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流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……


Mituo
昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー

 
 
 
 
 

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、言えば…



献血


あまり気のりはしなかった。
谷口綾は、高校のクラスメートのトモコからコンパに誘われた。
綾は、看護学校に通っている。 ものすごく忙しい。
授業も難しくて、ついて行くのが大変だ。
高校の友達の多くは、大学に進んだ。
正直言って、ただ遊んでいるようにしか見えない。 事実、
仲の良い友達からは、「カレシとディズニー・シーへ行った」とか、
「朝までカラオケして21曲歌った」とか、
そんなメールばかりが送られてくる。

適当に話を合わせて返信する。
「私は勉強が忙しいんだからね」と言いたいところだが、
そんなことを言ったら二度とメールが来なくなるに違いない。
友達をなくすのが怖かった。
何度も誘われた。ずっと断っていた。
でも、たまには行かないと・・・。
そう思って嫌々出掛けたコンパだった。

会場は、ちょっとレトロな居酒屋だった。
ホーロー看板があちこちの壁に掛かっている。
相手は、トモコの大学とテニスサークルで付き合いのある
別の大学の男子たちだった。 こっちが4人。
向こうも4人。綾を除いて、全員が大学生。
どうも人数合わせに誘われたらしいとわかった。
ところが・・・。来た来た来た来た!ピーンと来てしまった。
嫌々参加したにもかかわらず、「ああ、きっとこの人が
運命の人だわ」という男子がいたのだ。

自己紹介で、朝岡真司と名乗った。
テーブル席の真向かいになった。
綾は、こんな気分になったのは初めてだった。
ちょっと緊張して、上手く話ができない。
30分もすると、誰が決めたわけでもなく8人が
4人ずつのグループに分かれて 話をするようになった。
1時間後には、それがまた真向かいの2人に分かれて
話をするようになっていた。思い切って、綾は訊いた。

「ねえ、朝岡さんは、どこの出身なの?」
「長野だよ、上田って知ってるかな」
「ごめん」 「あっ、そう」
綾は、昔、一度だけ長野県に行ったことがあった。
従弟にスキーに誘われたのだ。でも、ゲレンデに着くなり
、いきなり捻挫。 以来、長野は鬼門になっていた。

今度は朝岡が訊いてきた。
「趣味は何?」
「う~ん、音楽聴くことかな」
「へえ、どんなの?ラップとかKポップとか」
「ううん、あんまり・・・クラシックかな」
「ええ~高尚だな~。いいとこのお嬢さん?ひょっとして」
「そんなことないですよ」

どうも話が合わない。 綾は、それでも何とか、
共通する会話の糸口を見つけようとした。
なんだか気になるのだ。
「中学とか高校の時って、何かクラブやってましたか」
「ずっと、陸上だった。800とハードル」
「大学はテニスのサークルに入っているんでしょ」
「いや、今日は特別参加。テニスは一度もやったことないんだ。
球技って、どうも苦手でさ」
「ふ~ん、そうなんだ」

綾は、野球が好きだった。プロ野球高校野球も。
もちろん、自分がやるわけではないが、父親の影響で、
幼い頃から何度も野球場へ観戦に行った。 甲子園にも。
もっと、話がしたいと思っていたところへ、
一番離れた席の男子が呼んだ。
「お~い、朝岡、ちょっとこっちへ来い」
「なんだよ~」

代わりに、目の前に他の男子がやって来た。
いろいろ話しかけられたが、気のない返事をしたまま、
時間が過ぎた。朝岡ともっと話がしたかった。
こんな気分になったのは初めてだった。
何かを感じる。波長が合いそうな。
それなのに、共通の話題が見つからない。
そのまま会はお開きになってしまった。

