大の後輩だから、
恭子さんにも同窓生になるな」

翌日、恭子を珠美に紹介をした。
「兎に角、お化粧から髪型、着る物、履く物一切を
男が目を見張るようにしてくれないか」
名古屋の知人の娘さんで、お見合いを控えての
準備を頼まれたんだと説明をすると、
珠美は、小うるさい質問もせずに、引き受けてくれた。
大学の先輩ということで、親しみもわいたようだ。

吾郎は、毎晩ホテルに泊り込んで、恭子と○○を共にした。
男性との経験はなかったが、○○の○○には慣れていたので、
○○の充実は早かった。

2日目には、吾郎が普通に腰を使っても、問題はなかった。
3日目には、○○声を漏らした。
4日目には、吾郎の腰に合わせて、○○を打つようになった。
5日目に、吾郎が安全日が終わりそうだと○○出すと、
 恭子は、毎日射精をしているから、精子がどんどん薄くなって、
 妊娠の心配は無いと言った。一度○○すると、
 完全に復活するのに1週間は掛かるという。さすがに医者だ。
 もちろん吾郎に異存は無く、この夜も○○は
 使わないことになった。

6日目、さすがに吾郎も疲労が出てきた。○○具合が、
頼りない。
恭子の○○もすっかり板についてきた。
吾郎は、剥きだしになった目前の○○に、顔を寄せた。
○○を、口に含んで吸った。○○絡め、
○○に沿って○○まで、○○下ろす。
恭子は、腰を○○、激しく○○を上げた。
吾郎の抱きかかえている両腿が激しく揺れて、○○なった。

7日目、いよいよ名古屋に帰る最後の日となった。
ホテルのレストランに珠美も呼んで、一緒にランチを取った。
髪型から、化粧、ドレス、靴まで、
珠美にコーディネートして貰った恭子は、
見違えるほどに洗練されて、近くの席の男性が、
チラチラと目を注ぐほどになっていた。

「いやあ、さすがに珠美ちゃん、有難う。凄いねえ。
恭子さん、まるで映画のニューフェースだねえ」
「下地がいいから、見栄えがするわ。私も楽しかった」
食事が済むと、珠美には来週連絡すると言って分かれた。

恭子を連れて、吾郎は部屋に入った。
恭子の肩を抱いて○○吸う。 最初の夜が思い出される。
「一緒に入ろう」 吾郎に促されて、恭子は○○なると、
吾郎に続いてシャワールームに入った。
飛沫を浴びながら、胸を○○合わせる。
○○は、いきり○○、恭子の○○探っている。
吾郎は、恭子の○○に指を伸ばした。
流れ落ちる湯で、○○を洗う。
恭子は、五郎の○○を掴んで、○○を指先で擦っている。
「吾郎さん、もう駄目」 恭子が、腰を落として、吾郎に
しがみついた。

すっかり板に付いた○○のM型姿勢で、恭子は、吾郎を待った。
(いよいよ、最後になったか) 吾郎は、身体を下にずらして、
唇を○○合わせた。口をいっぱいに開いて、
○○から ○○までを一気に吸い込む。
吾郎は、身体を起こすと、恭子に被さった。
「恭子さん、愛してる」 耳元に囁きかけ、
○○は、何の抵抗も無く、○○まで嵌った。

吾郎が腰を送ると、すかさず恭子が○○迎える。
突き込んでは、引き戻し、○○で○○を繰り返し、
再び突き込む。
突き込んでは、○○の字を描いて、○○。
「吾郎さん、私、死にそう」
「恭子さん、まだまだこれから好いことが沢山待っているよ」
「私と結婚してぇ」
「・・・・・」
「い○○う」

恭子からメールが入った。
吾郎様 本当に有難うございました。
お陰さまで、お見合いは大成功、先方から直ぐにでも
お式をと言ってきています。
私困っています。確か、最後の日に、吾郎さんに
結婚してくれとお願いしたはずなのに、
未だご返事を聞いておりません。
あれは、夢だったのでしょうか?
あの一週間の出来事は、全てが夢のようです。

