流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……

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昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー

 

 
 

『下座に生きる』その3



坐という文字は土の上に、二人の人が
並んでいる、
上下でなく対等にならんでいる
そこが実にいい


「再・リクエスト」
・18歳の孤児の生涯
それはもっとも尊い人としての逝き方。


「おっさん、昨日、病院の人たちに
話をしたというてたなあ」
白み始めた早朝の薄暗がりの中で、
いつの間に目覚めたのか、卯一が言った。
「ああ」
「おれにも何か話してくれ」
「聞くかい」「うん、聞かせてくれ」  
「今朝は高校へ話にいかにゃならんので、
長い話はできんが・・・・。

卯一、お前は何のために、
生まれて来たか知っとるか」
「何じゃ、そんなことか。
男と女がいちゃいちゃしたら、子どもができらあ」  
「そんなんじゃなくて、生まれてきた意味だよ」
「そんなこと、わかるけ。
腹がへった、飯を食うだけさ」  
「飯を食うためだけじゃ、寂しかないか。
それだけじゃないぞ、人生は」 「・・・・・」

「誰かの役に立って、
ありがとうと言われたら、うれしいと思うだろう。
あれだよ、あれ。
お前が昨夜から何も食べていないという
女の子に、パンをやったとき、
その子はお兄ちゃん、ありがとうと言って
おいしそうに食べたろ。
それを見て、お前もうれしかったろ。

誰かのお役に立てたとき、人はうれしいんだ。
お前、いままで誰かの役に立ったかい」
この質問は酷だった。
何かを考えているようだった

卯一は投げ出すように言った。
「おれは駄目だ」「どうしてだ」
「おれはもうじき死ぬんだよ。命がないんだ。
人の役に立ってって言ったって、
いまさら何ができるんだ」泣顔だ。  
「できる、できる。まだまだできるぞ」
「起き上がることもできないおれに
何ができるというんだ」

「なあ、卯一。お前、ここの院長先生や
みんなに良くしてもらって死んでいける。
だから、みんなに感謝して死んでいくんだ。
憎まれ口をきくのではなく、
邪魔にならないよう死んでいくんだ。
それがせめてもの恩返しだ」

「おっさん、わかったぞ。これまでおれは
気にいらないことがあると、
『院長の馬鹿野郎、殺せ!』って怒鳴っていた。
これからは止める。言わないことにするよ」  
「そうか。できるかい。努力するんだよ」

「そのかわり、おっさんもおれの頼みを
聞いてくれ」
「約束しよう。何だ、言ってみな」
「おっさん、いま高等学校に行くと言ったな。
中学校や小学校にも行くのか ?」
「行くよ」
「そうしたら、子どもたちに言ってくれ。
親は子どもに小言を言うだろうが、
反抗するなって。
おれって男が しみじみそう言ってたって」  

「反抗したらいけないのか」
怪訝なことを言うと思って聞き返してみると、
卯一はこう言った。  
「いやな、小言を言ってくれる人がいるってのは
うれしいことだよ。
おれみたいに、言ってくれる人が誰もいないってのは
寂しいもんだ。
それに対して文句を言うってのは贅沢だよ」

「なるほど、そういうことか。わかった。
わしは命が続くかぎり、お前が言ったことを
言ってまわろう。お前も上手に死んでいけよ」
「それじゃ、これで帰るぞ」
「もう行くのか?」
「行かなきゃならん。高校で話をすることになっている」  
「おっさん!」
「何だ」
「いや、何でもない」

「何でもなかったら呼ぶな」
「返事するのが悪いんだ。呼んだって返事するな」
「そんなわけにはいかんがな」
三上さんが立ち去ろうとすると、また卯一は呼んだ。  
「おっさん!」「返事せんぞ。
もう行かにゃならんのだ」 そう言って、
後ろ手にドアを閉めると、部屋の中から、

「おっさーん、おっさーん」と泣きじゃくる声が聞こえた。
母を呼ぶ子どもの声のように、
「おっさーん、 おっさーん」 といつまでも
いつまでも聞こえていた。  
卯一は、 三上さんが去ってから、その後を追うように、
号泣したのです。寂しかったんでしょうね。

