流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・一樂編

妄想劇場・一樂編

信じれば真実、疑えば妄想


昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


Mituo
人の為(ため)と
書いて
いつわり(偽)と
読むんだねぇ 
 

 
『地図を作ろう!・・・』


大沢ユカリは、コンビニのバイトをしている。
なぜなら・・・就活に失敗したからだ。
大学を卒業はしたものの、就職試験に落ちまくった。
失意の中、派遣会社に登録。
ケータイの販売会社の営業、イベント会社の事務、
マンション販売の補佐など、 いくつかの仕事を
短期間に転々とした。

「やりたい仕事」が見つからない。
さらに、「誰も自分のことを認めてくれない」。
そんな思いで、悶々とした日々を過ごしていた。
かといって、霞を食って生きるわけにもいかない。
食べるために仕方なく、家の近くのコンビニで
バイトを始めた。
そんな仕事とバカにしていた。
絶対に、自分がやる仕事ではないと思っていた。

ペコペコしてレジを打つなんて、
ユカリのプライドが許さなかった。
「嫌ならいつでも辞めてやる」と思ってレジに立っていた。

ところが、である。
ユカリはそこで、カミナリに撃たれた。
もちろん、本物のカミナリではない。
水野さんというバイトのオバサンだ。
小太りで背が低く、とうに60歳を過ぎていると思われる。
ちょっと、動きが緩慢で、のろのろもしている。
しかし、ずば抜けて「デキる」人なのだ。
「水野さんがいるから買いに来る」というファンの
お客さんもいる。

常連のお客さんの、おにぎりの好みの具の
種類を覚えていたり、
元気のない大学生がいると優しい声を
掛けてあげたりする。
どう見てもヤバそうなお兄さんにも、
堂々と注意する。
オーナー店長ですら、一目を置いているくらいだ。

ユカリは水野のオバサンに勝手に弟子入りした。
サービスの達人になろうと。
オバサンは、最初のうちは迷惑そうだったが、
聞けば何でも教えてくれるようになった。
ユカリは、今、コンビニの仕事が
面白くて面白くてたまらなくなっていた。

そんなある日のことだった。
「ねえ、このへんにガソリンスタンドなかとですか」
「ありますよ」
スーツを来た、中年のサラリーマンだった。
ユカリは、店の前の国道を差して答えた。
「これを左に真っ直ぐ行って、二つ目の信号を・・」

道を尋ねたサラリーマンが出て行くと、
水野のオバサンがユカリに話し掛けた。
「ねえねえ、ユカリちゃん」
「はい」
「ガソリンスタンドってよく訊かれるわね」
「はい、
私も三回目かな、それでパッと答えられたんですよ。  
今の人、ちょっと手前のところで
ガス欠になっちゃったらしくて」
「あのね、頼みがあるんだけど」
「何です?」
「地図を作って欲しいのよ、
パソコンでチャチャッとね。
私、そういうのオンチだから」
「地図って?」
「よく訊かれる所を書き込んだ地図。
それをね、道を訊かれたたら渡すのよ。  
この周辺のだいだいの地図さえ作っておいたらいいのよ。  
載ってない場所を訊かれたら赤ペンで
印してあげければいいの」

ユカリは、水野のオバサンの弟子のつもりだった。
しかし、何でも素直に聞けるわけではない。
「そんなぁ~。ホテルのフロントじゃあるまいし。
今日みたいに教えてあげたらいいじゃないですか」
「ううん、それはそうだけどね。
でも、その方が親切かなって」

「だって、さっきの人だって、
何にも買わずに帰っちゃいましたよ。  
普通、買うでしょ! ジュースか何か。
それが義理ってものですよ」
「・・・」
「それに、あの人、九州の訛りがあったし。
ひょっとすると、営業でこっちへ来てるのかもしれないし。  
そうしたら、いくら親切にしたって
二度と来てくれないと思いますよ」

水野のオバサンは、けっして不満そうな様子もなく、
「そうねぇ」とだけ返事をして菓子パンの
賞味期限のチェックの作業を始めた。

そこへ、店の前に、一台のタクシーが乗り入れてきた。
ドアが開くと、運転手が飛び出して店内に駈け込んできた。
被っていた帽子を取って、小さくおじぎをした。
「すみませ~ん」
レジのユカリのところにやって来た。