もし夢で無いなら、そして吾郎さんが私と結婚していただけるなら、
もう病院などどうなってもいい、吾郎さんのお傍においてください。
ご返事をお待ちしています。
恭子

恭子様 メールを有難う。
恭子さんと過ごした1週間は、僕にとっても
一生忘れることの出来ない日々です。
夢は、夢。覚めてしまうと世の雑音に汚されてしまいます。
恭子さんも、夢を大事に、お見合いの方とお幸せに。
貴女は、素晴らしい花嫁になります。
もし何か問題がありましたら、可愛い後輩のことゆえ、
何なりと相談に乗ります。いつでもお出掛けください。
お元気で 吾郎

(ごきげんよう)

Author :ぺぺ
http://syosetu.net/



『夢の途中/photo.by『綾瀬はるか




Tinko_2
人の為(ため)と
書いて
いつわり(偽)と
読むんだねぇ 

 
  

子を持つも持たぬも人の宿命(さだめ)なり
日に日に努めて行かむ
あなたの人生なんだから好きなように
お行きなさい(生きなさい)



入れてもらえば気持ちは良いが、
  どこか気兼ねなもらい風呂




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Furo611
 

漢の韓信

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


こうして、こうすりゃ、こうなるものと、
  知りつつ、こうして、こうなった


メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.


Kanshin021111 韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
国士無双」「背水の陣」
「四面楚歌」
そんな彼を描いた小説。 

  
 
 
漢の韓信-(121)
なぜ、あれしきのことで……。
韓信には蒯通が狂人を装った際に、どうして
自分が落涙したのか、よくわからない。
見捨てられた、と思ったのか。それとも蒯通を
そこまで追い込んだ自分が許せなかったのか。

「私は、本当に気がおかしくなられたのか、と思いました」
蘭はそう言って、口をつぐんだ。
韓信は、自分がなぜ泣いたのか不明であったが、
それ以上になぜ蘭が泣いたのかが、よくわからない。
「蒯通さまは……ずるいお方です」
韓信がそのことを問いただしても、蘭はそれ以上
言おうとしない。言えば、蒯通を誹謗することになる。
自分が言えば、韓信は本気で蒯通を
斬ろうとするかもしれない。
蘭は、そのようなことは避けたい、と考えた。

「……私は、若い頃から決断力に乏しく、
師からよく嘆かれたものだ」口を閉ざす蘭を相手に、
韓信は切り口を変えて会話を続けようとした。
ちなみに韓信がいう師とは、栽荘先生のことを指すのであって、
劉邦項羽、あるいは項梁などの上官を指すのではない。

「師がおられたのですか? 初耳です」
蘭は興味を覚えたようだった。
「私は幼いころに両親をなくし、みなしごとなった。
その人は私の師であると同時に、親代わりでもあった。
しかし、それはともかく」韓信には栽荘先生にまつわる話を
する気は無いようで、内心蘭は拍子抜けしたが、
まさか話の腰を折るわけにもいかない。

自分と韓信の関係は恋人以上であると自負していたが、
それ以前に王と臣下なのである。臣下である以上、
忠実でありたいし、主君の前では実直でありたかったので、
あれやこれやと詮索するべきではない。
だが、未来には昔話をする機会も訪れるだろう
……そう思う蘭であった。

「蒯先生の策には、注目すべき点がいくつかあったが、
君の言う通り、やはり実現不可能なものであった。
にもかかわらず、私はそれを蒯先生に伝えることができず、
結果的に彼は逃亡した。
彼は死んではいないが、私が彼を失ったことには変わりがない。
カムジンや酈生などと同じように……
私はなにがいけなかったのだろう?」
「まず、あらためて将軍がなぜ実現不可能だとお思いになったか、
その経緯をお聞かせください」
「ああ……」韓信は、話し始めた。

