流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

信じれば真実、疑えば妄想

メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント

明日という日はミステリー、

アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.


Author:紀之沢直

韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期という動乱の時代に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
そこから始まる彼の活躍…
国士無双」「背水の陣」「四面楚歌」。
そんな彼を描いた小説。 
 
 

韓信-10
韓信はそこそこに仕事の手伝いはしたものの、
成長期ということもあって食べる量が実に多く、
亭長にとっては採算が合わなかった。
こういうことは男性より女性の方が敏感で、
韓信のことを煩わしく思うようになった亭長の細君は
わざと朝早く飯を炊き、
韓信に悟られぬよう自分たちの寝床で食事をとるようにした。
韓信が朝起きてくると、もう食事はない。

「出て行ってもらいたいのなら、嫌がらせなどせずに
はっきり申せばいいのだ」韓信
捨てぜりふを吐いて出て行った。
息巻いて飛び出したものの、
どこにも行く当てのない韓信は、
結局戻ってきて淮陰の城壁の下で食を得るために、
その辺の木の枝を竿にして魚を釣って暮らしていた。
我ながら、やるせない暮らしぶりだ。と、
思いながら釣り糸を垂らしていると、
城下を行く民の噂話が耳に入った。

皇帝陛下が、この近くを通る。
秦の皇帝が旧楚の地を巡幸する、というのである。
皇帝とは、他ならぬ始皇帝であり、
これが即位してから五回目の巡幸であった。
巡幸とは皇帝の威信を見せつけるための行為であり、
これにより戦国諸国の旧貴族たちの反抗心を
抑えつける目的で始められた、とされている。
そのため巡幸の行列は豪勢なもので、
先導車のあとに、始皇帝専用の車両が鎮座し、
その後ろに並みいる高級官僚の車列、
そして合計で八十輛からなる戦車が続く。
これらの車列のそれぞれに数十人の
歩兵が護衛としてつき、
総勢で千五百人ほどの大行列であった。

皇帝の威風を天下に示すための行列であったが、
その反面、民はこの行列を
直接見ることはできなかった、と言われている。
卑賤の民は行列が通るあいだ、
地面にひれ伏さなければならないからだ。
見せつけなければならないのに、
見ることを許さないとは矛盾しているようだが、
人民に畏怖の念を起こさせるには、
見てはならないものが目の前を通り過ぎる、というのは
効果があったことに違いない。

それでもちらりとその姿を見た者は何人も存在した。
たとえば沛の人、劉邦(りゅうほう)は
秦の首都咸陽で徭役(ようえき)している際に行列に出くわし、
「男と生まれたからには、ああなりたいものだ」と
純朴な感想を述べた。
また、これよりのち、行列が会稽(かいけい)に達したころ、
項羽(こううという青年は
「彼は取って代わるべきだ」と述べ、
叔父の項梁(こうりょう)にたしなめられた。
始皇帝が誰に取って代わるかが問題だが、
後年の彼の行動を考えれば、これはおそらく
自分のことを指しているのだろう。

韓信始皇帝の巡幸には興味をそそられた。
見に行ってみるか。と思ったが、
旅先で食料を得るのはおそらく今より大変なことだろう。
行ったところで、皇帝が飯をくれるわけでもあるまい。
ふてくされて、釣りを続けた。

釣り竿を置いて職を求めて歩く体力も気力もなかったので、
そのまま座っていると、
何やら老婆の集団がぞろぞろとやってきては、
小川に綿をさらし始めた。
「ここでそんなことをされると、魚が釣れないではないか。
もう少し下流の方でやれないものか」
韓信は半ば哀願するように言った。

すると老婆の中の一人が、あんたには魚なんか釣れやしない、
食うものがないのだったらしばらく面倒を見てやるから
うちに来るがいい、と言った。
おそらく韓信の着ているものや、釣り竿が
あまりに粗末なものだったのを見て、
にわか釣り師だと見抜いたのだろう。
老婆は綿うち作業が終わるまでの数十日という短い間だったが、
韓信におおいに飯を食わせた。
別れ際に韓信は、「この恩は忘れぬ。
いつかきっと婆さんには恩を返してみせる」と、
無邪気に喜んで言った。

平素他人に打ち解けた態度をとることがないこの男にしては
珍しいことであった。
純粋に人の好意に触れてうれしかったのだろう。
ところがその綿うち婆さんは、「生意気言うんじゃないよ。
図体ばかりでかくて自分の世話もできないくせに。
わたしゃ、あんたがあんまり貧相なもんだから
食事をあげたまでだよ。誰がお礼なんぞ当てにするものか。
まったく、でかい剣を下げてかっこうだけつけているくせに」と
怒り調子で、最後には鼻で笑うような態度で韓信を追い出した。

私が礼を言うだけで怒るとは、
この婆さんが私を自分より下に見ているということだ。
なんとも情けないことよ。韓信は思ったが、
よく考えてみれば自分があの婆さんより上の存在だとは
断言できなかった。
自分は施しを受けて生きている男に過ぎず、
きっと婆さんには新手の物乞いのように見えたことだろう。
自分は物乞いではないつもりだが、
あるいは世間では自分のような者を物乞いと呼ぶのかもしれぬ。
そう思ったのであえて反論はしなかったが、
韓信は婆さんを厳しい目で睨みつけ、その場を立ち去った。

この件で韓信は少なからず傷つき、
その日から衣服は清潔なものに取り替え、
市井のものになめられないように、
胸を張って歩くようにした。
そして、腹が減っても釣りだけは
しないようにつとめたのである。


つづく

Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.


愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、
花に例えた古い歌
 今さら聞いても、歌っても、 
 何処に置いても、飾っても
  花も歌も、枯れてゆく....
  人生、絵模様、万華鏡...
 
 
泣いてたまるか』 渥美清 
 
 

 

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる


 

 
P R
きれいなお風呂・宣言




お風呂物語