流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

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『待たせてごめんね~・・・』

桜木鉄也は、子供の頃からの鉄道マニアだった。
最近では、「鉄っちゃん」と呼ぶらしいが、昔はクラスの友達には
「ただの変わり者」「ネクラ」だと思われていた。
それだけに、今の鉄道ブームは誇らしくもある。

それだけではない。 鉄道マニアが高じて、鉄道会社に
就職してしまったのだった。
好きなことを仕事にできる喜びは、何物にも代えがたかった。
就職試験にパスしたときには、「ヤッタゾー!」
大声で叫んでしまったものだ。

ところが・・・。今、鉄也は、入社2年目。
駅の切符売り場の窓口に座っている。 もちろん、
自動券売機は設置されている。しかし、
自販機では、当日利用の切符しか買うことができない。
窓口では、先付のチケット販売のほかにも、
レンタカーやホテルの手配、 イベントチケットの案内もしている。
今までは「お客さん」として楽しんでいた鉄道だったが、
「お客様」をもてなす側に立つと、想像以上に
たいへんなことがわかった。 それは、クレームだ。

この前も、「納得できん! 払い戻しするまで動かんゾー」と、
年配のサラリーマンに10分近くもごねられた。
100%相手が間違っている。
特急の座席指定のチケットを買ったお客さんだった。
駅まで来るのに、道路が渋滞して、その電車に
乗れなかったのだ。 それを全額、払い戻せという。
「お客様、申し訳ございません。電車が発車する前でしたら、  
次の特急に座席指定を振り返るか、
払い戻しさせていただくことができるのですが・・・」と
説明したのだが、

「電車は、俺を乗せてないんだぞ。俺は64キロある。  
それだけ軽いまま、走ってるんだ。
電気代もその分安く済むはずだ。  
お前んところは、俺を乗せないことで儲けてるんだゾ。  
それを返せっていうんだ。わかったか、コノヤロー!」

もうメチャクチャな理屈だ。コノヤローとまで言われて、
大声を出しそうになった。 窓口には社員は鉄也一人。
誰にも助けを求められない。ただ、ただ、同じ説明を繰り返す。
後ろには、三人、四人とお客さんが並び始めた。
すぐ後ろの若い女性はイライラしている様子。

しかし、「危険人物」と察してか、ちょっと後ずさりして
窓口から距離を置いた。
そのうち、あきらめて列から離れてどこかへ行ってしまった。
「いいですか、お客様。もし映画の前売り券を買ったとしましょう。  
何かの都合で見に行けなくなってしまった。  
それでもお客様は、映画館に払い戻しして欲しい、と
頼まれますか?」
「そんなことできるわけないだろう」
「はい、それと同じなんです」

「バカヤロー、子供じゃないんだ。わかってるよそんなこと。  
ダメモトで、言ってみただけだよ」
「へ?」
それまで大声で怒鳴っていたお客は、プイッと窓口を離れて
改札を通って行ってしまった。
気付くと、次の特急がホームに入ってくる時刻だった。
脱力。鉄也は落ち込む暇もなく、次のお客さんの対応に追われた。

その3日後の非番の日のこと。
鉄也は、会社の寮に近いコンビニに昼ごはんを買いに出掛けた。
夜勤明けだったので、目が覚めたのは午前11時過ぎだった。
洗濯を済ませて時計を見ると、12時半になっていた。
お腹がグーとなった。
お店のレジが二つとも、お客さんの列ができている。
それは、目の前の大学の学生たちだとわかった。
午前中の講義が終わって、一斉にやってきたのだ。

鉄也は、チェッと舌打ちした。急いで、棚に行き、
あまり考えることもなく「黒毛牛のピリカラ焼肉弁当」を手に取った。
パッと二つのレジの列を数えた。一つは5人、もう一つは6人。
迷わず、5人の方の列の最後尾に並んだ。
その瞬間だった。前の方から大きな声がした。

