流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編


妄想劇場・特別編
信じれば真実、疑えば妄想……

 
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ミステリー

 

 
『一緒に住めない』

貴臣(たかおみ)はショックだった。
間違いなく、妻の幸恵はオーケーしてくれるものと
思っていた。それなのに、「私、お義母さんとは
一緒に住めないわ・・・ごめんなさい」と
言われてしまったのだ。

一年前、貴臣の父親が亡くなった。
ほとんど、急死といってもいいほどの出来事だった。
勤め先を退職してから、
地域のボランティアをして暮らしていた。
NPОを立ち上げて、もっと大きな組織に
するんだと口にしていた矢先のこと。
早朝に公園の清掃活動をしていて、
心筋梗塞に襲われた。
救急車で病院に運ばれ、九死に一生を得た。
しばらくは安静にと言われ数日後に退院。

ところが、その翌朝も清掃活動に出掛けてしまい、
再び発作が起きた。今度は助からなかった。
母親は、かなり参っていた。
貴臣は、昔から両親のケンカする姿を
見たことがなかった。
よく二人で旅行にも出かけているようだった。
それだけに、ポツンと一人になった母親は、
寂しそうだった。

そこで、「一緒に暮らそう」と持ちかけた。
母親は、「一人が気楽でいいから」と言い、
断られた。それは最初からわかっていた。
貴臣が結婚したときから、
ずっと口癖のように言っていたからだ。
「あなたたちは、あなたたち。
わたしたちは、わたしたち。
別々が上手くゆくのよ」
人に気を遣われるのが嫌いなのだという。

しかし、今度は事情が違う。
母親も、もうすぐ70歳になる。
持病のリウマチと糖尿病も心配だ。
無理やりにでも、連れて来るつもりだった。

ところが・・・。「私、お義母さんとは
一緒に住めないわ・・・ごめんなさい」
「え?・・・なんでだよ」
貴臣と幸恵には、二人の子供がいる。

一人は19歳の男の子。
すでに大学へ入って下宿生活をしている。
もう一人は高校3年の女の子。
推薦入学が決まり、
こちらも春には家を出る予定だ。
手のかかる子供もいなくなる。

何より、貴臣が安心していたのは、
幸恵と母親の良子の間に、
世間で言うところの「嫁と姑」の間の
いさかいがないことだった。
不思議なことに、結婚当初から
二人は気が合ったようだった。
待ち合わせて、二人で
ショッピングに出掛けたり、
双方の家を行き来したり。
貴臣の存在抜きで、よく会っていた。

(それなのに・・・なぜ?)
「あなた、仲が悪いはずがないのに、
なぜ?って思っているでしょ」図星だった。
「あ、う、うん」
「あなたはノンキでいいわね」
「え?」
「嫁と姑だもの、何もないわけないじゃないの」
幸恵は、ちょっと張りつめた口調で言った。
貴臣は、一瞬、ビクッとして妻の目を見た。

「大丈夫よ、なにもケンカしてきたわけじゃないもの。  
ううん、一度もケンカしたことないわよ、
「・・・」 「でもね、それはね、
お義母さんと私がね、
お互いに努力してきたからなのよ」
「え?! どういうことだい」
「やっぱりね・・・」
普段は見せない幸恵の厳しい瞳があった。
「そこがあなたのノンキなところなのよ」
「どういうことだよ!」
貴臣はちょっとムッとした。
キッチンの片付けをしながら話をしていた幸恵は、
手を休めて、貴臣に向き合うようにして
テーブルに座った。

「いいわ、この際だから、きちんと言ってあげる」
「・・・なんだか怖いなぁ」
あまりの緊張感から、おどけて言うと、
「ふざけないで、真剣な話よ」
「う、うん。わかった」
「あのね、結婚したすぐの頃にね、
お義母さんからこう言われたのよ。  
『貴臣は、ボーとしていて、
人の気遣いができない子供なの』って」
「え! なんだって」
「いいから、聴いて」
「う、うん」幸恵は話を続けた。

「お義母さんが言うにはね、もし私とお義母さんが  
『嫁と姑』の問題でケンカをしたとしてもね、  
貴臣はまったく仲裁ができないし、
それどころか、ひょっとすると
気が付かないかもしれないって」
「なんだって! オフクロがそんなことを言ったのか? 
いつだよ」
「いいから聴いてよ・・・まだ話の続きがあるの」
「・・・」貴臣にはまったく寝耳に水の話だった。

