流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

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幸せがつづいても、不幸になるとは言えない
 不幸がつづいても、幸せが来るとは限らない


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子を持つも持たぬも人の宿命(さだめ)なり 
日に日に努めて行かむ
あなたの人生なんだから好きなように
お行きなさい(生きなさい)


『子猫のリボン』

「ねぇ、ねぇ、お母さ~ん」
杉田良子が洗濯物をたたんでいると、 玄関から
娘の葵の声がした。
「なに、なに?」 「来て来て、お母さん」
今度は、弟の翼の声。小学3年と2年だ。
二人とも、 ちょっと甘えた声がする。
(こういうときは、何かねだろうとしているに違いない)

そう思いつつ、良子は玄関へ行った。(やっぱり)
葵と翼の両手には、子猫が抱かれていた。
「ねえねえ、かわいいでしょ」
葵の腕の中には、茶色のトボケ顔と、真っ黒な二匹の子猫。
翼は、茶色だが鼻に黒の大きな点々がある、
ちょっと不細工な子猫を抱いていた。
「だめよ、うちは飼わないからね」
「ええ~」子猫を拾ってきたのは、これが初めてではない。
「うちでは飼わない」と言い聞かせてあるのに、まただ。
こういうことは、最初が肝心と、良子はビシャリと言った。

「さあ、行くわよ。拾った場所を案内しないさい!」
「ええ~いやだよぉ」そう言う二人を置いて、
サンダルに履き替えて表に出た。
二人は、子猫を抱えて渋々付いてくる。
そこは、角のマンションのゴミ置き場だった。
(やだ、こんな所に)良子は少し腹が立った。
猫を捨てるにしても、 ゴミ扱いとはどういうことだ。

しかし、子猫が入っていた段ボールの箱を見て、
その憤りも和んだ。
テープで、はがきサイズのこんな張り紙がしてあった。
「すみません。どうしても飼えない事情があり、
どなたか育てていただけないでしょうか。
保健所に持っていくわけにもいかず困っております」

「ねえねえ、お母さん。これなんて読むの?」と翼が聞く。
「あっ、私読める。ホケンジョだよね」
「ねえねえ、ホケンジョがどうしたの?」
そう訊く翼に、良子は言葉が詰まった。
まさか、殺処分されるとは言えない。それを無視して言う。
「ここに戻しておきなさい。きっと、誰かが拾ってくれるわ」
葵がすがるように訊く。「どうしてうちでは飼っちゃいけないの?」
「お父さんが猫は苦手なのよ!いいからそこに置いておきなさい」
二人は、三匹の子猫を段ボールに戻した。
中には、捨てた人のやむをえない気持ちを表してか、
真新しいフリースが敷いてあった。

本当のことを言うと、良子も猫が好きだった。
しかし、子供の頃の体験が、心に辛く残ったていた。
葵と翼と同じくらいの頃、近所の公園に捨てられていた
子猫を拾って帰った。 真っ白な猫だった。
母親は反対したが、 父親の「ちゃんと世話できるか」の一言で
飼うことが決まった。

真っ白だから、シロと名前を付けた。
喜んで、風呂場で体を洗ってやった。
ミルクを飲ませる。ところが、一口も飲もうとしない。
晩秋のことで、体が衰弱していたのだ。
拾った箱の中には、 最初は何匹もいたに違いない。
残された一匹。 ほんの1日、いや数時間のことが
子猫たちの運命を変えたのだった。

何も口にしないまま、翌朝には冷たくなっていた。
良子は泣いた。どこからこんなに涙が出てくるのか、
不思議なくらいに泣いた。庭の片隅にお墓を作った。
父親が穴を掘り、丁寧に埋めてくれた。
良子は以来、一度も生き物を飼ったことがない。

夕方、子供たちの部屋を覗くと、二人でなにやら作っている。
「何してるの?」 「あのね、子猫のね、リボンを作ってるの」
「それ、大事にしてたやつじゃないの?」
葵が手にしているのは、この前、 お誕生会で友達からもらった
プレゼントに結んであったピンクのリボンだった。

「お姉ちゃん、これ結んだら拾ってくれるの?」
「きっと誰か拾ってくれるわ」 「ほんと?」
「うん。でも、鈴があるともっといいんだけどな

良子は、二人がしようとしていることを察して胸が痛くなった。
子猫の首にリボンを巻こうというのだ。 そうすれば、
より可愛くなって、誰かが拾ってくれるに違いないと。
「よし、できた。つばさ、行こう!」 「うん」
「お母さんも付いていくわ」

3人は、先ほどのマンションの前まで駆けた。
ところが・・・。子猫の姿も、あの段ボールも無くなっていた。
(え!? まさか保健所?)
そう思うと背筋がゾクッとした。

(おや?)ゴミ置き場の壁に、新聞の折込チラシの裏面を使って、
走り書きが貼り付けてあった。
「この近くの家の者です。ここにいた子猫ちゃんたちは、  
わが家で育てることにしました。どうぞ、ご安心ください」
良子は、思わず、「よかったね~」と屈んで
二人の子を両の腕に抱きしめた。

Author:志賀内泰弘



『もう二度と行かない! 』

浅倉セツコは、夫の忠臣がトイレに行っている間に、
ボソッと呟いた。「もう二度と行かない!」
こうなることは予期していた。でも、夫の方から、
久し振りに「旅行に行こう」と言われて、ついつい
、「いいわね、私も腰が痛いから温泉にでも
入りたいと思っていたのよ」と答えてしまったのだった。