二次会に行く者と、用事があるからと帰る者。
それぞれ店の前で別れた。
メルアドも交換せず、朝岡と別れた。
(直感が間違ってたかな)そう思いを振り切って、
明日の授業の下調べをしておこうと、自宅へ急いだ。
翌日、学校の帰り道。 綾は、一年に一度の行事のため、
ある場所と向かった。 赤十字献血ルームだ。
去年から誕生日に献血をすることに決めたのだ。
今年で二回目。

受付を済ませて、ハッとした。
目の前の部屋から、朝岡が出てきた。
「あっ・・・昨日の・・・谷口さん」
「朝岡さん・・・」
「君も献血やってるんだ」
「まだ二回目だけど・・・誕生日にやるって決めたの。
でも、明日は用事があって来られないから、今日・・・」
「え! 明日誕生日だって?! 
俺もだよ、俺も誕生日、明日!」

そう言いながら、朝岡は肩に掛けたバッグから
免許証を取り出して見せてくれた。
綾も、それにつられて免許証を見せる。
(誕生日が一緒だなんて、なんで聞かなかったんだろう。
星座とかの基本じゃないの)

「あら、あなたたち、知り合いだったの?」
赤十字の人が二人に声をかけてきた。
「ううん、昨日知り合ったばかりなんだけど」と綾が言う。
「あら、そう。じゃあ知らないわね。この人ね、
献血マニアなのよ」 「やめてくださいよ、山田さん」
朝岡が顔を紅くして言う。
「いいじゃない、ホントのことなんだから。

朝岡君はね、ほとんど毎月来るのよ。200mlね」
「うわあ、スゴイ!」
綾は、「なんだか気になる」「波長が合いそうな」
直感が合っていたことに嬉しくなった。
朝岡が言った。
「待ってるからさ、お茶飲んでかない?」…

終わり

Author :志賀内泰弘




中島みゆき劇場 :・わかれうた〜ひとり上手』




『風のうわさ』

山越一郎は、小さな広告代理店を経営している。
この不景気で、青色吐息。資金繰りに詰まり、
一度は「死んでしまおう」と覚悟をしたこともある。
それでも思いとどまったのは、
「もう明日のことを憂うのはやめよう」
「今日のことだけ考えよう」と思ったからだった。

そういえば・・・。 「あの頃」は輝いていたし、無茶もした。
久し振りにそんな学生時代のことを考えていたら、
電車を乗り越してしまった。「いけね!」
慌てて車両から飛び降りた。
そこは、学生時代によく通ったバーのある駅だった。
一瞬、反対方向の電車に乗り換えるため、
階段を上りかけて止めた。
そのまま外へ出て、一駅歩くことにした。
改札から人がドッと吐き出される。
そんな雑踏の中に、どこか見覚えのある後姿を見かけた。

考える間もなく、声を出していた。
「シュン!」呼ばれた男が振り返った。
やっぱり。 それは、一郎が大学時代を共にした
大谷俊太郎だった。
頭には、ところどころ白いものが混じっている。

「おおっ、いっちゃん」俊太郎は、人の波の中で笑顔を向けた。
急に立ち止まったので、次々と人がぶつかってきたが、
体育会系の大柄な身体は揺れることもなかった。
一郎は近づくなり、俊太郎の頬を殴りつけた。
やさしく、やさしく。俊太郎も、拳を作って、
一郎の鳩尾にパンチを食らわせた。
こちらも、柔らかく。
「元気か?」と訊かれ、一郎は、「おおっ」と応えた。
なにしろ、会社は火の車だ。
心の底から「元気だぜ!」とは返事できなかった。
「急ぐか?」と俊太郎に訊かれ、「いいや」と答える。