「私の勢力範囲は、趙・燕を含めれば、確かに
漢・楚に対抗できるものである。蒯先生の持論は
これら三者の武力均衡によって、天下に安定をもたらす、
というものであった」
「はい」
「しかし、天下に存在する勢力はこれら三国だけが
絶対的なものかというと、実のところそうではない。
梁の彭越や淮南の黥布が黙って見ているはずがないのだ。
私が自立すれば、彼らも同様の動きを見せるのは、
自然な成り行きだ」

「将軍が自立すれば、彼らも漢から独立すると……? 
でも将軍の勢力範囲と彼らのそれには、
格段の違いがありますね」
「確かにそうだ。だが、三国の武力均衡で天下の
安定を目指すからには、四国めや五国めがあってはならない。
彼らの動き次第で、武力の均衡が崩れるから……。

たとえば、私が彼らと同盟を結んだとすれば、
その勢いは漢を上回り、楚を上回ることになるだろう。
そうすれば漢と楚は手を結び、ともに私を
滅ぼそうとするに違いない」

「項王と漢王が手を結ぶことが、あるのでしょうか。
私はそこまで考えが及びませんでした」
「……項王からそれを言い出すことはないかもしれない。
しかし、漢王は、やるだろう。
あの方は、目的のためならば自らの感情を押し殺して
行動に移せる。

それまでの項王との軋轢や、私との友誼を投げ捨て、
項王に頭を下げてまでも誼を結ぼうとするに違いない。
これは……たやすく真似できることではない。
私があの方に及ばない理由が、そこにある」
「将軍は、漢王に及ばないと?」
「及ばない。とても及ばぬ」

「項王には?」
「項王は、どうであろう。……近ごろよく思うのだが、
項王は私と似ている。いや、私が項王と似ていると
言った方がいいかもしれないな。
私が思うに、項王は信念の人だ。
自分の価値観を信じ、それに従わない者と戦うことを辞さない。
私に彼ほどの武力や勇気はないし、
彼ほどの絶対的な価値観はない。
しかし、ひとりよがりなところだけは似ている、と思われるのだ」

「それはどうでしょう? 私には、項王は欲望の人と思われます。
もっとも実際に接したことはないので、はっきりとは申せませんが。
項王は天下に覇を唱えることが目的で、
対抗する者と戦う、それだけです。
漢王も同じで、天下に覇を唱えるために、
かつての味方も敵に回し、敵も味方に引き込もうとする、
それだけです。

そこでおうかがいしたいのですが、
このお二方に共通するものはなんだと思われますか」
「……なんだ、わからぬ」
「このお二人は、目的があまりにも壮大なために、
常識が見えなくなっているのです。
目が眩んでいるといっても差し支えないかと……」

「はっきり言う。しかもとてつもなく大胆な発言だ」
「蒯通さまの間違いは、将軍がこのお二人と
同類の人種だと思って行動したことでございましょう。
蒯通さまは将軍のことを見誤ったのです。
あの方は、最後までそのことを認めようとしなかった。
おそらくご自分でもわかっていたはずなのに……。
ですから、そのことから生じた結果に、
将軍が頭を悩ます必要はございません」

「なるほど……だが私は本当に彼らと違うのだろうか」
「将軍……違うに決まっています。将軍は
王を称するために戦ってこられたのではありません。
天下に覇を唱えるために数多くの死地を
くぐり抜けてきたわけではありません。
将軍は国をつくることよりも、個人として平和を
望んだゆえに戦ってこられました。

だから、この場に至っても漢王との友誼を重んじて裏切らず、
死んでいった者を思っては悲しみ、
思いが通じず去った者を思っては嘆くのです。
これは、目的に目が眩まず、未だ常識にとらわれている証拠です。
ですが思い違いをなさらないように。
これは欠点ではなく、美徳なのです」

「ふうむ。では私の目的意識は小さい。
小さいがゆえに普通の人間として振る舞うことができる、
というわけだな。確かに私は気宇壮大な男ではなく、
武将として世に立ちたいと思ったのも、
単にそれが私に向いていると思ったからであった。
そしてその先のことは、あまり考えていない。

