流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

漢の韓信-85

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー

メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!


アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.


Author:紀之沢直

kensin韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
国士無双」「背水の陣」
「四面楚歌」
そんな彼を描いた小説。 
 

漢の韓信-85


遅めの朝食の中、兵たちは口々に
韓信に質問を投げかけた。
「将軍、このたびの戦術はいったい……
私どもはなにがなんだかさっぱりわかりませんでした。
いまだにどうして我々が勝利を得たか、
よくわかりません。これは、
偶然の結果なのでしょうか」

韓信は、犬肉をほおばりながら、
兵たちの質問に答えた。
「そうだな……いや、偶然などではない。
まずは、私は君たちに謝らなければならないだろう……。
私は君たちをあえて死地に置き、
それを利用してこのたびの勝利を得たのだ。
結果は私の狙いどおりだった。
決して偶然ではない」

韓信はそう話しながら、口の中の犬肉を
吐き出しそうな素振りを見せた。
犬の肉の味が嫌いだったわけではない。
ただそれを味わうと、かつて犬の屠殺人の
股をくぐった屈辱が思い出されるのであった。

兵士はそんな韓信の気持ちにはお構いなしに
質問攻めにする。
「兵法には『山や丘を後方に、
水や沼沢を前方に陣せよ』と記されていると
うかがっております。しかしこのたび将軍は、
これとは真逆に川を後ろにして陣を構えました。

将軍の作戦は兵法に基づいたものではない、
ということなのでしょうか」
「そういうわけではない。このたびの私の作戦も
兵法に基づいたものである。
しかし、兵法には抽象的なことしか
記されていないため、君たちが
気付かないだけなんだ」

「と、いうと?」
孫子の書には『死地に陥れられて初めて生き、
亡地に置かれて初めて存する』とある。
これはちょうど君たちのことを示しているのだ。
つまり、戦いの中では死にたくないという
気持ちの強い者ほど、生き残ることができる。
このため私はあえて君たちを死地に置いた。
謝らなければならないと言ったのは、このことだ」

「なるほど」「いっぽう兵書には
『兵を死地に置いて奮闘させるためには、
川を後ろに陣構えさせよ』などということは
いちいち記されていない。
兵書にある言葉どおりに戦えば必ず
勝つというのであれば、この乱世に
敗者は存在しないだろう? 

大事なのは兵書から何を読み取るかであり、
忠実に兵書にある内容を実行すればそれでいい、
というわけではないのだ」
「趙の陳余も一説には兵書に通じていた、
ということですが……」

「我々よりも大軍を擁することができたので、
それで満足したのだろう。
確かに兵法には相手より多くの兵力で戦い、
数で劣る時は逃げよ、ということが記されている。
陳余はそれを盲信し、陣を敷いた時点で
勝ったつもりでいた。

生意気な言い方を許してもらえるならば、
彼は底の浅い男だ」韓信は陳余が嫌いだった。
苦難を共にした張耳との過去の交友を忘れ、
己の野心のみに基づいて行動した、
儒者でありながら義に疎い男。
それが韓信の陳余に対する評価だった。

また、正面から戦えば自尊心は満足させられるが、
それで勝ちを得たとしても兵は少なからず損耗し、
失わくてもすむ人命を失うことに
気付かなかったというのも気に入らない。

いらいらとしたが、肉を飲み込み、
ひとしきり気を落ち着けた韓信はさらに語を継いだ。

「私が、君たちを死地に置いた理由はまだある……。
私は、見ての通り若輩者だし、
日ごろから君たちを心服させようと
努力していたわけではない。
よって、私の号令だけでは君たちの
本当の力を引き出すのは無理だと思った。

このたびの勝利は君たちの生き延びたい、
という願いが敵兵にまさった、
それがいちばんの要素なのだ。
私は、それを少し手助けしただけに過ぎない」

「しかし、兵の力を引き出したのは、
他ならぬ将軍の知謀でございます。
とても私たちの及ぶところではございません」
兵たちは揃って韓信を祝福し、
あらためて勝利を喜んだ。

韓信は、尻が痒くなるような気恥ずかしさを感じたが、
喜びを感じずにはいられなかった。
兵士たちと気持ちを共有することができたことに、
初めて感動したのである。
しかし、やはり自分の決断のせいで
命を散らした者がいる、という事実は変わらなかった。

それは指揮官として常に背負っていかねばならない
、贖うことのできない罪であり、
逃れられない責務であった。
韓信はほんの一瞬でも喜びを感じたことに、
恥を感じた。


つづく

Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.


愚人は過去を、賢人は現在を、
狂人は未来を語る



歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…


美空ひばり・悲しい酒



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……


哀愁波止場 ♪ 美空ひばり



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる






P R
カビの生えないお風呂

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furo