「あのあの・・・このへんに、
安藤医院ってありませんか?」
50代後半の男の運転手。ツルツルの頭に
噴き出した汗をハンカチで拭っている。
「安藤?」
「カーナビでは、こんへんらしいんですけど。
ぐるぐる回ってもわかんなくて」
「医院って病院ですか?内科か何か?」
「いえ、鍼灸です。

お客さんが車で待ってて急いでいるんだけど、
困っちゃって。  
予約時間に間に合わないらしくて」
「シンキューって?」
「あ、はい。針とかお灸の鍼灸です」
「ああ!」ユカリは思わず頷いた。
ついこの前も、同じところの道を尋ねられたことがある。

「それだったらですね・・・」
ユカリは、レジから出て、運転手に教え始めた。
「あのですね。ちょうど、うちの店の裏手になるんです。  
店を出て、一旦、左に曲がってください。  
一通なので近いけど右に行くと
遠回りになっちゃいますから。  
左に曲がったらね・・・ええっと細い路地があって・・・」

そこへ、そばで聞いていた水野のオバサンが
口をはさんだ。
「ユカリちゃん、連れてった方が早いわよ。  
あそこ、看板が出てないからわかんないのよ。  
普通の家で、一人暮らしのお爺さんがやってるから」
「え? ・・・でもお店が・・・」
「いいから、いってらっしゃい」
「はい。運転手さん! 助手席に乗せてくれる? 
案内するから」
「え? いいんですか?」
「早く、早く。お客さん怒っちゃうわよ」
そう言うと、ユカリはもう店の外へと飛び出していた。
水野のオバサンの声が聞こえた。

「帰りは走って来るのよ~! 
オーナーに叱られちゃうから~」

それから、ほんの5分後。
ユカリは、あの運転手のタクシーに乗せてもらって
店に帰ってきた。
一緒に着いてきた運転手は、店に入ってくるなり
奥の冷蔵のコーナーに足を向けた。
そして、レジに戻ったユカリに微糖の
缶コーヒーを差し出した。

「ホントにありがとうございます」
「いいえ・・・」ユカリはポッと顔を紅らめた。
「仕事柄、よく道を尋ねるんです。  
でもね、その場所まで付いて行ってもらったのは
初めてで。せめて・・・これくらいしか・・・」
「いいんですよ、別に買ってもらおうと思って
案内したわけじゃないですから」

ユカリは、ドキッとした。
今、自分は何て言ったのか。
たしかに「別に買ってもらおうと思って
案内したわけじゃない」なんて言った。

仕事をするって、お金をもらうことだと思っていた。
何かをしたから、対価としてお金をもらう。
そういうものだと思っていた。

いや、今だって、そう思っている。
なのに・・・。買ってもらわなくて、
運転手さんに、喜んでもらいたいと思った。
役に立ちたいと思った。間違いなく、
自分の中で、何かが変化している。

頭をなぜながら、真面目な顔をして運転手は言った。
「近くを通ったら、今度は弁当を買いに来ます」
「気にしなくても・・・」
「気にするんです。ううん、そうじゃない。  
気にいったんです、ここが。絶対に来ますからね!」

そう言うと、鼻歌を歌いながら手を振って、
バーイというポーズを取り、
車に乗り込んで行った。
ユカリは、決めた。今夜、地図を作ろうと。……


《終わり》

Author :志賀内泰弘


歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…



少年記
作詞:吉田旺・作曲:中村泰士


下駄の鼻緒が 切れたとき
白いハンカチ 八重歯で裂いて
だまってすげて くれたヒト
あゝ くれたヒト
おねえさん? はつ恋屋敷町
そのあとぼくは オトナになりました
三月一日 花ぐもりでした




三善英史、本名・田村照彦。
東京渋谷区で生まれた。
母は渋谷円山町の売れっ子芸者だった。
幼少期から彼は父親のいない生活を送った。
島倉千代子の歌にやさしさを求め、
水前寺清子の人生の応援歌を聞いては、
自らを奮い立たせた。

昭和47年、照彦少年は三善英史になった。
「雨」は発売同時からヒットチャートを駆け上り、
新時代の花形歌手に成長。
続く「あなたが帰るとき」も大ヒット、

さらに翌年には、自分の母の身の上を歌った、
母になれても 妻にはなれず……の
「円山・花町・母の町」、そのあと
ぼくはオトナになりました…の「少年記」。
その意味深モードが女心をくすぐって、
みごと「紅白歌合戦」に初出場を決めました。



誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる






P R

きれいなお風呂・宣言 

お風呂物語

furo