流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……
 
Mituo2_2 
昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー

 
 
 

※この話しは(株)ユタカファーマシーでの
エピソードです。

『お婆ちゃんの金魚 』

ドラッグユタカでは、毎年、夏休みに入ると
子供向けのイベントをいろいろと企画している。
その一番の人気は、金魚すくいだ。
朝から、子どもたちが順番を競ってやってくる。
昔は、縁日の定番だった。
「5匹すくった!」「わたしは7匹」と
みんなで自慢し合う。

でも最近は、金魚すくいをするのは
初めて、という子供も多い。
ほとんどの子が、すぐに紙が破けてしまう。
「あ~ザンネンだったね~。でも大丈夫だよ、
3匹あげるからね」と言い、
アルバイトのリョウは小学1年生くらいの男の子に、
金魚をビニール袋に入れて渡した。
すぐ近くにいた父親が、「ペコリ」と
リョウの方を向いてお辞儀をした。

その時だった。すぐ後ろにいたお婆さんが、
「ポイちょうだい」と一番前に出てきた。
ポイとは、金魚をすくう、あの網のことだ。
リヨウは、ポイを「はいっ」と言って渡した。
てっきり、その後ろにいた女の子の
お婆ちゃんだと思ったら、
お婆ちゃんが自分で金魚をすくい出した。
「あ~お婆さん、すみませんが、
コレお子さん限定のイベントなんですよ」

お婆さんはじっとして動かなくなり、
しゃがんだままリョウを見上げた。
なんとも悲しげな目だった。
「できんの・・・?」
そう言われて、言葉に詰まった。
しかし、これは子供向けの無料のイベントだ。
10人くらいの列ができており、
後ろの方では付き添いのお母さんが
「何かあったのかしら・・・」という顔つきで
こっちを見ている。

「ごめんね、お婆ちゃん」
そこへ店長がやって来た。
「あ、山岸のお婆ちゃん」「・・・」
「どうしたの?リョウ君」
「いえ、このお婆さんが金魚すくい
やりたいって・・・」
リョウは困ったときに、グッドタイミングで
助け舟が現れたと思った。

「ああ、お婆ちゃん、今年も来てくれたんだね、
ありがとう。 
リョウ君、お婆ちゃんにもやってもらってよ」
「でも、お子さん限定の・・・」
「いいんだよ、特別、特別!」
そう言われて、山岸と呼ばれたお婆ちゃんは
嬉々として水面に目を向けた。

ビニールプールの中には、
色とりどりの金魚が太陽の陽を浴びて
キラキラと輝いてみえた。
しかし・・・。お婆ちゃんのポイの紙は、
すぐに破れてしまった。
ほとんど輪っかだけになったポイで、
何度もすくおうとするお婆ちゃん。

「お婆ちゃんに、残念賞の
金魚あげてよ、リョウ君」
「あ、はい」リョウは、アルミのカップで、
金魚を3匹すくうとビニール袋の中に
水と一緒に流し込んだ。

「わたしは、1匹でいいんよ」
「お婆ちゃん、いいからいいから」
「ううん、1匹でいい」
せっかく好意で入れてやったのに、と
リョウは憮然とした。

すると店長が、横から、
「リョウ、元気そうなヤツを1匹だけ
入れてやってくれんか」と言う。
「真っ赤なヤツにしてくれんかな」
リヨウは、仕方なく、3匹ともプールに戻し、
大きめのスイスイ泳いでいる真っ赤な金魚をすくった。

お婆ちゃんは、
「ありがとう」こそ言わなかったが、
満面の笑顔で帰って行った。
金魚すくいのイベントが終わり、
後片付けをしていると店長がやって来た。
「リョウ、さっきはスマンかったな」
「あ、いえ・・・でもいいんですか・・・
子供限定のイベントに 大人を参加させたら、
文句がでませんか」

「そんなことはいいんだよ。
子供向けと決めたのは、うちの店なんだから。
お客様に喜んでいただけたらそれでいい。
それにね・・・あのお婆ちゃんの場合はさ、
特別なんだよ」
「特別って・・・」
「片づけが終わったら、飲みに行こうか」
「え?」「そこで教えてやるよ・・・
山岸のお婆ちゃんのこと」
リョウは意味深な店長の言葉に
首を傾げながら、駐車場の掃除を始めた。