世間は……私を笑うだろうな。このような思慮不十分な男が、
王を称したと」
「笑う者には笑わせておけばよろしいかと。
将軍はそのような者は好まないとは思いますが」
「ああ。嘲りは大嫌いだ。それをする者も……嫌いだ」
「嫌いなのが普通なのです。ですが、人は王位に固執すれば、
それにも耐えるようになります。漢王のように。
どうしても耐えられなければ、嘲る者を
滅ぼそうとするでしょう。項王のように。

私は……将軍にはそのような生き方をしてもらいたくありません」
「しかし……私は、すでに王となってしまった。
これから先、私が自分自身を失わずに生きていくためには、
どうすればいいのか」
「将軍が漢王に味方すると決めたからには、
漢の統一に最善を尽くすべきです。
そして……漢が楚に打ち勝った暁には、
大国の領有など必要ありません。
斉国など漢王に差し出してしまうのがよろしいでしょう。

そして将軍はそのかわりにどこか小さな封地をいただき、
存在を誇示しながらも、そこで自由に
暮らすのがよいかと存じます」

「……そうか……それはいい。静かな、
穏やかな暮らしが目に見えるようだ」
「将来そのような地で将軍とご一緒に日々の暮らしを
営むことは、私の夢でもあるのです」

「……夢か。……いい響きの言葉だ。
今日から私もその夢を共有し、実現のために
努力するとしよう」
「はい。でもあまり固執なさらずに。
固執が過ぎると、目が眩みます」

韓信はそれから気を取り直したように、
何度か斉から出撃しては、楚の後背を襲い、
小さな戦果を積み重ねた。
梁の彭越の行動にあわせたのである。
項羽は態度にこそ出さなかったが、
これを受けて漢との和睦の必要性を気にし始めた。

つづく

Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.



愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、
歌は世につれ、世は歌につれ、
人生、絵模様、万華鏡…



『みだれ髪 』




人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、言えば、……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる


P R
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妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……


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誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、言えば…



『脱獄した死刑囚 (菊池正・11日間の逃亡)』

死刑判決を受け、最高裁に上告中の菊池正が、
窓の鉄格子を切断して東京拘置所から逃走した。
だが菊池の脱獄は、自分が逃げることが
目的ではなかった。


菊池正 逮捕される

昭和28年3月17日の朝、栃木県芳賀郡 市羽村(現・市貝町)で、
従業員を含む一家4人の絞殺死体が発見された。
被害者はこの村で雑貨店を経営する一家で、
全員が両手両足を縛られた上に首を絞められて殺されており、
人口600人の小さな村はこの事件に騒然となった。
部屋はめちゃくちゃに荒され、
女主人(49)と、女性従業員(18)の死体には
強姦された跡があった。
強姦死体に残された精液からは2種類の血液型が検出された。
部屋の荒され方から見て、殺害後に金のありかを
探したことは明白だった。

捜査は難航していたが、事件から72日目、
現場から300メートルほどのところに住んでいた菊地正(27)が
逮捕される。
逮捕の決め手となったのは、菊地が現場から盗んでいた
女物の腕時計であった。
あの日、金目当てで雑貨店一家に押し入った菊地は
全員を殺した後、家中を荒して金を探した。
しかし見つかったのはわずか2千円だけだった。
その2千円と女物の腕時計を一つ、現場から盗み、
すでに死体となっている女主人と従業員を犯して
現場から逃走した。

しかし菊地は後日、妹にその腕時計をあげてしまったのだ。
妹は当時東京に住んでおり、菊地の犯行は栃木である。
まさか妹のところにまで捜査には来ないだろうとの判断で
妹に腕時計を贈ったのだが、警察はその「まさか」で、
菊地の妹の所にも事情聴取に来たのだ。
妹は何も知らずに贈られた腕時計をしていた。
警察はそれを見逃さなかった。その腕時計に不信感を持ち、
調べた結果、現場から盗まれた腕時計であることが判明した。
このまま一気に菊地への逮捕へとつながった。
2種類の血液鑑定の出た精液は、後の鑑定で
二つともA型の菊地のものと一致するとの結果が改めて出され、
菊地本人も自分一人の犯行だと認めた。
菊地は犯行日の前日に婚約しており、逮捕されたのは
新婚一ヶ月目の時だった。

