流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場一樂編

妄想劇場一樂編

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


Mituo 人の為(ため)と
書いて
いつわり(偽)と
読むんだねぇ 

 
 
『タバコ止めたほうがいいですよ』
 

定例の人事異動で町田光太郎が三年ぶりに
本社に戻ると、 社内の様子は一変していた。
昨年、社内の機構改革が行われていたのだ。
三つあった営業部は、一旦シャッフルされて
二つに分けられていた。
電算課は、システム課という名前になり、
企画部の中に編入。
そのほかにも、大幅な変更があり、
支店勤務から帰ったばかりの光太郎は
戸惑ってしまった。

担当役員から辞令を受け取る。
「西日本統括営業部・サブマネージャーを命ずる」
入社して7年目。初めての役職だった。
心が引き締まる思いがした。
慌ただしい1日を終えたその日は、部のみんなが、
歓迎会を催してくれることになっていた。
もちろん、光太郎だけのためではない。
同時に、新しい部長の就任祝いや
前期の目標達成のお祝いも兼ねている。
会場は本社ビルに近い居酒屋の二階の座敷だった。
以前、本社勤務だったときに、
何度も通った馴染みの店だ。

エライ人たちを差し置いて、今日に限って
上座に座らされた。
新任部長の長い長~い挨拶が終わると、
光太郎が指名された。幹事の係長が、
「部長が長かったんで、お前は30秒で終われ」と
みんなの前で大声で言う。爆笑。
部長は、ちょっとだけ怒ったフリをしてみせた。

「ええっと、町田光太郎、29歳。
長野支店から来ました。
趣味は釣り。向こうでは鮎を。
酒は少々。最近、メタボぎみなので節制してます。  
でも、タバコが止められないんですよね~。
ストレスのせいかな。  
ここでは、ストレスがないことを祈ってます。以上!」

「バカヤロー!ストレスのない会社があるかよー」
「ストレスでメシ食ってるんだろう」
などとヤジが飛んだ。しかし、光太郎は、
なかなか良い雰囲気の職場だと思った。
乾杯の後は、幹事が言った通りの「無礼講」になった。

酔っぱらうと、上司に文句を言う者。
ふざけているのか、 副部長のハゲた頭を
ペンペンと叩く者までいる。一人一人に、
こちらから挨拶に行くまでもなく、
次から次へと部員がビールを片手に
光太郎の元にやってきた。

「もう勘弁」と言っても許してくれない。
仕方なく、「一口だけ」と言い酌を受けた。
かなり酔った。(こりゃだめだ)と思い、
ビールを注ぎに来た同期の人間に、
「悪い、我慢できんから外でタバコ吸ってくるわ」と言い、
階段の踊り場へと抜け出した。
(昔は、この店も自由にタバコが吸えたのになぁ)と、
会社の中だけでなく、馴染みの
居酒屋にまで浸透している「禁煙」をぼやく。

階段の手すりにもたれて、
マイルドセブン・スーパライトをくわえた。
もちろん、近くに灰皿などない。
ポケットから常備している携帯灰皿を取り出す。
「ふう~美味い」と、ついつい声に出た。

「町田さん」 「へ?」振り向くと、
光太郎の係の岩田洋子がいた。
「ごめんなさい、なかなかご挨拶に行けなくて」
洋子は光太郎の部下でもある。
「いいよ、朝の係のミーティングで
お互いに挨拶してるし」
「うん」
光太郎は、その「はい」ではなく、
「うん」と首をちょっだけタテに振って頷く仕草を
「可愛いな」と思った。
いや、「こんな子が恋人だったら」とも思った。
アルコールが入っているせいかもしれない。
しかし、着任早々、
気がある素振りをするわけにもいかない。

「あの~、言ってもいいですか?」
そんな不純なことを考えていたところへの
問いかけだったのでドキッとした。
「何?」 「タバコ止めたほうがいいですよ」
「ううん、俺もわかってるんだけどね」
「じゃあ、こうしませんか」
「・・・」 「実は、私も禁煙中なんです。
まだ7日目なんだけど。  
一人じゃ続かないから一緒に禁煙しませんか」
光太郎は、無意識に、「わかった」と言い、
まだ一服しかしていないタバコの火を消して、
携帯灰皿の中に押し込んだ。

「約束よ」と洋子が右手の小指を差し出した。
またまたドキッとして心臓が高鳴るのがわかった。
さて、翌日からがたいへんだった。
出社するなり、洋子に声をかけられた。
「おはようございます。大丈夫ですか?」
「え?」何のことか、2秒後に気付いた。
「おお、あれから一本も吸ってないぞー」
「私も!」
禁煙は辛いが、そう言われると、
何だか朝から元気が出た。
次の日も、次の日も、同じ会話が続いた。
「大丈夫ですか?」 「大丈夫!」
何度もトライした禁煙だが、
これほど続いたことはなかった。

3日、7日、10日と時が過ぎ、
歓迎会から2週間が過ぎた日のことだった。
隣の部へ打ち合わせに行くと、
女性社員が声を掛けてきた。
「あっ、町田さ~ん、お帰りなさい」
「おう、ごめんな、挨拶遅れて」
「ううん、忙しかったでしょ、バタバタして」

斉藤のぞみは、以前、本社にいたときの
同じチームの仲間だった。
「いろいろ組織が変わってたいへんでしょ。
どう?」 「うん、いろいろな。
でも禁煙してから何だか体調が良くてな」
「へえ~、町田さんがねぇ。
たしか1日3箱も吸ってたんじゃなかった」
「そんなに多くはないよ。もう2週間かな」
「エライ!褒めてあげる。
でも、何で禁煙できたのよ」

光太郎は、洋子に対しての淡い気持ちを
悟られたくないと思ったが、
(別にこのくらいのことはいいだろう)と思い、
彼女に事情を話した。
歓迎会の夜に交わした禁煙の約束のことだ。

すると・・・。
「おかしいわねぇ」と首を傾げられた。
「何が?」
「洋子はさあ、大学の後輩でね。仲いいのよ。  
月イチの女子会のメンバーでもあるし・・・」
「ああ、そうなんだ」
「だって、私、一度も洋子がタバコを
吸うなんて話聞いたことがないもの」

「・・・」 「いやだ、町田さん。騙されてるのよ」
光太郎は言葉を失った。
(そんな・・・ウソかよ)でも、それは、
数秒後には飛び上がらんほどの喜びに変わった。
(ひょっとして、俺のために考えてくれたとか)
淡い淡い想いに、少しだけ
明るい色がついたような気がした。
一つの恋が動きだした。

……終わり



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる




『息子が母親を殺した理由』




誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と言い訳になるから……



P R
カビの生えない・きれいなお風呂

お風呂物語
                           
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