流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

漢の韓信

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


こうして、こうすりゃ、こうなるものと、
  知りつつ、こうして、こうなった


メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.


Kanshin021111 韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
国士無双」「背水の陣」
「四面楚歌」
そんな彼を描いた小説。 

  
 
 
漢の韓信-(121)
なぜ、あれしきのことで……。
韓信には蒯通が狂人を装った際に、どうして
自分が落涙したのか、よくわからない。
見捨てられた、と思ったのか。それとも蒯通を
そこまで追い込んだ自分が許せなかったのか。

「私は、本当に気がおかしくなられたのか、と思いました」
蘭はそう言って、口をつぐんだ。
韓信は、自分がなぜ泣いたのか不明であったが、
それ以上になぜ蘭が泣いたのかが、よくわからない。
「蒯通さまは……ずるいお方です」
韓信がそのことを問いただしても、蘭はそれ以上
言おうとしない。言えば、蒯通を誹謗することになる。
自分が言えば、韓信は本気で蒯通を
斬ろうとするかもしれない。
蘭は、そのようなことは避けたい、と考えた。

「……私は、若い頃から決断力に乏しく、
師からよく嘆かれたものだ」口を閉ざす蘭を相手に、
韓信は切り口を変えて会話を続けようとした。
ちなみに韓信がいう師とは、栽荘先生のことを指すのであって、
劉邦項羽、あるいは項梁などの上官を指すのではない。

「師がおられたのですか? 初耳です」
蘭は興味を覚えたようだった。
「私は幼いころに両親をなくし、みなしごとなった。
その人は私の師であると同時に、親代わりでもあった。
しかし、それはともかく」韓信には栽荘先生にまつわる話を
する気は無いようで、内心蘭は拍子抜けしたが、
まさか話の腰を折るわけにもいかない。

自分と韓信の関係は恋人以上であると自負していたが、
それ以前に王と臣下なのである。臣下である以上、
忠実でありたいし、主君の前では実直でありたかったので、
あれやこれやと詮索するべきではない。
だが、未来には昔話をする機会も訪れるだろう
……そう思う蘭であった。

「蒯先生の策には、注目すべき点がいくつかあったが、
君の言う通り、やはり実現不可能なものであった。
にもかかわらず、私はそれを蒯先生に伝えることができず、
結果的に彼は逃亡した。
彼は死んではいないが、私が彼を失ったことには変わりがない。
カムジンや酈生などと同じように……
私はなにがいけなかったのだろう?」
「まず、あらためて将軍がなぜ実現不可能だとお思いになったか、
その経緯をお聞かせください」
「ああ……」韓信は、話し始めた。

「私の勢力範囲は、趙・燕を含めれば、確かに
漢・楚に対抗できるものである。蒯先生の持論は
これら三者の武力均衡によって、天下に安定をもたらす、
というものであった」
「はい」
「しかし、天下に存在する勢力はこれら三国だけが
絶対的なものかというと、実のところそうではない。
梁の彭越や淮南の黥布が黙って見ているはずがないのだ。
私が自立すれば、彼らも同様の動きを見せるのは、
自然な成り行きだ」

「将軍が自立すれば、彼らも漢から独立すると……? 
でも将軍の勢力範囲と彼らのそれには、
格段の違いがありますね」
「確かにそうだ。だが、三国の武力均衡で天下の
安定を目指すからには、四国めや五国めがあってはならない。
彼らの動き次第で、武力の均衡が崩れるから……。

たとえば、私が彼らと同盟を結んだとすれば、
その勢いは漢を上回り、楚を上回ることになるだろう。
そうすれば漢と楚は手を結び、ともに私を
滅ぼそうとするに違いない」

「項王と漢王が手を結ぶことが、あるのでしょうか。
私はそこまで考えが及びませんでした」
「……項王からそれを言い出すことはないかもしれない。
しかし、漢王は、やるだろう。
あの方は、目的のためならば自らの感情を押し殺して
行動に移せる。

それまでの項王との軋轢や、私との友誼を投げ捨て、
項王に頭を下げてまでも誼を結ぼうとするに違いない。
これは……たやすく真似できることではない。
私があの方に及ばない理由が、そこにある」
「将軍は、漢王に及ばないと?」
「及ばない。とても及ばぬ」

