流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……
 
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ミステリー

 
 

『空の上の思いやり』


JALに寄せられたエピソード。
サンキューレターです。
その女性は、外国に住んでいましたが、
入院中の母を見舞うために日本へ
一時帰国していました。
しかし、残念なことに母親は急逝し、
遺灰とともに米国の自宅へ戻ることとなりました。

ニューヨークへ戻る際に利用した便は
満席であったにも関わらず、その女性の
隣の席は空いており、
「御遺灰を足元に置いて頂くのは
大変申し訳ありませんので、隣のお席も
お取りいたしました。
どうぞお使いになって下さい」と
客室乗務員が声を掛けたそうです。

女性は、ありがたく母の遺灰を隣の
座席に置きました。
しばらくして、先ほどの客室乗務員が
席にやってきました。そして、
「失礼かとは存じますが、
よろしければお母様と御一緒にどうぞ」と、
トレーに白いナプキンを敷き日本酒とおつまみを
載せて持ってきたというのです。

その温かな気遣いに、「思いやり」に、
思わず涙ぐんでしまったそうです。

言うまでもなく、仕事とは、
「傍」を「楽」にすること。
つまり、目の前のお客様に
喜んでいただくということです。
もし、悲しみに暮れている人がいれば、
その悲しみを少しでも減らして
差し上げることができないか。
そんなことは、出過ぎたことかもしれない。
でも、何かして差し上げたい。

マニュアルではなく、そうした「思いやり」が、
とっさに出た出来事なのでしょう。



夢はでっかく、根はふかく。
花を支える枝 枝を支える幹 幹を支える根 
根はみえないんだなあ



派手なドレスで、親友の葬式に参列した男



『オレオレ』妄想劇場

気が重かった。 何度もケータイを手にしては
ポケットに仕舞った。
呼び出し音を3回鳴らして切ったこともある。
香川圭太は、もう3日ほど、そんなことを繰り返していた。

圭太は、4年前、情報専門学校で勉強するため上京した。
専攻はデザイン。できることなら、
アニメーション・クリエーターになりたいと思っていた。
2年目が過ぎた頃、クラスメートに
「一緒に会社を作らないか」と誘われた。
アニメーションを核としたポータルサイトを作る
計画をしているのだという。

すぐさま、その話に飛びついた。
田舎にいるうちは、「自分には才能がある」と思っていた。
圭太の作った学園祭のポスターは、
プロ顔負けだと評判になった。
地元の町が主催した観光ポスターのコンテストで
グランプリを受賞。 地元紙の顔写真入りで
載ったこともある。

しかし、いざ専門学校に入ってみると、
周りは「デキル奴」ばかりだった。
圭太から見ると、大人と子供くらいの違いがあった。
もちろん、圭太が子供だ。
うぬぼれていた自分が恥ずかしくなった。
日が経つにつれて、「デキル奴」との差は広がっていった。
それとともに、将来への不安でいっぱいになった。
このまま学校に来ても仕方がないのではないか。
かといって、途中で辞めたら、
ここまでの授業料を払ってくれた父親に申し訳ない。

そんな時、友人から声を掛けられたのだ。
設立資金は乏しかった。
もちろん、バイトの貯えでは足りない。
最初は、学校との2足のわらじを履くことを考えていたが、
3か月も経たないうちに資金不足に陥った。

そこで、父親から送られてきた半期分の学費に
手を付けてしまった。
学校から「授業料未納」の知らせが実家に届き、
父親は烈火の如く怒った。
全部、自分が悪いのだ。 頭を下げに故郷へ帰った。
とにかく、父親に謝った。
若い頃から血の気が多いことで親戚中にも知られている。
当然、殴られるのも覚悟して。

ところが、父親は、「本気か?」と問いただした。
「うん」と、目をそらさずに答えると、
「頑張りなさい」と言った。
一晩だけ泊まり、東京へ戻った。出掛けに、
母親が、「お父さんから」と言い、封筒を渡された。
父親は、もう仕事に出掛けていた。
中身は、足りない分を補うのに、充分な
金額が入っていた。

