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流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……

Mituo2_2
昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー
 


『祝辞』

浅田賢一は、夕べからずっと痛みに耐えていた。
以前、治療をした奥歯がズキズキするのだ。
それは、今回に始まったことではない。
年に2、3回、こうしたことが突然起こる。
最初は歯医者で診てもらったが、
虫歯ではないという。
疲れが溜まると、血流が悪くなって
歯茎が腫れるらしい。
根本的な解決をするには、
方法は一つ。抜歯だ。
賢一はそれが嫌で、鎮痛剤でごまかしてきた。
その日は、会社の後輩の結婚式だった。
痛みで眠れなかったので、夜中の3時に
鎮痛剤を飲んだ。 それがいけなかった。
気が付くと午前9時半。
目覚ましを止めてしまったらしい。
「なんで起こしてくれなかったんだ! 
言っといただろう」
「あ・・・ごめん。なんだか身体が重くて、  
私もぐっすり眠っちゃったの。
急いで朝ごはん作るわ」
「もういいよ」ベッドから起き上がろうとする
妻の陽子に、怒鳴り声になりそうなのをグッと堪えて
寝室から飛び出した。慌てて礼服に着替える。
朝めしどころの問題じゃない。
髭も剃る時間がない。
シェーバーをセカンドバッグに入れた。
会場のトイレで剃ればいい。
「ええっと、ご祝儀はあるな・・・
ケターイ、ケターイ、よしよし」
二度、電車を乗り継ぎ、なんとか
披露宴の席に間に合った。

賢一は、ずっと、しかめっ面をしていた。
「おい、そんな顔してちゃ嫌がられるゾ」
2人目の祝辞が終わった拍手の最中に、
円卓の隣の席に座っている課長に、
耳元でコソッと言われた。

「い、いえ、そうじゃなくて・・・
夕べから歯が痛くて・・・」
「なんだよ、そうか。俺はまた、
うちの社長のスピーチが長くて詰まらんから
ムカムカしてるんじゃないかとか思ったぜ」
「うん、それもありますけどね」
「そうだろ!」社長は、「スピーチは
短い方が好かれるので、 簡単に
お祝いの言葉を申し上げます」と言いながらも
10分以上もダラダラと話し続けた。

それも、大半は景気の話だ。
しかし、この後に続けて祝辞に立った来賓には
かなわなかった。
新婦の大学の恩師だという。
場の空気が読めないというか、
延々と自分の研究の自慢話を始めたのだ。
賢一は、ますます歯が痛くなり、
セカンドバックから鎮痛剤を取り出そうとして
ハッとした。
急いでいて、忘れて来てしまったのだ。
よけいにイライラしてきた。
「おい、何カッタカッタやってんだよ」
またまた、隣の席の課長に言われた。
歯の痛みと、長いスピーチで知らぬ間に
貧乏ゆすりをしていたらしい。
賢一は、「早く帰りたい」と思った。
長い長~いスピーチが、ようやく終った。
次はようやく乾杯だ。
「乾杯のご発生は、新郎の高校時代の
恩師でいらっしゃいます、本田幸太郎様に
お願いいたします。
それでは、本田様、よろしくお願いいたします」
司会者に促されて登場したのは、
白髪の老人だった。
とぼとぼと、ゆっくり前へと出てきた。
手にはステッキを持っている。
足が少し不自由らしい。
「いけない」とは思いつつも、心の中で
「早く乾杯しちまぇ」と呟いていた。
しかし、本田という名の老人は、
シャンパングラスを手にして、
こんなことを言い出したのだった。

「え~、オホン。乾杯の前に一つだけ、
新郎新婦のご両人に、  
円満な夫婦生活を送るための
アドバイスをしておきたいと思います。
オホン」賢一だけでなく、「またかよ~」という
空気が会場に広がった。

それを知ってか知らずか、老人はグラスを片手に
喋り始めた。
「わたしが昔、う~ん、もう50年以上も
前のことになりますかな。  
うちの婆さん・・・いや失礼、
妻と一緒になりました時のことです。  
当時は貧乏でしたからね、いや私がではなく、
日本中が貧しかったから、  
こんな立派なところで披露宴なんてできんかった。  
近くの神社の社務所を借りて仕出し屋から
料理を取ってやったもんでした。・・いや失礼」

やっぱり長くなりそうだ。
賢一は、 ますます痛くなってきた右頬に
手を当てて、溜息をついた。
「その披露宴の席でね、私の母親の一番下の
兄が祝辞をしてくれまして。  
それが今でも忘れられんのです。
それを今日はですねぇ、ここにいるお二人に
贈りたいと思うしだいです」