「だからね、お義母さんはね、
あまりお互いの生活のことを
干渉しないようにしましょうって 提案されたのよ。
もし何か意見が違うことがあってケンカをしてもね、  
貴臣はアテにならないから
二人で解決しましょうってね」
「おいおい・・・」
「だからね、仲よくは無理でもね、
できるだけ私とお義母さんは  
おしゃべりする機会を作るように努力してきたのよ
・・・わかる?」

初耳だった。母親からもそんな話を
聴いたことはなかった。
「てえことは・・・オレだけ除け者ってことか」
「う~ん、言い方は悪いけど、そういうことね。
もっと聴きたい?」
貴臣は恐々答えた。「どうせだから言えよ」
幸恵は淡々と話を続けた。

「これはね、私が言うんじゃないのよ、
お義母さんが言うのよ。い~い」
「あ、ああ」 「あなたね、
お父義さんとお義母さんの誕生日に
何かプレゼントしたことある?」
貴臣はドキッとした。プレゼントをしたことはある。
しかし、それは、たしか小学生のときのことだ。
中学になっても、プレゼントしたかどうかまで
覚えていない。

「父の日とか、母の日とかに、
いつも私がプレゼントの手配をしているでしょ」
「う、うん、仕事が忙しくて、
お前に任せきりで悪いとは思ったけど」
「じゃあさ、父の日や母の日に、
私の両親に、何か買ってくれたことある?」
貴臣は、もう何も返事ができなかった。
全部、妻に頼んでいたからだ。
もちろん、お金だけは出していたが・・・。

「お義母さんは言うのよ、今でもね。  
貴臣は自分のことしか見えない子だから
ごめんなさいって」
まるで糾弾されているようだった。
妻の口調が、厳しくないことが逆に辛かった。
「いいのよ、今さら責めているわけじゃないもの。  
でもね、そういう人の努力を知らないでいて、  

『一緒に暮らして欲しい』って言うのは
都合が良過ぎるの。  
第一、お義母さんは同居を望んでないでしょ」
「う、うん」幸恵は、席を立つと番茶を淹れた。
貴臣の前にも湯呑を置く。
ほんの10秒ほどが、何十分にも思えた。

沈黙の中、電話が鳴った。
トゥルルル、トゥルルル。
その場の空気から逃げるようにして受話器を取った。
「はい」 「ああ、貴臣だね」
「お母さん」からの電話だった、
「ちょっと、幸恵さんと代わってくれない?」
「いいよ、ここにいるから」
貴臣は、電話を幸恵に代わった。

「こんばんは、お義母さん・・・
は、はい。いいえ、いつもの気持ちです。  
はい、はい。いいえ、とんでもない。
元気ですよ・・・はい。じゃあお休みなさい」
それだけ言うと受話器を置いた。
「何だって、オフクロ?」
「・・・」またまた沈黙。
貴臣は、小さな声で、もう一度訊いた。
「何か特別なことか?」

「仕方がないわね・・・いい機会だから、
ちゃんと話してあげる。
お義母さんから私にね、お礼の電話なのよ」
「お礼?」
「そうお礼。毎年ね、お義父さんにね、
バレンタインデーの日にはチョコレートを
贈っていたのよ。でも、亡くなったでしょ。
だからね、仏壇にお供えしてもらおうと思って、
今年もチョコレートを贈ったのよ。  
お義母さんがね、
『お父義さん、天国できっと喜んでるわよ』って、
そういうお礼の電話なの。わかった?」

そう言うと、幸恵はキッチンの棚から、
一つの小さな包みを持って来て、
貴臣の前にそっと差し出した。
「はい、あなた」それは、神戸に本社がある
洋菓子屋さんの包装紙だった。
「責めてるわけじゃないからね、
わかって欲しいだけなの」
「食べてもいいかな」
「うん、コーヒー淹れましょうか」
「ああ、・・・いや、オレに淹れさせてくれ」
「じゃあ、お願いしようかな」
「一緒に食べてもいい?」
「も、もちろん」
コーヒー・カップの湯気の向こうに幸恵に言った。
「オヤジのこと、ありがとう」
「うん」 「それから・・・オフクロのこと、
これからもよろしく」
「もちろん」
貴臣の口の中で、チョコレートがトロリと溶けた。
とても、甘くて少し苦くて、切ない味がした。


Author :志賀内泰弘




【叱るは愛情】



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる









furo
P R

きれいなお風呂・宣言 

お風呂物語