「項王には?」
「項王は、どうであろう。……近ごろよく思うのだが、
項王は私と似ている。いや、私が項王と似ていると
言った方がいいかもしれないな。
私が思うに、項王は信念の人だ。
自分の価値観を信じ、それに従わない者と戦うことを辞さない。
私に彼ほどの武力や勇気はないし、
彼ほどの絶対的な価値観はない。
しかし、ひとりよがりなところだけは似ている、と思われるのだ」

「それはどうでしょう? 私には、項王は欲望の人と思われます。
もっとも実際に接したことはないので、はっきりとは申せませんが。
項王は天下に覇を唱えることが目的で、
対抗する者と戦う、それだけです。
漢王も同じで、天下に覇を唱えるために、
かつての味方も敵に回し、敵も味方に引き込もうとする、
それだけです。

そこでおうかがいしたいのですが、
このお二方に共通するものはなんだと思われますか」
「……なんだ、わからぬ」
「このお二人は、目的があまりにも壮大なために、
常識が見えなくなっているのです。
目が眩んでいるといっても差し支えないかと……」

「はっきり言う。しかもとてつもなく大胆な発言だ」
「蒯通さまの間違いは、将軍がこのお二人と
同類の人種だと思って行動したことでございましょう。
蒯通さまは将軍のことを見誤ったのです。
あの方は、最後までそのことを認めようとしなかった。
おそらくご自分でもわかっていたはずなのに……。
ですから、そのことから生じた結果に、
将軍が頭を悩ます必要はございません」

「なるほど……だが私は本当に彼らと違うのだろうか」
「将軍……違うに決まっています。将軍は
王を称するために戦ってこられたのではありません。
天下に覇を唱えるために数多くの死地を
くぐり抜けてきたわけではありません。
将軍は国をつくることよりも、個人として平和を
望んだゆえに戦ってこられました。

だから、この場に至っても漢王との友誼を重んじて裏切らず、
死んでいった者を思っては悲しみ、
思いが通じず去った者を思っては嘆くのです。
これは、目的に目が眩まず、未だ常識にとらわれている証拠です。
ですが思い違いをなさらないように。
これは欠点ではなく、美徳なのです」

「ふうむ。では私の目的意識は小さい。
小さいがゆえに普通の人間として振る舞うことができる、
というわけだな。確かに私は気宇壮大な男ではなく、
武将として世に立ちたいと思ったのも、
単にそれが私に向いていると思ったからであった。
そしてその先のことは、あまり考えていない。

世間は……私を笑うだろうな。このような思慮不十分な男が、
王を称したと」
「笑う者には笑わせておけばよろしいかと。
将軍はそのような者は好まないとは思いますが」
「ああ。嘲りは大嫌いだ。それをする者も……嫌いだ」
「嫌いなのが普通なのです。ですが、人は王位に固執すれば、
それにも耐えるようになります。漢王のように。
どうしても耐えられなければ、嘲る者を
滅ぼそうとするでしょう。項王のように。

私は……将軍にはそのような生き方をしてもらいたくありません」
「しかし……私は、すでに王となってしまった。
これから先、私が自分自身を失わずに生きていくためには、
どうすればいいのか」
「将軍が漢王に味方すると決めたからには、
漢の統一に最善を尽くすべきです。
そして……漢が楚に打ち勝った暁には、
大国の領有など必要ありません。
斉国など漢王に差し出してしまうのがよろしいでしょう。

そして将軍はそのかわりにどこか小さな封地をいただき、
存在を誇示しながらも、そこで自由に
暮らすのがよいかと存じます」

「……そうか……それはいい。静かな、
穏やかな暮らしが目に見えるようだ」
「将来そのような地で将軍とご一緒に日々の暮らしを
営むことは、私の夢でもあるのです」

「……夢か。……いい響きの言葉だ。
今日から私もその夢を共有し、実現のために
努力するとしよう」
「はい。でもあまり固執なさらずに。
固執が過ぎると、目が眩みます」

韓信はそれから気を取り直したように、
何度か斉から出撃しては、楚の後背を襲い、
小さな戦果を積み重ねた。
梁の彭越の行動にあわせたのである。
項羽は態度にこそ出さなかったが、
これを受けて漢との和睦の必要性を気にし始めた。

つづく

Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.



愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、
歌は世につれ、世は歌につれ、
人生、絵模様、万華鏡…



『みだれ髪 』




人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、言えば、……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる


P R
    カビの生えない・きれいなお風呂
    
    お風呂物語