流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……


Mituo 
昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー

 
 
 

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……



スローフードなお仕事』

「おい!玉ちゃん。まだ返事がないのかよ?」
上司からそう呼ばれたのは、新規事業部の玉置修治である。
修治は、3年前、都市圏に何店舗か展開する小規模な
スーパーマーケットに就職した。
本音では、こんな会社に入りたくはなかった。
故郷の北海道の両親に、 その名前を言っても
「聞いたことがない会社だけど大丈夫なのか?」と訊かれた。
大学時代から付き合っていた彼女にさえ、
「わたし、誰にも言えないじゃないの」と 嫌味を
言われてしまった。

しかし、大手の企業はどこも受からなかったのだから
仕方がない。 そんなこともあって、
気持ちが腐ったまま働き始めた。
ところが、である。これがなかなか面白いのだ。
現場でレジや陳列などの研修を受けた後、
新規事業部に配属になったのだ。
部員は上司とスタッフがたった3人。
「儲かることなら、何をやってもいい」と言われている。

人は、自由すぎると、その自由を持て余してしまうものだ。
ある程度、「この範囲で」と制約された方がアイデアが出る。
でも、修治には、この自由というものが合っていたらしい。
それは、ネットが大好きで、暇さえあればパソコンに向かっていた
おかげだった。人のブログを見ていて、
「流行りの個数限定の無農薬玄米パンを試食しました」とか、
「女性だけにしか売らない豆乳使用のケーキ店」なんていう
記事を見ると、すぐにアクセスをして生産者に会いに出掛けた。
大手では扱っていない商品を目玉としてスーパーの棚に
並べることができた。

「テーマ」を「スーローフード」に絞ったおかげである。
大量生産はできないけれど、
他には無い良い商品に注目した。 小さなスーパーだからこそ
できる技だ。上司や社長までもが評価してくれ、今までの人生で
一番生き生きとしていた。
それはすべて、パソコンがもたらしてくれたものだと信じていた。

さて、「まだ返事がないのかよ?」と上司の八木に訊かれたのは、
北海道は旭川の小さな牧場で作っているソーセージのことだった。
これを見つけたのも、ある女性の「さくらの食い倒れ日記」という
ブログだった。全国あちこちを旅して、
「美味しいもの」を見つけてはブログに「試食体験記」を書くのを
趣味にしているブロガーだった。

この中から、今までにも3点ほど仕入れることに成功を収めていた。
もちろん、売上も上々だった。
通販でサンプルを取り寄せて、「美味しい」と思ったら
少しずつ仕入れて様子を見る。
通常は、そんなスタイルを取っていたが、今回は、
特に力を入れていた。「これだ!」という直感があり、
ブログを見た翌朝、旭川に飛んでいた。

現地へ行くと、本当に小さな小さな牧場だった。
一応、メールでアポイントメントを取ってはいたが、
「私が社長です」と名乗る青年に会うと、
「みんなオヤジがやってるから、工場へ行ってくれ」と言う。
そのオヤジ、つまり父親が会長をしており、
会長でないと話がわからないらしい。
事務所の裏の工場へ行くと、今度は従業員が、
「牧場へ行ってくれ」と言う。会長は、豚舎で、
エサやりの最中だった。

「あの~、メールでお知らせしましたスーパーの玉置ですが・・・」
と挨拶すると、降り返って、「おお、息子から聞いた。
うちのソーセージ食ったか?」と唐突に訊く。
悪気はないらしいが、強面だ。
「いや、まだです」 「…何で食ってもいないのに、
わざわざこんな田舎まで来るんだ?」
「はい、信頼しているブロガーが美味しいって書いてたので」
「へ?」 「…へ? って?」会長が首を傾げた。
それに釣られて、修治も首を傾けた。

「ブロなんとかって、何だ?」
「ああ、ごめんなさい。ブロガーです。
ブロガーっていうのは、ネットの日記でして…」
「へ? …ネットって?」
修司は、「これはダメだ」と思った。 まだまだ年配の人には、
インターネットは遠い存在らしい。 ましてや、この田舎町だ。
それに70歳を越えているように見える。

「あのですねぇ、うちのスーパーではですね、  
スーローフードをテーマにして品揃えしてですね」
「へ? …スロー何?」
これは、もういけないと思った。社長の息子さんと一緒に
話した方がいい。そう判断して、エサやりが終わるのを待ち、
一緒に事務所に戻った。
試食させてもらった。美味かった!本当に美味かった。
こんなに美味しいソーセージは食べたことがなかった。
その後、話はトントン拍子に進んだ。

「ぜひに」とお願いをする。息子の社長に、
「じゃあ、条件を出してください」と言われ、
急ぎ会社に戻って提案書を書いた。仕入れ価格。
そして月当たりの販売予測。賞味期限の調整などを明記し、
その晩のうちにメールした。

ところが、いっこうに返事がない。それこそ、
一日中パソコンのメールチェックばかりしている。
3日目くらいすると、イライラし始めた。
あんなに乗り気そうだったのに。
仕入れ価格が安過ぎたのか。販売量が少ないからか。
5日目には、我慢ができなくなり、もう一本メールを打った。
やはり返事がない。

