流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

韓信

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


こうして、こうすりゃ、こうなるものと、
  知りつつ、こうして、こうなった


メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.


Kanshin021111 韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
国士無双」「背水の陣」
「四面楚歌」
そんな彼を描いた小説。 

  
 
 
漢の韓信-(120)

国家間の抗争に信義則はないとでも言えそうな出来事が、
この当時に交わされた楚・漢の和睦であった。
この文化圏に住む人々にあっては、敵対する相手に
真情で向き合うという習慣は、古来からない。
彼らは常に相手を不倶戴天の敵と認識し、
互いの利益を尊重しあって共存するなどという意思を、
露ほども持たなかった。

そのため、歴史上たびたび交わされた同盟関係は、
どれもたやすく瓦解している。
しかし一概に彼らを愚か者と評することはできない。
彼らは自分たちの勝利のために、最善を尽くしたのである。
たとえそのために後世から悪評を受けることになろうとも、
それを甘受する覚悟を持っていたのである。

広武山に陣する項羽のもとに、武渉が韓信の説得に
失敗した知らせが入った。
韓信は、わしに味方せぬ、ということか。さもあろう」
傍らに控える鍾離眛は、思案を巡らせては見たものの、
良い案も浮かばず、押し黙っていた。
「味方でない者は、敵である。敵は滅ぼすもの。
……韓信を、斉を攻撃せよ」

―やはり、こうなるのか。
項羽の命令を聞き、眛は嘆息した。
項王の思考は単純すぎる。今この状況で、
これ以上兵を割くわけにいかないことがわからないのか。
「漢との対立が長引き、軍糧も不足している今、
斉を攻撃する余裕はございませぬ」
眛はそう言って再考を促した。

配下の将軍に過ぎない立場の自分としては
行き過ぎた言動である。しかし、それをわかっていながら
言わずにはいられない眛であった。

「彭城の兵を北へ差し向け、斉の動きを牽制するのだ。
韓信をここへ来させてはならん」
「しかし、韓信の動きに気を取られ、彭城の守備が
手薄になれば、西の彭越、南の黥布に行動の自由を
許すこととなります。
奴らはこれ幸いとばかりに彭城へなだれ込むでしょう」

これが漢の軍略の妙であった。
項羽が目前の劉邦率いる本隊にばかり気を取られている間に、
別働隊が諸地方を制圧し、いつの間にか楚を取り囲む。
眛にはその軍略が完成の時を迎えているかのように思えた。
「その時は、以前のようにわしが兵を返し、彭城を奪還する。
まして今、劉邦は倒れた。死んだかどうかは定かではないが、
傷つき動けないことは確かだ。
漢に最後の一撃を加えてこれを殲滅し、
疾風のごとき早さで彭城に帰る。できぬことはない。
なにを思い煩うのか」

このときの項羽の表情は、いつもの激情家のそれではなく、
傷つけられた少年のようなものだった。
眛は項羽に対して、韓信の懐柔を諦めるべきではないと
言いたかったのだが、結局その表情を見てなにも
言うことができなかった。

項王は本来、武の人である。
考えてみれば、その項王がかつて自分のもとを去った韓信に、
頼んでまで戻ってきてもらう立場をよしとするはずがない。
……思えば、悲しいものよ……。
項王や漢王、韓信らの戦いは、天下の命運を左右する……
しかし、同時にそれは単なる男の意地の
ぶつかり合いに過ぎぬかもしれぬのだ。
眛は立ち去っていく項羽の背中を見つめながら、
そんなことを思うのであった。

居室に戻った項羽を、ひとりの若く、美しい女性が出迎えた。
しかし彼女は、項羽の姿を見ても、型にはまった
挨拶の口上などは述べたりしない。
ただ、にこりと微笑んでうやうやしく頭を下げるだけである。
「やあ……待っていたのか」
項羽の言葉に女性は、微笑みながらこくりと頷き、
恥ずかしそうに下を向いた。
それを見ると項羽は、なんとも表現しようのない
幸福感に満たされるのである。

「お酒を……いま、お持ちいたします」
そう言って立ち上がった女性の姿は、驚くほど細い。
巨漢の項羽と並べると、ひとすじの糸のようであり、
見るからに繊細な、壊れやすい細工品のようであった。
項羽は、繊細なものが好みであった。
自分が支えてやらなければ存在できぬもの、
余計な理屈抜きで自分に庇護を求めるもの、
自分を愛してくれるものを無条件で愛した。
この女性はその典型であり、名を虞(ぐ)といった。

項羽は虞に対して、たまに天下の動静の話をする。
このときも、「劉邦は倒れ、もう少しで漢は滅ぶ。
そうすればわしは東に走り、斉の韓信を討つだろう。
それで天下の趨勢はほぼ定まる」などと話したが、
虞はこれに対し、やはり微笑みを返すだけであった。
項羽が虞を愛する理由は、この邪心のない
微笑みだけで充分であった。

虞の手から注がれる酒を受けながら、項羽は考える。
なぜ、世の人々は、この女のようにわしのことを
受け入れることができぬのか。わしを愛せば、
わしはその愛を裏切りはしない、というのに……。

驚くことに、暴虐を謳われた項羽は、
自分のことを愛されるべき人間だと信じていたのである。
貴族として生まれた者に特有の考え方であろうか。
しかし実際に彼は、自分の庇護の下にある者の
信頼を裏切ろうとしたことはない。

かつて韓信項羽のことを自分の部下に対して
吝嗇な男だと評したことがあったが、事実そうであったかは、
疑わしい。要するに項羽の寵愛の度合いが
低い者にとっては、自分に対する扱いが他者に比べて
ぞんざいなものに思えるだけであって、
この種の批判の矛先は、項羽に限るものではない。

わしをけちな男だと評するのは、わしの愛を
受けるべき資格を持たぬ奴らばかりだ。
……そして、そのような奴らはいまに滅びる。
項羽は平素そのようなことを考えていたが、
このとき夕日の赤い光を浴びた虞の神々しいほどの
美しさを見ると、それは確信となっていった。

わしを愛するこの虞の美しさは、どうだ。
まるで神のようだ。神が滅びることなどあり得ぬ。
その思いが、神でさえ自分を愛するというのに、
自分を愛さぬ者が滅びぬはずがない、という思いに転じた。

劉邦は、あのまま死ぬに違いない。
項羽には自分を愛さない者の末路が
見えたような気がした。

つづく

Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.



愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、
歌は世につれ、世は歌につれ、
人生、絵模様、万華鏡…



『母きずな 』





人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、言えば、……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる


P R
    カビの生えない・きれいなお風呂
    
    お風呂物語