どの席の出席者も、「これは長くなるなあ」と
覚悟を決めた様子。
老人は、マイペースで語り始めた。
「その母の兄というのは、私が幼い頃から
ずいぶんと  私のことを可愛がってくれましてな。
本当は『おじさん』なんですが、
年もいくらか近いこともあって
『お兄ちゃん』と呼んでおりました。  
腕のいい大工をしておりました。

お兄ちゃんは、前に出てくるなり、  
今、式を挙げたばかりの私たちに向かって
こう言うんです。『いいかい、あんたたち。
これからは夫婦だ。夫婦っていうのは  
必ずケンカをするものだ。
オレのうちも、カカアとよくケンカをする。  
なんでケンカをするかっていうと、
自分の傲を通そうとするからだ。
傲ってえのは、傲慢の傲だな。
驕りたかぶりのこと。  
オレがオレが、私が私がってえように、  
自分のことばっかり考える人間のことだな。

会場はいつの間にか、鎮まり返っていた。
老人に、その「お兄ちゃん」が
乗り移ったかのように見えた。
「でもな、傲のない人間なんていやしねぇ。  
じゃあ、どうしたらいいのかってえとな。
自分が辛い時に、辛れえよ~と言ったらオシマイよ。  
腹が立ったからと言って、怒っちまってたら
ケンカになる。
悲しいときも、苦しいときも同じさ。
つまりな、辛れえ時には、相手も辛れぇと
考えるんだな。  
自分が悲しかったら、相手も悲しいんじゃないか。  
こいつは、どんな時にも当てはまる」

出席者の中で、何組かの夫婦がお互いに
チラッと顔を見合わせて苦笑いしていた。
主賓の新郎の会社の社長は、ウンウンと
頷いて耳を傾けていた。
『だからな』って言って、
お兄ちゃんは私の方を向いてこう言ったんじゃ。  
『もし、お前が腹が痛くなったらな、
隣にいるべっぴんの嫁さんに訊いてやりな。  
「腹が痛くないかい?」ってな。  
そんなふうに毎日を暮していたら、
絶対ケンカなんかにはなりゃしねぇ・・・

賢一は、その瞬間、ハッとして妻の陽子のことが
頭に浮かんだ。
二人は結婚3年目だった。
まだ、子供はいない。
ここのところ、気にもしていなかったが、
結婚前に付き合っているときから、
陽子は偏頭痛に悩まされていた。
デートの最中に、痛みがひどくなり、
レストランで吐いてしまったことがある。
(今朝、身体が重くて起きられないって言ってたな)
賢一は、そのときの陽子の辛そうな
表情を思い浮かべた。
しかし、慌てていたので、「熱があるのか?」とか
「風邪か?」とか、 何も声をかけないまま
家を出てきてしまった。

賢一は後悔していた。
自分のことしか考えていなかった。
セカンドバッグからケータイを取り出し、
真っ白なテーブルクロスで隠れるようにして、
膝の上でメールを打った。
「洋子へ。今、披露宴が始まったところ。
ところで、大丈夫か?」と。

老人が、「そうは言われはしましたが、
婆さんとたくさんケンカしましたけどね」
それが「落ち」だった。
飄々とした口調に、 会場は
割れんばかりの拍手になった。

司会者が、「それでは皆様、
その場でご起立くださいませ」と言い、
老人は軽くグラスを掲げて、
「カンパーイ」と発声した。
賢一は、その時にはもう居ても経っても
いられなくなっていた。
司会者が、「ご着席ください」と
言い終わらぬうちに、ロビーへと
一人飛び出していた。

家へ電話をした。ケータイを持つ手が汗ばんでいた。
3回コールして、妻の陽子の声が聞こえた。
「はい、浅田です」
「ああ、オレ。オレだ」
「ああ、びっくりした。結婚式、間に合ったの?」
「う、うん」
「さっき、メール見て心配してたのよ・・・

何よ『大丈夫か』って」
「い、いや、朝さ、身体が重いって言ってじゃないか」
「う、うん。ちょっとね。風邪気味かもしれない。
のどが少し痛くて。でも大丈夫よ。
今も洗濯物干してたところ。  
これから買い物に出掛けるわ・・・

「それより、歯の具合はどう? 痛くないの?   
机の上に鎮痛剤が置きっぱなしになっていたから、
心配してたのよ。
会場はホテルでしょ。ホテルの人に言ったら、
鎮痛剤ぐらいくれると思うから、  
我慢しないで頼みなさいよ」
賢一は、思った。
「良いカミサンをもらったな」と。


《終わり》

【巷の噂話】
島田紳助が引退後恫喝した大物芸人





人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ


誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる






P R

カビの生えないお風呂

お風呂物語

furo