7日目には、とうとう息子の社長に電話をして、
「メールは届いていますか?」と尋ねた。
「はい、大丈夫です。オヤジに伝えてあります」と言う。
そのとたん、背中にヒヤリとしたものを感じた。
そうか、会長がすべて決めているんだ。
きっと、会長に嫌われたに違いない。
何が悪かったのか?そうだ。きっと、「ブログ」とか
スローフード」とか、知らない言葉を並べ立てたのが
気に障ったのだ。 うん、プライドを傷つけてしまったんだ。

修司は凹んだ。応接のソファにバタンと倒れるようにして寝転んだ。
そこへ、総務の由美がやって来た。
「玉置さん、速達が来てるわよ。ハイ!」
そう言われて手渡された一通のハガキの差出人を見ると、
あの旭川の牧場の会長の名前が書かれてあった。
裏を向けると、黒い墨で、大きな大きな「たった一文字」が、
まさにハガキからはみ出さんばかりに躍っていた。
「諾」ウワォー!修司は、寝転がったたまま、絶叫した。
何があったのかと、目をパチクリしている由美に向かって言った。
「由美ちゃん、ハガキ、ハガキ!ハガキあるよね。
ハガキ1枚頂戴!」手にしたハガキからは、
どことなく糞尿の匂いがした。…

終わり

Author :志賀内泰弘




『港夜景』




『名選手は名監督になれるのか?』

野村克也氏が疑問に答えていた。
王貞治氏と長嶋茂雄氏は、監督としてはまったく怖くなかったという
天才的な選手だったがゆえに苦労を知らず、
哲学がなかったと指摘している

2016年、日本プロ野球高橋由伸(巨人)、金本知憲阪神)、
アレックス・ラミレス(横浜)という3人の新監督を迎える。
球界きっての智将・野村克也氏が
名選手は名監督になれるのかという疑問に答える。
最近の監督は、手腕ではなく、人気取りだけで
選ばれているように思えてならない。

特に今回の人事は、スター選手を据えれば観客も入るだろうという、
安直な考えがどうしても透けて見えてくる。
だが、「名選手、必ずしも名監督にあらず」。
これにもしっかりとした根拠がある。
現役時代にスター選手だった監督、特にスラッガーだった監督は、
攻撃野球を好む傾向が強い。
ホームランが何本も飛び交うような、素人が見てもわかりやすい、
派手な野球が好みだ。言い方を換えれば、
ただ打って走るだけの才能と技術に頼った粗い野球である。
何かの間違いでハマれば確かに強いが、
野球はそんなにうまくいくものではない。
これでは到底、常勝チームなど作れない。

また、スター選手はその才能からデータを必要とせず、
細かいチームプレーとも関係なくやってきた者が多いため、
いざ監督になったら緻密な野球ができない。
そればかりか、その必要性や重要性をまるで理解しようとしない。
そのため有効な作戦が立てられないし、
相手の作戦を読むこともできない。
そしてもう一つ。スター選手は自分ができたことは、
皆もできると思い込んでしまっている。それを言葉に発してしまう。
「なんでこんなこともできないんだ!」という言葉が、
どれだけの選手を傷つけるか。思ったことは何でもできてしまうから
苦労を知らず、そのため並の選手の気持ちや痛みがわからない。
自分のレベルで選手を見るためにうまく指導ができず、
言葉より感覚を重視してしまいがちなのだ。

苦労を知らない選手は絶対にいい監督にはなれない。
私は2年半ほど二軍にいたことがあるが、
これは今となっては良い経験だったと思っている。
二軍を経験して良かったことは、二度とここ(二軍)には
戻りたくないと思えることだ。
お客さんがいないところで野球をやる虚しさ、
打っても打っても自信のつかない不安。
昔の人は「若い時の苦労は買ってでもしろ」という
いい言葉を残したが、まさにその通りで、
苦労しているかどうかは、その後の人生に大きく生きる。

スター選手の代表格といえる王貞治長嶋茂雄のONは
確かに天才的な選手だったが、その余りある才能ゆえに
苦労を知らず、それぞれの哲学がなかった。
だから監督としてはまったく怖くなかった。
ONに共通していたのは、目の前の試合に
一喜一憂していたことだ。
味方がホームランを打つと、選手と同じように
ベンチを飛び出してきていた。
恐らく心のどこかに、現役時代と同様の
「自分が一番目立ちたい」という
気持ちがあったのだろう。

私にはその心境が分からなかった。
最近では原辰徳がまさにこれだった。
確かに自軍の選手がいいプレーをすれば嬉しいし、
リードすれば「よし!」とは思う。
しかし、監督というものは「ではこの先どう守ろうか、
どう逃げ切ろうか」が気になるのが普通だ。
子どものようにはしゃいでいるヒマはない。

現に、川上哲治(巨人)さんや西本幸雄(阪急など)さんが
試合展開によって一喜一憂していただろうか。
監督が初めて喜びを露わにするのは、ゲームセットで
勝ちを収めた時だ。
どんなに勝っても仏頂面だった落合博満(現中日GM)までいくと
もはや変人だが、まだONや原辰徳(巨人)よりはマシだ。
高橋や金本も、スター街道を歩んできた選手である。
先輩たちと同じ轍を踏んでしまわないだろうかということが
気になっている。…

Author :週刊ポスト




君は吉野の千本桜、色香よけれど、
気(木)が多い



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる







 
Furo611