犯行の動機

菊池は父・母・兄・自分・妹の5人家族だった。
犯行は金が目的であったが、菊池にとってそれは遊ぶための
金ではなかった。菊池の母は白内障を患(わずら)っており、
次第に目が見えなくっていく母親に何とか手術を受けさせたい、
そのための手術代が欲しいという願いから、
菊池はこの犯行に走ったのだった。

母は菊池が2歳の時に酒乱の夫と別れ、菊池が5歳の時に再婚した。
しかしこの新しい父親は母に対して薄情であり、
菊池が「おかやんに目の手術を受けさせて欲しい。」と頼んでも
まるで取り合わなかった。

菊池自身も一生懸命働いてはいたが、もらう給料は
微々たるものであった。また、菊池は、
新しい父親と母の間で生まれた妹もたいそう可愛がっており、
妹にも着物や化粧道具などを買ってやったりもしていた。
その上で母の手術代など貯められるはずもない。

毎日のように母を自転車の荷台に乗せ、遠くの眼科に通った。
しかし手術をしなければ回復の見込みはないという。
考えたあげくに菊池が取った行動が強盗殺人だったのである。


判決・脱獄の決意

昭和28年11月25日、一審の宇都宮地裁は菊地に対して
死刑の判決を下した。そして二審でも死刑判決が出された。
菊池は再び裁判のやり直しを求めて上告する。
残るは最高裁だけである。
ここで上告が棄却されれば死刑が確定する。
昭和30年5月、事件から2年が経った。
この時菊池は小菅(こすげ)の東京拘置所にいた。
上告中で、最高裁の裁判待ちの状態であった。
そんなある日、兄から手紙が届いた。
菊池が事件を起こしたおかげで母が村八分になっており、
つらい思いをしているということが書かれてあった。
元々家族思いの菊池であったから、逮捕されてからも
母の生活のこと、妹の結婚のこと、畑のことなどが
気になって仕方がなかった。その上で母での現実を知り、
いてもたってもいられなくなっていった。

「母に一目会いたい。」その思いは強烈に菊池の頭を
支配し始めた。菊池は脱獄を決意する。
兄に脱獄の意思を伝え、協力を頼んだ。
もちろん現代では娑婆(しゃば)の人間にそのようなことを
伝えることは不可能であり、菊池がどういった手段で
兄に意思を伝えたのかは分からないが、時代は昭和30年である。
まだ監視や面会、手紙などにおいて、
つけいるスキがある時代だった。


脱獄成功

しばらく経って兄から差し入れの本が届いた。ただの本ではない。
本の背表紙の内側には金ノコの刃が隠されていた。
この金ノコを使って房内の窓をさえぎっている
3本の鉄棒を切断してその窓から脱走する計画だ。
音を立てないようにひっそりと長時間かけて
丁寧に鉄棒を切っていく。
この当時の鉄棒は鋳物(いもの)製であり、
熱く溶かした金属を型に流し込んで固まった後に、
型から取り出すという方法で作られていた。

現代からすれば弱い部類に入る金属で、
金ノコで切断することも不可能ではなかったのである。
もちろん切断出来るからといって、上下を切って
完全に鉄棒を取り外してしまえば、
次の日の朝の点検の時にすぐにバレてしまう。
どのみち1日で終わる作業ではない。
切るのは片端だけで、切っている途中や切断が終わった鉄棒は
バレないようにごまかしておかなければならない。
幸い、菊池のいる独房には窓の外にアサガオが咲いていた。
アサガオのツルを引き込み、鉄棒の切れ目を
覆(おお)ってごまかした。
そして根気良く続けた結果、鉄格子の3本を全て
切断することに成功した。ここまでは看守に気づかれていない。