それなのに・・・。 その後、5回にわたって、
資金繰りの無心をした。
「これが最後だから」と言い、
「これが最後だぞ」と言われた。

半年前、ついに会社は破綻した。
帰るに帰れなくなった。
母親から何度かケータイに電話があった。
「いいから帰ってきなさい」
「まず、お父さんに電話しなさい」と言われた。
何も言えずに電話を切った。
その日、その日を食べていくためにアルバイトをして
食いつないだ。
アパートの家賃も2か月貯まっている。
管理会社からは、明日にでも出て行くようにと
強く言われていた。

「もしもし・・・オレ」
電気を止められている。 電気の通じていない
こたつに入って、圭太は実家に電話をした。

「はい、どちらさんでしたかねぇ」
「あっ、お婆ちゃん。オレオレ」
「オレッてどなたさまですかねぇ」
「オレだよ、お婆ちゃん。圭太だよ、圭太」
「もう、だまされませんよ、ワタシは。
あなた、この前の30万円返しなさい」

圭太は、お金を返せと言われてドキッとした。
父親に借りたお金を返せと言われたと思ったからだった。
ところが・・・。
「あなたねぇ、そんな詐欺やってて恥ずかしくないの?」
「・・・」 「うちの子はね、
自動車事故なんておこしとらんかったよ。
そういうのを振り込み詐欺とか言うんじゃってねぇ~」

どうも話がかみ合わない。
「お婆ちゃん、オレオレ・・・。圭太だよ」
「この前もそう言って、ワタシをだまくらかしたわねぇ。
郵便局の人が、もう一度確かめてからにしなさいって
忠告してくれたけど、 あなたを信じて振り込んだのに・・

「お婆ちゃん、何? 振り込み詐欺にだまされたの?」
「なにトボけてるの、あなた。
あなたがだましたんでしょう」
「違うよ、オレオレ。オレ、圭太だよ・・・」
「何言ってるの。圭太は今、仕事に行ってますよ。
今日も、朝、いつもみたいに出掛けていったよ。
もうすぐ、帰ってくるはずだよ。
それに、そんな若い声じゃない」
「何言ってるんだよ、お婆ちゃん。
オレは、ここ、東京にいるよ」

圭太はわけがわからなくなった。ボケてしまったのか。
「若いに決まってるだろ! まだ22歳だよ」
「そらまた、だまそうとしてるじゃないか。
圭太は今年数えで55歳だよ。
町役場で課長さんをしてるんだからね」
「それは、お父さんのことじゃないか。
お婆ちゃん、しっかりしてよ」
「あなた、ワタシがボケてるとでも言うのかい」

「・・・」圭太は、言葉を失った。
お婆ちゃんがボケてしまった。愕然とした。
東京へ出るときにも、駅のホームまで来て、
泣いて見送ってくれたことを思い出した。

圭太はお婆ちゃん子だった。両親が共働きだったため、
学校から帰るといつも手作りのおやつを作ってくれた。
茹でとうもろこしが大好物で、3本も食べて
夕ごはんが食べられなくなり、 よく母親に叱られたものだ。
そんな時にも、「ワタシが悪いから叱らんでおくれ」
とかばってくれた。

「あなた、圭太の名前を騙って、そんな悪さをして。  
親御さんが心配してますよ」
「あのね、お婆ちゃん・・・オレさあ・・・
ホントの圭太だよ・・・  
どう言ったらわかってくれるのかなぁ。
そうだ、お婆ちゃん知ってるだろ?  
小さい頃に鍋をひっくり返しちゃってさ。
右腕に大きな火傷の跡があること」
「・・・なんで、あなたはそんなこと知ってるの?」
「思い出したんだね!お婆ちゃん」
「あなた、町役場の人なのかい? 
圭太の部下の人かい?」
「違うよ、お婆ちゃん・・・もういいよ、
お母さんに代わってよ」
「お母さんはいないよ」