「ごめんね~、お待たせしてま~す!」
ふと見ると、レジのおばさんが、
こっちを向いて言ったのだと気付いた。 目が合うと、一瞬、
ニコッとして袋詰めの作業に戻った。
小太りで背の低い、どこにでもいそうな典型的な「おばさん」だった。
鉄也は、おや? と思った。年は60歳くらいだろうか。
コンビニの店員といえば、高校や大学生の
アルバイトだと思い込んでいた。 何しろ、大学の前のコンビニだ。
(なんで、おばさんが・・・)そう首を傾げた瞬間に、
またまた、同じのおばさんの声が店内に響いた。

「みなさ~ん!待たせてごめんね~」
下を向いたり、ボーとしたりして並んでいた全員が
パッと顔を上げた。
「お弁当を温めたい人、先に言ってね~。
今なら電子レンジ空いてるからね~」
すると、鉄也の二人前に並んでいた背の高い男の学生が、
幕の内弁当を右手で高く掲げて言った。
「僕のお願いします」

レジのおばさんが言う。「ラジャー!」
年に似合わぬ、「ラジャー」などという返事に反応してか、
鉄也のすぐ前の女の子がクスリと笑った。
「浅野さ~ん! こっちのお客様のも、次にお願いできますか~」
隣のレジの若い女子店員の声だった。
おばさんの名前は、どうやら「浅野」というらしい。
隣の列に目を向けると、一番後ろに並んでいた、
メガネをかけて色白の気の弱そうな男の子が
弁当をちょっと前に差し出そうとしていたところだった。
そして、「いいですか」と蚊の鳴くような声で言った。

おばさんが言う。「悪い、持って来てくれる?」
おばさんは、色白青年から弁当を受け取り、
電子レンジの上に置いた。「次ね」と微笑む。
また店内隅々にまで聞こえるほどの声で言った。

「みなさ~ん。待たせてごめんね~。
一番後ろのお客さん、あと、2分37秒フラットお待ちくださ~い」
列に並んでいた全員が、あきれたような顔をして笑った。
みんな常連客なのか。「わかってるよ」という雰囲気が漂っている。
どこかズレている感じ。それが妙におかしい。

その時、鉄也は思った。(何者なんだ、このおばさんは・・・)
コンビニのレジで並んでいて、「待たせてごめんね」なんて、
声を掛けられたのは生まれて初めてだった。
せいぜい、自分の順番が来たときに、「お待たせしました」と
おざなりに言われるくらいだ。
買う前に、先に弁当を温めてくれるコンビニも見たことがない。
たった、それだけのこと。それだけのことが心の琴線に触れた。
そして、さらに心の奥底に、鉄也を突き動かすものが
生まれたことに気付いた。

(俺は、何もしてこなかった。
窓口で、並んで待っていてくれるお客様に、
一度も声さえかけたことがなかった。昨日も・・・)
鉄也は、自分の仕事の中でできることが、
いくらでもありそうな気がした。

鉄也の順番が来た。 ピッピッと、バーコードが読み取られる。
お勘定を済ませるやいなや、鉄也は、
おばさんが「ありがとうございました」と口を開く前に、
目をジッと見つめて言った。「浅野さん、ありがとう」
気が付くと、オバサンの手をギュッと握りしめていた。
ついさっきまで、パワフルで溌剌としていたおばさんは、
キョトンとして鉄也を見つめ返した。
鉄也は、早く会社に出勤したくてたまらない気持ちになった。


Author:志賀内泰弘


朝顔・チヨちゃん 』

朝子は、ゾッとした。
そして、すぐ隣に座っている息子の誠也の顔を見た。
しかし、当の本人は、「別にそれがとうしたの?」という顔つきをして、
母親をチラッと見返した。
さらに、左手の人差し指で、鼻くそまでほじりくり出した。
「やめなさい!」と小声で言うと、サッと手を引込めて、
太ももの下に敷いた。

飯島朝子は、長男が小学校に上がって初めての
懇談会に臨んでいた。 ちゃんと落ち着いて授業を受けているのか。
友達に迷惑をかけていないか。 学校に来るまで、
いろいろな心配が頭の中を駆け巡った。
親から見ても、特に取り柄のある子供ではない。
でも、「優しいお子さんですね」とか「きちんと
先生の話が聞けますね」など、 一つでもいいから
褒められるといいなぁ、と思っていた。