東京拘置所では当時、毎日16時50分に夕点検が行われていた。
看守が各房を見回りに来るのだ。その後19時から
就寝の21時までは自由な時間となっている。
本を読んだり手紙を書いたりするのが一般的であるが、
横になることも許されている。
その時間、菊池は布団をふくらませ、あたかも自分が
寝ているかのように見せかける小細工を済ませてから
計画を実行に移した。
昭和30年5月11日20時ごろ、あらかじめ片端を切断していた
3本の鉄棒を渾身(こんしん)の力で曲げて
自分が通れるだけの空間を作った。
そして菊池は計画通りこの窓から脱出することに成功した。

次に看守がこの房に点検に来るのは明日の朝7時だ。
それまでに出来るだけ遠くに逃げなければならない。
窓から外の廊下に出た菊地は足音を殺し、
渡り廊下を通って本庁舎の屋根の上を走り玄関先へと抜けた。
この東京拘置所は2年ほど前にも脱獄事件があり、
その事件以降、屋根際に鉄条網が張られていたのだが、
菊地は持って出た金ノコでこの鉄条網も切断した。
最後の難関を突破し、ついに敷地の外へと出た。

ここからは速い。荒川沿いの道を全力で走り、
すぐ近くの東武伊勢崎線の小菅(こすげ)駅を目指す。
もちろん電車賃は持っていないので、土手の辺りの
侵入出来そうなところから線路内に入り、
そのまま駅のホームへと駆け上がった。無賃乗車である。
久喜駅でいったん降りて東北本線に乗り換え、
栃木県宇都宮を目指す。
兄には「新聞で脱獄が報道されたら宇都宮の
総合グラウンドの○○へ来てくれ。」と暗号で
連絡をとっておいた。
とりあえずの目標地点はその総合グラウンドだ。
宇都宮駅でも改札を通らず線路を走って
囲いの甘いところから外へ出ることに成功した。
菊池が総合グラウンドへついたのは翌日12日の早朝だった。


脱獄発覚

一方、その12日の午前7時、東京拘置所では
朝の点検が始まっていた。北舎3階の18房、
つまり菊池のいた房の点検に来た看守は驚きの声を上げた。
室内に誰もいない。窓の鉄格子は切断されて曲げられている。
この窓から逃げたことは明らかだ。
「脱走だ!」
ただちに非常呼集がかけられ、拘置所内は大騒ぎとなった。
菊池のいた房には「お詫びの申し上げようもありませんが
暫日(ざんじつ)の命を許して下さい。」と書かれた
メモが残してあった。
「暫日(ざんじつ)の命を許して下さい。」これを拘置所側は
「わずかな期間の自由を許して下さい。」と解釈した。
菊池の母親思い・家族思いは拘置所側も十分に知っていたので、
菊池の脱獄の目的は母親に会いに行くことだと判断した。
脱獄を警察に知らせると同時にこのことも伝えると、
すぐに菊池の実家の方へ警官や報道関係者が殺到し、
張り込みに入った。


逃亡生活

菊池の方は、兄との約束の場所である総合グラウンドで
ひたすら兄を待っていた。
待望の兄が現れたのは脱獄してから4日目に当たる
5月15日の夕方である。
菊池は三日半の間、ここでほとんど飲まず食わずで
兄を待っていたのだ。
久しぶりの再開に兄弟は抱き合って喜んだ。
ここまではうまくいったが、最終目的は兄と落ち合うことではなく、
実家の母に会いに行くことである。
2人は用心に用心を重ね、母のいる実家を目指した。

総合グラウンドから実家までは約20kmある。
脱獄から7日目の18日の午前中、2人は市羽村
(現・市貝町)の実家の近くの山にたどり着いた。
「ちょっと実家の方へ偵察に行って来る。」
そう言い残して兄は実家へと先に向かった。