忠臣は昨年、自動車部品メーカーを退職した。
二人の息子も結婚して家を出て行った。
セツコ自身は、子育ての手が離れた頃から始めた
地域のボランティア活動で毎日が忙しい。
しかし、仕事が無くなって暇になった夫は、一日中、家にいる。
どこか寂しそうだ。その同情が間違いの元だった。

とにかく、忠臣は愚痴っぽい。何を見ても
人の批判・非難ばかりするのだ。
今回の旅行は、そのオンパレードだった。
タクシーに乗ると、「運転手の態度がなっとらん!」と怒る。
行き先を告げると、 「チェッ、そんな近いところ・・・」と…
それに忠臣がムカッとして、「何だって!」と口にする。

慌ててセツコが、「すみませんね~、近くて。
荷物を持つと膝が痛くてねえ」と取り成す。
レストランに入っても大変だった。 注文したものが、
なかなか出てこない。と
「お~い、あっちのお客さんより先に注文したじゃないか」と
店員に大きな声で言う。
セツコはその度に、 顔から火が出そうな思いをする。

それだけではない。店を出た後も、ずっと、
「さっきのレストランの経営者は、いったいどんな
教育をしてるんだ!」
「ウエイトレスが茶髪とは何事だ!」
「よっぽど言ってやろうかと思ってたが、
置いてあった雑誌が1年も前のもんだった」などと、
ブツブツ批判ばかりするのだ。

駅のホームで電車を待っていれば、「にタバコの吸殻が落ちてる。
駅員は掃除してるのか!」ベンチの脇に空缶が
転がっているのを見ると、「どうせ学生が捨てたんだろう」と、
ずっと愚痴ばかり。
セツコは、それを耳にするだけで、ぐったり疲れ果てていた。

特急がホームに入って来た。 指定席に二人並んで座り、
駅で買った弁当を広げた。カニがびっしりと乗っている。
セツコには、見本よりも美味しそうに見えた。
また忠臣が何かケチでも付けるといけない。先手を取って
、「まあ、美味しそう。いただきます」と言い、口に運んだ。

忠臣は、何か言いたそうな素振りだったが、
お腹が空いているせいか、黙々と食べ始めた。
食事を終えて、ふと、通路をはさんだ横の席を見ると、
出張らしき二人の中年サラリーマンも、
セツコたちと同じ弁当を食べ終えたところだった。
椅子の中に格納できる小さなテーブルの上には、
それぞれ二本ずつの缶ビールが置かれてあった。
きっと、商談が上手くいったか。乾杯したい気分だったに違いない。

「あとは納入時期だけですね・・・」などと、上機嫌な声が
漏れ聞こえてくる。 しばらくして、その二人のサラリーマンは、
酔いが回ったのかウトウトし始めた。
つられたわけではないが、セツコも眠ってしまった。

車掌の「まもなく到着します。乗り換えのお客様は、
早めにお支度ください」 というアナウンスの声で目が覚めた
。二人のサラリーマンのうちの一人が、「いけない、
部長!もうすぐ着きます」と言って、まだ眠っていた
窓側の男性に声を掛けた。
「いかん、いかん」二人は慌てて、荷物棚から
大きなカバンを降ろし始めた。 列車がホームに滑り込む。
まだ停車していないが、慌しくデッキへ走って言った。

「私たちも行きましょうか」と忠臣に声を掛けたとたん、
「なっとらん!」と眉をひそめて怒り出した。
セツコにはまったく何のことかわからなかった。
首を傾げると、「あれを見て見ろ!あいつら、弁当のカラと
空缶をそのままにして行っちまった!  
その上、座席のリクライニングも倒したままだ。  
降りたらホームで捕まえて言ってやる」
セツコは、「困ったことになった」と思った。

以前にも似たようなことがあったのだ。
電車の中で床に車座になって座って騒いでいた
高校生のカバンを、 これ見よがしにわざと踏みつけて
大騒ぎになったのだった。

「あなた・・・せっかくの旅行なんだから・・・」と言いかけた、
その時だった。セツコたちの斜め前に座っていた青年が、
二人のサラリーマンが座っていた席に入り込んだ。
そして、座席の前の網ポケットに突っ込んであった
カラの弁当と空缶をサッと取った。
そして、手にしていたスーパーの大きなレジ袋に詰め込んだのだった。
さらに、リクライニングを元の位置に戻した。
背中にはリュックを背負っており、 どうやら一人旅をしているらしい。
あまりにも自然で、あまりにもさりげない動作だったので、
セツコはあっけに取られてしまった。

人の批判や非難ばかりする夫と、雲泥の差である。
「あなた、見ましたか?」と振り向いて忠臣を見た。
ついさっき「ホームで捕まえてやる」などと叫んでいた怒りが、
その顔から消えていた。
いつも腹を立てるばかりで、何もしない夫。
それに比べて・・・。青年の姿がキラキラと眩しく見えた。
セツコが、「立派ですね」と忠臣に言うと、ポツリ。
「ああ、そうだな」セツコは、心の中で呟いた。
(あなたも、少しは反省しなさい!)

Author:志賀内泰弘




 『置き忘れた喜び』




時は絶えず流れ、
 今、微笑む花も、明日には枯れる


添うて苦労は覚悟だけれど、添わぬ先から、この苦労

 
P R
    カビの生えない・きれいなお風呂
    
お風呂物語 
  入れてもらえば気持ちは良いが、
  どこか気兼ねなもらい風呂

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