ところが・・・。朝子と同い年くらいと思われる担任の佐藤先生は、
ちょっと眉をひそめて言った。
「初めてお母さんにお目にかかるのに、  
こんなお話をするのはためらわれたんですが・・・」
「はい・・・何でしょうか?」朝子は、ドキリとして改めて姿勢を正した。

「みんなで、花壇の手入れをしていた時のことなんです。  
そこへね、一匹のモンシロチョウが飛んで来たんです。  
ワーワーって子供たちが追いかけましてね・・・。  
そうしたら、誠也君がつかまえたんです」 「・・・」
「チョウの羽を指で持って、しばらく周りの子たちに見せていました。  
ああ、いい子だなぁ・・・って思っていたら。みんなの見ている前で、  
チョウの羽をちぎってしまったんです」
「え!」
「それを見ていた女の子が泣き出してしまいましてね。
困りました」

朝子は、どう答えたらいいのかわからなかった。
胸が押しつぶされそうになった。
「お母さんにこんなことを申し上げるのは心苦しいのですが、  
誠也君は残酷・・・いいえ、ごめんなさい・・・というか、
いつもそうなんでしょうか」

その日の午後7時。 朝子は、夫の誠一郎が帰宅するなり
2階の寝室に引っ張り込んだ。息子はテレビに夢中の様子。
佐藤先生に言われたことを吐き出すようにしゃべった。
一人では、心に仕舞っておけなかったのだ。
「私ね、そんな残忍な子に育てた覚えはないのよ。  
でもね、間違いじゃないみたいだし・・・」
そこまで言うと、涙が出てきたしまった。

にもかかわらず、夫の誠一郎は平然とした表情をしている。
そして、「大丈夫、大丈夫。そんなに心配しなくてもいいよ」
「なによ、誠也が犯罪者になってもいいと思ってるの!」
「なに言ってるんだよ。俺なんか子供のころに、
チョウやバッタ、トンボの羽なんて何百匹むしったかわからんぞ。
カエルもヘビも遊びながら殺してしまったし」
「え?!」
「子供なんてそんなもんだよ」

「それはあなたが田舎で暮らしたからよ」
「違うよ、田舎とか都会とか関係なんよ。
小さい頃は、残酷なもんだよ。  
じゃあ、そうやって子供の頃に平気で昆虫を殺していた俺が、
今でもそうするかっていうと違うんだな。  
いつからかわからんけど、虫一匹触るのさえ嫌になっちまった。  
ましてや殺すなんてとんでもない。大丈夫、
誠也も今のうちだけだよ。  

それより、腹減った。メシメシ! 頼むよ」そう言うと、
誠一郎は階下のリビングに戻ってしまった。
イライラしながらも、朝子も後を追った。
「お父さ~ん。見て見て!」リビングに行くと、
テレビのアニメを見ていた誠也が、 誠一郎を呼んだ。
手には、鉢植えを持っている。
「あのね、これね、僕が作ったんだよ」
小さな丸い茶色のプランター。そこには、
一本のプラスチックの棒が刺してあり、
クルクルッと青いツルが巻き付いていた。

「おおっ! アサガオだな」
「うん。僕がね、学校でタネを蒔いたんだよ」
誠一郎は懐かしく思った。今でもやっているのかと。
自分も小学生のときにアサガオを育てた記憶がある。
タネを蒔き、水をやる。やがて芽が顔を出し、双葉になる。
ツルがどんどん伸びてアサガオが咲く。
どんなにワクワクしたことか。 たしか観察日記を書いたはずだ。
「お父さんも育てたことがあるんだぞ」
「本当?」 「おおっ」

「どこに置いたらいいかなぁ」 「そうだ、庭に置こうかな。
誠也、お前ちゃんと毎日、水をやれるのか?」
「ウンッ、だって学校でだって、毎日お水をあげてたもん。
だからこんなに大きくなったんだよ」
「よし、絶対忘れるなよ」 「ウンッ」
「ウン、じゃなくてハイだ。約束だぞ!」
「ハイ」朝子は、そんな父と子の会話をそばで聞いて、
ちょっとうらやましくなった。

(男の子の気持ちはわからないなぁ)片方で
チョウの羽を引きちぎり、一方ではアサガオを育てる。
何だか悔しい気がした。
さて、翌日から。誠也は父親との約束を守った。
朝起きると、あんなに寝起きが悪かったにもかかわらず、
パッとベッドから飛び出して、イの一番に
アサガオプランターに水をやりに行く。