だが兄はそのまま帰って来なかった。
実家の方に警察が張り込んでいることは容易に想像出来る。
もう戻って来れなくなったに違いない。
そして翌日の19日にはこの近辺の大掛かりな捜索が始まった。
再び1人となった菊池はこの後2日間、山の中を逃げ回った。


母との再会

脱獄から11日経った5月22日の夕方、
菊地は捕まる覚悟で実家へ行く決断をした。
兄からもらったヒゲソリでヒゲを剃(そ)って
顔だけは体裁を整えたが、履物はワラぞうりで、
服は拘置所のものを11日間着続けて泥だらけのボロボロである。
見た目には乞食のようになっていた。
逃亡生活の間の少し足を痛め、杖をつきながら実家まで歩く。
「警察が張っているに違いない。」そう分かっていながらも
ひたすら実家を目指した。そして23時過ぎ、
ついに母のいる実家へとたどり着いた。

「起きろ!俺が帰ってきた!」
ドンドンと、家の雨戸を叩きながら菊地が叫ぶ。
しかし次の瞬間、家の中から、付近の陰から一斉に
警察と報道陣が現れて菊地を取り囲んだ。
「菊地正だな。」そう言いながら刑事が近づく。
別の刑事がすぐに両方から腕を取り、あっという間に
菊地は拘束された。
「終わった・・。」

絶望感の中、それでも必死に母に会わせて欲しいと
菊地は警察たちに頼み込んだ。
「一目だけでもいいからお願いします!」涙声で頼む菊地に
心を動かされたのか、この菊地の願いは
10分間だけ叶(かな)えられた。

刑事に両腕をつかまれたまま家の座敷に上げてもらうと、
そこには思い焦(こ)がれた母の姿があった。妹も一緒だ。
「正、正、お前、生きていたの・・?」
ほとんど目の見えなくなっていた母親が
涙を流して呼びかける。
菊地は「おかあやん・・。」と言ったまま泣き出し、
後はほとんど言葉にならない。
「もう死んでしまったのかと思ってた・・。」
「こうするより仕方がなかった・・・・悪い男でした・・。」
涙ながらに再会出来た菊地に、
妹が生タマゴとカレー汁を出した。

「菊地、そろそろ行こうか。」と刑事に言われ、
再会は終わった。
「元気でな・・・。仲ようやってくれ。」
最後に別れの言葉を贈り、菊地は刑事に付き添われて
去って行った。


死刑執行とその後

菊地は再び東京拘置所に戻った。
脱獄から1ヶ月が過ぎた昭和30年6月28日、
かねてから菊地が出していた上告が最高裁に棄却された。
この時点で菊地の死刑は確定した。

今度は懲罰(ちょうばつ)房に入れられ、
同じ拘置所内の人間の前にも姿を現すことはなかった。
11月21日、菊池は仙台へ押送(おうそう)された。
当時、死刑執行施設がなかった東京拘置所では、
死刑確定者は宮城県の宮城刑務所仙台拘置支所へ送られ、
そこで刑を執行することになっていた。

「仙台送り」と呼ばれ、死刑の代名詞として受刑者たちから
恐れられていた時代である。
普通は情緒の安定などが考慮されて、
仙台で数ヶ月を過ごした後に刑が執行されるのだが、
菊池の場合は仙台の押送前に花村四郎法相によって
執行命令が出されていたために、
仙台に着いた翌日の朝11時半に刑が執行された。

菊池も覚悟は出来ていたようで
「いろいろと迷惑をかけましたが、私が死ねば
家族も明るい生活が送れるでしょう。」と言い残し、
処刑場に向かった。

この当時には、全国あちこちの刑務所や拘置所からの
脱獄が何件も起こっている。
しかしほとんどの脱獄者が、その日のうちか翌日には
捕らえられており、中には6日間逃げた者もいるが、
それにしても菊池の11日間というのは
異常な記録となっている。


Author :現代事件簿



天城越え 弦哲也/石川さゆり




君は吉野の千本桜、色香よけれど、
気(木)が多い



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる
 
 
 
 

Furo611