圭太は心配になった。
これほどまでにボケているお婆ちゃんを
家に一人でおいておくなんて。
それこそ、振り込み詐欺にだまされても仕方ない。
おそらく、30万円の話も本当なのだろう。

「お母さんは農協辞めたんだろ? 
買い物にでも行ってるの?」
「なんで智子さんが農協辞めたの知ってるんだい? 
あなた何者なの?   
うちのことそんなに調べて気持ちが悪いねぇ」

圭太は、迷いに迷って電話をした。
アパートを追い出されては、ホームレスになってしまう。
もう一度だけ父親に頭を下げて3か月分、
いや2か月分の家賃を借りるつもりだった。
しかし、とんでもないことになった。
お婆ちゃんがボケてしまった。
それも、相当ひどい様子だ。
孫の圭太のことと、息子の圭一郎のことが
ごっちゃになっているみたいだ。

もう一度、大きな声で言った。
「お婆ちゃん、いい~。オレ、孫の圭太だよ。
ずっと可愛がってくれた圭太だよ。  
東京の専門学校へ行くとき、
駅まで送ってくれたろ!今でも覚えてるよ。  
それにさ、お婆ちゃんがくれた吉宮神社のお守り、
今もちゃんと財布の中に入れて持ってるよ!」
「ますます気持ちが悪いねぇ~。
スパイとかいう人かね・・・ああ~ああ~」

そこまで話して、突然、悲鳴を上げた。
「お婆ちゃん、どうしたの?」
「ああ~火が、火が・・・」
「火がどうしたの!」
そこで電話が切れた。
慌てて、圭太はもう一度かけた。
しかし、どうしたことが繋がらない。
3度、4度、5度かける。 仕方ない。
父親の勤める町役場へ電話をした。

「すみません。私、家族の者ですが、
農政課の香川圭一郎をお願いします」
「あ、はい。しばらくお待ちください」
「お願いします」

イライラして交換を待った。
こんなことをしている間に、
家が火事になっているかもしれない。
「はい、香川です」
父親が出た。

「お父さん、大変だよ」
「なんだ・・・仕事中だぞ。
だいだい、今、何やってんだ、お前は」
「いいよ、わかったよ。謝りに帰るよ。
でも、今はそれどこじゃないんだ。  
お婆ちゃんが大変なんだ」
「お婆ちゃんがどうした・・・」
突っぱねたような冷たい口調だった圭一郎が、
急にか細い言葉を発した。

「火事かもしれない。ストーブを倒したとか
、ガスコンロか何かで・・・」
「今、どこだ」
「東京だよ、もちろん」
「お婆ちゃんに電話したのか」
「うん、さっき電話してたら・・・火が火がって・・
お婆ちゃん、ボケちゃったのか?」
「どういうことだ」
「だって、俺とお父さんの区別もつかんかった」
「わかった。電話してみる」
「だめだよ。電話が繋がらない」
「よし、見てくる」
「頼む、お父さん」

圭太は、気が付くと涙を流しながら
駅へと走っていた。
残高は足りなかったが、
自動改札にカードを入れて、
ホームへの階段を駆け上がっていた。
今から行っても、何の役に立たないかもしれない。
でも、でも。故郷への電車に
飛び乗るために・・・圭太は走った。

ちょうど、その頃・・・。
圭太の祖母の、香川ヨシは、
テレビの時代劇の再放送を観ながら、
かりんとうを頬張っていた。
「ああ、美味しい」
熱いお茶をすすりながら、ボツリと呟いた。

「これで圭太も久しぶりに
帰って来てくれるといいんだけど」
画面では、三つ葉葵の印籠に跪く人々を前にして、
黄門様が杖を持って立っていた。

「吉宮神社のお守りを、今でも
大切にしてくれてるなんて、  
やっぱりあの子はいい子なんだねぇ。泣けたよ」
玄関がガラッと開き、
誰かが入って来る気配がした。


《終わり》



【離婚しましょ】



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる







P R

カビの生えないお風呂

お風呂物語

furo