飯島家には、ささやかながら庭がある。
そこに朝子はいくつかの花の咲く木を植えている、
ツツジアジサイレンギョウ。 家計の足しになればと、
ダイコンやニンジンなどの家庭菜園もやっている。
誠也は、アサガオと一緒に、庭全体の植物や野菜にも
水をやるようになった。

庭の片隅にある蛇口には、いつもホースが取り付けられている。
まず、その脇に置いたアサガオに水をやる。
いつも何か話しかけているようだ。
誠一郎に聞くと、「早く大きくなあれ」と言っているらしい。
その後、不器用にホースを伸ばして、庭中に水を撒く。

そんな毎日が3週間も続いたある日のことだった。
「お父さ~ん、たいへんだよ~」
いつものように水をやりに行った誠也が、父親を呼びに来た。
朝子も、何事かと思い、夫と一緒に庭に行った。
アサガオがね、蛇口を乗っ取っちゃったんだ」
朝子は、「いつのまに」と思った。
昨日、一昨日と、大雨で庭に出て水をやらなかった。
というより、雨が降っているんだから、水をやる必要がない。
そして今朝は快晴。

2日間のうちに、アサガオのツルがどんどん伸びて、
プランターからはみだし、ホースをつたって
水道の蛇口までも伸びたのだった。
朝子は、思わず口にした。「加賀の千代女ね」
「え? なんだよ、それ」と誠一郎が聞いた。
誠也も、「チヨ・・・って何?」

「あら、知らないの?加賀の千代女っていうのはね、
江戸時代の俳人よ。 俳句を詠む人のこと。
朝顔に釣瓶(つるべ)とられて貰い(もらい)水』っていう
有名な俳句があるのよ」「有名な・・・」というところに
力を入れて話すと、誠一郎が言う。
「ううん、有名だな、聞いたことあるぞ」

「朝、起きてね、顔を洗おうと思って井戸のところへ行ったら、  
近くに植えてある朝顔のツルがひょろひょろっと伸びてね、
井戸の釣瓶にからまっていたのね。  
普通だったら、それを断ち切って水を汲むんでしょうけど、
千代女はね、『仕方がないなあ』って隣の家の
井戸を借りに行ったというのよね。
優しい気持ちが出てる俳句でしょ」

「わかった!」それを聞いた誠也が言った。
「わかった、わかった!僕も隣のお家でお水を貰ってくるよ」
「何言ってるのよ、この子は。別にお隣の家まで行かなくても、  
うちには他にも水が出るところはいっぱいあるでしょ。
台所も、洗面も・・・」
「あっ、そうか」
「どうする?誠也。巻き付いたツルをそっとはずして、
他の棒に巻きつけ直すって手もあるんだぞ」と誠一郎が聞く。
「そんなことしたら、可哀相だよ。せっかく、一生懸命に伸びたのに。
うん、僕がお風呂場で水を汲んでくるよ」

「でもなぁ、ホースが使えないと、他の花や野菜にも
水をかけられないんだぞ」
「うん、じゃあバケツを貸してよ、お母さん。
僕が全部に水をやるよ」
「そんなこと言ったって、毎日よ」
「うん、やるよ!」そう言うと、誠也はもう風呂場に駈け出していた。

「あなた、どうするのよ、そんなこと言ったって、
どんどんツルが伸びていったら困るでしょ」
そう夫にブヅブツ言いながらも、息子の思わぬ
優しい心根の触れて嬉しかった。
そこへ、誠也がバケツにいっぱいの水を、重そうに運んで来た。
「チヨちゃんに水をやろうっと」
どうやら、誠也は、アサガオに「チヨちゃん」という
名前を付けたらしかった。

Author:志賀内泰弘




 『忍冬』




時は絶えず流れ、
 今、微笑む花も、明日には枯れる


添うて苦労は覚悟だけれど、添わぬ先から、この苦労

 
P R
    カビの生えない・きれいなお風呂
    
お風呂物語 
  入れてもらえば気持ちは良いが、
  どこか気兼ねなもらい風呂


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