三上さんが院長室に帰ると、そこに院長先生がいた。
昨晩は家に帰らず、院長室のソファに寝たようだ。
「あなたがあの部屋で看病していらっしゃると思うと、
帰ることができなかったのです。
夜中に二度ほど様子を覗きに行きましたが、
夜通し足をさすっていらっしゃった。頭が下がります」
「いえいえ」と言っている時に、

院長室のドアが慌ただしくノックされた
卯一の病室へ診察に行った若い医師が、
院長室へ飛び込んできました。
「ちょっと報告が・・・・」という声に、
院長は座を立って、事務机の方で
若い医師の報告を聞いた。そして聞くなり、叫んだ。

「三上先生 ! 津田卯一がたった今
息を引き取りました」
「えっ!」  三上さんは茫然とした。
「でも、昨日は十日は持つとおっしゃっていたのに・・」

当直の若い医師が真面目な顔で切り出した。
「不思議なことがあったのです。
あいつはみんなの嫌われ者で、
何か気にいらないことがあると、
『殺せ ! 殺せ ! 』とわめきたてていました。
なのに、一晩で まるで変わっていました

「今朝、私が診察に入って行くと、
いつになくニコッと笑うのです。
おっ、今朝は機嫌がよさそうだなと言い、
消毒液を入れ換えて、いざ診察にかかろうとすると、
妙に静かです。卯一 ! 津田 ! と呼んでみましたが、
反応はありません。死んでいたのです。

私が入って来たときと同じように、
うっすらと 微笑さえ浮かべていました。
私はあわれに思って、
『お前ほどかわいそうな境遇に育った者は
いないよ』と言いつつ、はだけていた
毛布を直そうとしたのです。ところが・・・・」  
若い医師は信じられないものを見たかのように、
深く息を吸い込んだ。
三上さんもつられて大きく息を吸い込んだ。

「毛布の下で合掌していたんです !
あいつが、ですよ・・信じられない・・
・・合掌していたんです」  
涙声に変わっている。院長もうつむいている。
三上さんもくしゃくしゃな顔になった。

「・・・・卯一、でかしたぞ。よくやった。
合掌して死んでいったなんて・・・・
お前、すごいなあ・・・・すごいぞ」  
あたかもそこにいる卯一に語りかけているようだ。
「な、わしも約束は忘れんぞ。命のあるかぎり、
講演先でお前のことを語り、死ぬ前日まで
親御さんは大事にしろよと言ってたと言うぞ」
そこまで言うと、三上さんは泣き崩れた。

肩を震わせて泣く三上さんのかたわらで、
院長も若い医師も泣いた。
「卯一よお、聞いているかあ・・・・・。なあ、
お前の親のことを恨むなよ・・・。
少なくとも母さんは自分の命と引き換えに
お前を生んでくれたんだ。それを思うたら、
母さんには感謝しても感謝しきれんがな・・・・」

三上さんはしゃくり上げながら、
虚空に向かって話している。  「それになあ、
お前に辛く当たった大人たちのことも
許してやってくれ・・わしもお
詫びするさかいなあ・・・・。
みんな弱いんだ。同情こそすれ、
責めたらあかんぞお・・・」

三上さんの涙声に、院長の泣き声が大きくなった。
そうだった。誰も人を責めることはできないのだ。  
責めるどころか、お詫びしなければいけないのだ。
いさかい合い、いがみ合う世の中を
作ってしまっていることに対し、
こちらから先に詫びなければいけないのだ。
そうするとき、和み合い、睦み合う
世の中が生まれてくるのだ。

病院を出て、次の講演先の高校に向かう
三上さんの肩に、秋の陽が踊っていた。


《終わり》

「下坐に生きる」神渡良平(作家)



【巷の噂話】隠し子の存在が発覚した芸能人



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ


誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる






P R

カビの生えないお風呂

お風呂物語

furo