流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……

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昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー

 
 
「停電の夜に」

「あっ切れた!」
ドーン! という雷鳴が鳴り響いた直後のことだった。
日曜日の午後5時30分。
テレビは台風が近づいてることを繰り返し告げていた。
松島奈々子は、「こんなときは、
早めにご飯にしましょう」と言い、
野菜炒めを作るため電磁調理器に
フライパンを乗せたところだった。

電気炊飯器も、途中で切れた。
「お~い! 懐中電灯どこだ~」
リビングから夫の忠宏の声がする。
「あるでしょ、防災用具の中に・・・」
「ないよ・・・どこだよ、防災用具」
「そんなはずないわよ」

「いいよ、他にも懐中電灯がどっかにあったはずだ」
リビングまで壁伝いに歩く。外は真っ暗。
向かいのマンションの灯りも全部消えている。
小学4年の娘の里奈が、蚊の鳴くような声で言った。
「ごめんなさい・・・この前、キャンプに行ったとき、  
防災グッズの入ったリュック、
そのまま車に積んだままなの」

(そう言えば・・・)と奈々子は思い出した。
里奈が「何かあったとき、キャンプに防災用具が
あったら便利だよね」と言ったので、
「あら、いいアイデアね」と返事したことを。

忠宏がカーテンを開けて窓の外を見て言う。
「スゴイ横殴りだけど取ってくるよ」
「危ないわよ」敷地が狭いので、
家の前に駐車場が作れなかった。
そのため、徒歩で3分ほどのところに
駐車場を借りているのだ。

「任せろ、大丈夫だ!」そう言うと、
レインコートを被って飛び出して行った。
しばらくして、全身びしょ濡れになって帰ってきた。
「これ」と言われて差し出されたリュックから、
里奈が懐中電灯を取り出した。
「あれ?点かないよ」
「どれ、貸してみなさい」奈々子が言う。
「ホントだ」 「え?俺にも貸してみろ・・・
あれ?電池切れかな」
・・・ごめんなさい」里奈が心配そうに言う。
「電池が切れてるのは里奈のせいじゃないよ。  
俺がチェックしてなかったからいけないんだ。
そうだ、ろうそくはないのか?」
「ろうそく~そんなのないわよ」
仏壇でもあれば、ろうそくもある。
しかし、忠宏は次男で、ご先祖様の仏壇は兄の家にある。
「なかなか電気点かないねぇ」
「すぐに点くわよ、ラジオはあったわよね。
たしか古いラジカセに付いてたはず」
「あれもダメだよ。コンセント刺さないと点かない」
「何よ~もう」
忠宏が、「何言ってんだよ、情報ならケータイだよ」
慌てて奈々子も忠宏も、真っ暗闇の中、
リビングに置いてあったケータイを捜しに行った。

「長いわねぇ、停電」
3人は、ずっと肩を寄せ合って、じっとしていた。
もう10分近くも経つだろうか。
そこへ、表からスピーカーの声が聞こえた。
「たいへんご迷惑をおかけしております。
○○電力の広報車です。  
落雷のため、ただいま停電になっております。  
全力を尽くしておりますが、復旧の目途が立っておりません。  
今しばらくお待ちください」
「ええ~回復しないの?」
「今、目途が立っていないって言ったよな」
「電気つかないの~」
3人は、茫然として時間を過ごした。

こういうときは、1分が1時間にも感じられる。
里奈が突然、声を上げた。
「あっ、ろうそく見たことがある!」
「どこでよ、そんなのあるわけないでしょ。
買ったことないんだから」と奈々子が言う。
「ううん、クロゼットの奥にキレイな箱に入ったやつ。  
昔、お父さんに『これ何?』って訊いたら、
ろうそくだって教えてくれたもん」

「あっ」 「あ!」奈々子と忠宏が、声を合わせて発した。
そうだ。 二人の結婚式の披露宴で、
一緒に火を灯したキャンドルだ。
暗闇の中を、恐る恐るクロゼットまで歩いて行く。
「あった、あった、これだ」太くて長いキャンドル。
25個の印が打ってある。
1年に一度、結婚記念日に火を灯す。
25年の銀婚式まで使えるようになっている。
ところが、結婚3年目で里奈が生まれた。
子育てで、そんな余裕などなくなってしまった。
そして、クロゼットの奥へと仕舞いっぱなしに・・・。
「早く点けようよ~」
リビングのテーブルの上にキャンドルを置く。
「あなた、まさかマッチがないとか」
「大丈夫、ライターがある」
普段は、「禁煙してよね!」と
口うるさく言っている奈々子だったが、
この時ほど忠宏がタバコを吸っていてくれて
良かったと思ったことはなかった。
忠宏がキャンドルに火を灯す。
「わあ~キレイ」と里奈が声を上げる。
そして、「お腹空いちゃったよぉ」と言った。
3人で笑った。
「よし、今夜はキャンプだ!家にある
食べられる物をここへ集めよう」
「缶詰ならあるわよ」と奈々子が答える。
キャンドルの炎の下に、あれもこれもと並んだ。
防災リュックに入っていたカンパン。
カニとサバの缶詰。あんパン1個。
ただし賞味期限が昨日まで。
食パン2切れ。ジャムにハチミツ。
スライスチーズが2枚。バナナ5本とオレンジ3個。
チロルチョコレートの大袋。
冷蔵庫から、朝の豆腐の残りと、
ビール、リンゴジュースを出した。
「ご飯は炊けてないけど、野菜ならあるから
サラダ作るわ」と奈々子が言う。忠宏が言う。
「これでいいよ。まず食べよう」
「うん、食べよう」
なぜか、里奈も忠宏も楽しそうな顔をしている。

その時だった。「あっ!点いた!」
家中の電気が灯った。
「いいねぇ、電気があるって」
「ホントね」3人は、顔を見合わせて言った。
奈々子がキャンドルを消そうとすると、
忠宏が手で制して言った。
「このまま点けとかないか」
「え?」 「13年分・・・灯そうよ」
「ああ・・・そうね」 「うん」
「そうしたら、来年からまた火を灯しましょうよ。
結婚記念日に」
「そうだね」二人の心には、この13年間の出来事が
それぞれに蘇っていた。
その横で、里奈がバナナの皮をむいていた。

Author:志賀内泰弘



絶対零度」の反対「絶対熱」

 
 

人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる





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