山岸ミネは、今年の秋が来ると78歳になる。
この町で生まれ、この町に嫁ぎ、
この町からほとんど出たことがない。
今は一人暮らしだが、以前は夫と、
息子の3人家族だった。
息子は、稀に見る秀才だった。
野球部でもレギュラーで、甲子園を目指した。
夫婦には自慢の息子だった。

東京の大学に入って2年目の夏。
お盆の帰省のため、関西に住む友達2人と一緒に、
車で出発した。
高速道路を愛知県に入った頃のことだった。
突然、前を走っていたトラックが
カードレールに激突した。居眠り運転だった。
そこへ、息子の乗った車も突っ込んだ。
3人とも即死だった。
もう、30年以上も前の話だ。
それ以来、夫と二人きりの生活だった。
息子の話は、あえて口にしないことにした。
ミネも夫も。どちらかが言い出したことではない。
口にすると悲しいだけだとわかっていたからだ。
初盆のとき、息子が幼い頃に好きだった
カリントウを買って来た。
仏壇に供えようとすると、
そこにはもう一袋のカリントウがあった。
夫も買って来ていたのだ。

そんな暮らしが1年、また1年と過ぎ、
いつのまにかお爺さんとお婆さんになってしまった。
そして、一昨年の夏、夫は先に逝ってしまった。
心筋梗塞であっという間に。
それまでは健康が取り柄だったので、
苦しんだ期間が短かったということでは、
良い最期だったのかもしれない。……

「そうそう、ユタカさんのチラシが入ってたけど、
金魚すくいは今日だったわね」
誰に言うわけでもなく呟いた。
縁側には、小さな水槽があった。
3匹の金魚は、去年の夏、
近所のドラッグユタカでもらったものだった。

麦茶を買いに行くと、何やら入口の前で
子供たちがワイワイと騒いでいた。
覗き込むと、金魚すくいをしていた。
懐かしかった。
まだ賢一が小学生の頃のことだ。
神社の夏祭りへ家族で出掛け、
3人で金魚すくいをしたことを思い出した。

思わず、前の方へと割り込み、
「わたしもやらせてもらっていいかね」と
口にしていた。
店員は、ちょっと戸惑った様子だったが、
「いいよ、お婆ちゃん」と言い、
ポイを1つ差し出してくれた。
「いくら・・・」と尋ねると、
「ううん、お婆ちゃん、コレ
無料のイベントなんだよ」と。

なんだか嬉しくなり夢中で金魚を追った。
でも、1匹もすくえなかった。
ポイが無残にも敗れてしまったのを見て、
店員はビニール袋に3匹の金魚を入れてくれ、
「ハイ!お婆ちゃん、お土産だよ」と渡してくれた。

家に帰ると、小屋から昔使っていた
水槽を捜しだし、そこに水を張った。
そして、3匹の金魚を放った。
何日か経つうち、知らぬ間に
金魚に名前を付けて呼んでいた。
1匹は夫の賢太郎。1匹はミネ。
そして、もう1匹は賢一。
それは亡くした息子の名前だった。

「おお、賢太郎さん・・・今日も元気だね。
ミネさんともっと近づいてよ、寂しいじゃないの。
賢一はよく食べるねえ・・・などと」
それが、いつしか毎朝の日課になっていた。

しかし・・・。桜の咲き始めた頃、
ミネは風邪をひいた。
3日ほど寝込んでしまったせいで、
金魚の世話を怠った。
ずいぶん水が汚れていたので、
替えてやらなくては、と思っていたが
身体が動かなかった。
「ごめんね、わたしが悪いのよ」
床上げをした朝、水槽を見て言葉を失った。

賢太郎と呼んでいた、
真っ赤な金魚がプカプカと浮かんでいた。
ミネは、賢太郎をそっと庭の片隅に、
そっと埋めてやった。
「賢一、今からユタカさんに行って、
お父さんの金魚をすくってくるからね」
水槽の中で、賢一と呼ばれた黒い金魚が
泡を一つ、プクッと噴き出した。
ミネには、何か言いたげな表情に見えた。
その横で、出目金のミネが楽しげに泳いでいる。
ミネはちゃぶ台から、
ヨイショと言って立ち上がった。

《終わり》

Author :志賀内泰弘



【お昼ご飯】



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる









furo
P R

きれいなお風呂・宣言 

お風呂物語