今度は、一郎が「ちょっと行くか?」と右手を
口元近くで傾ける仕草をした。
「そう言えば、この近くだったな」
「うん、まだやってるらしいぜ」金も無いくせに、
当時は週に3回は通っていたバー「ジェットプレーン」へ
二人は足を向けた。店の前に来ると、
ちょうどマスターがゴミを出しに外へ出てきたところだった。
マスターも彼らと同じように歳を重ねていた。
もう、とうに六十を越えているはずだ。
「おや、懐かしい。二人とも生きてござったか」
あいかわらずに皮肉屋だ。
「懐かしいね」という言葉もなく、
開店前だが、クイッと顔を横に振って、店の中へと
招いてくれた。
一郎は、俊太郎の名前を呼んではみたものの、
少し複雑な思いがした。
自分は今、とても誇れるような生活にない。
今日のことだけ考えて、ギリギリで生きている。
話をすれば、自ずと「今、どうしてる?」と訊かれることになる。
大手の広告代理店を飛び出して独立したのは
バブル華やかりし頃のことだ。
「あの頃」なら、きっと「オレの行き着けの店へ」と
高級クラブでおごっていたに違いない。
マスターが、一番安い銘柄のボトルを差し出した。
「おお、コレコレ」一郎は、氷の入った二人のグラスに、
琥珀の液体を注ぎ込んだ。(そういえば・・・)

いつのことか。俊太郎のうわさ話を耳にしたことを思い出した。
離婚して、同時に仕事も失ったというのだ。
俊太郎は、大学を卒業して3年目に結婚した。
一郎も披露宴に招かれた。奥さんは、食品卸をしている
中小企業の社長の娘だった。 跡継ぎとしての入り婿だった。
みんなで、「逆玉だ」とさんざん冷やかしたものだ。
一郎が、どこからともなく聞いたのは、
何か義父の逆鱗に触れることがあり、
家を追い出されたという話だった。
耳にしたのは、10年くらい前のことだった。
そこまで思い出して、ハッとした。

平日の昼間にもかかわらず、 タートルネックのセーターに
ブルゾンを羽織っている。 下は、ベージュのジーンズだ。
それに、薄汚れたスニーカー。
(今、何をしてるんだろう)一郎は、聞きたい気持ちを抑えて
グラスにウイスキーを注ぎ足してやった。

俊太郎が壁のポスターを見て言った。
それは、ずいぶんと黄ばんでいた。
「オレさ、この映画さ、リツコと一緒に
見に行ったことがあるんだぜ」
「ええ、リツコだって!?」
安西律子。それは、同じクラスのマドンナだった。
なんとか口説きたいと思っていた。
もちろん、二人だけではない。 みんながそう思っていた。
しかし、男に興味がないのか、とうとうリツコは
大学時代、 誰とも付き合うことなく卒業した。
「おいおい、オマエ抜け駆けしたのかよ!」
「おおっ、そうだ」
「コノヤロー」
「もっとも、ただ映画観て、お茶飲んだだけだけどな」
「当たり前だ」 「いい娘だったよなあ」 「うん、可愛かったなあ」
やがて酔いが回ってきた。二人とも口にするのは、
同じことばかりだった。

「リツコ~」 「好きだよ~」 「リッちゃん、好きだったよお~」
そんな中でも、一郎はどこか覚めていた。
(シュンは何をしてるんだろう)しかし、彼が困っていても、
今の一郎には何も力になってやれることはできなかった。
「オレ、そろそろ行くわ」と俊太郎が言い、立ち上がった。
「おお、オレも」 「また来るよ」と、あてのない挨拶をして店を出た。
さっきの駅前まで行って、「じゃあ」と言い、
手を軽く振って別れた。その時、
「ひょっとすると」と思った。 俊太郎も
同じ気持ちだったんじゃないかと。

「今、何してるんだ?」その一言を口にしたくても、
じっと我慢して、ただただ飲み続けていたのではないかと。
一郎は、凍てつく風の中で、ふわっと心に温かいものを感じた。
「ひょっとしてアイツ、オレのウワサも、
誰かから聞いたのかもしれないな」
一人、駅のホームに立って電車を待ちながら、
アイツの今の住所も電話番号さえも聞くのを忘れたことに
気づいた。…

《終わり》

Author :志賀内泰弘




君は吉野の千本桜、色香よけれど、
気(木)が多い



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる







 
Furo611