流れ雲

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奇跡の詩(2)
92名中唯一生存した少女が果たした奇跡の生還


乗った飛行機が空中分解し、奇跡的に助かった
一人の少女がいる。
だが、彼女が放り出されたのは身の毛もよだつ
恐ろしいジャングルのまっただ中であった。
これまで苦労をしたこともなく幸せそのものに
過ごして来た少女が、突如、絶望と危険と死だけが
支配する恐怖の世界に放り込まれたのだ。
しかし少女は生きることを放棄することなく、
地獄のような環境と戦って行き抜く方を選んだ。…

そして、実に200キロ以上も緑の地獄を突破して
生還を果たしたのである。
これはまぎれもない実話で、当時「奇跡の詩」として
映画にもなった、命のドラマ、奇跡の詩。


密林の中で

恐ろしい密林での第一夜が始ろうとしていた。
密林のあちこちで何かが動き回る気配がする。
時おり、猛獣のうなり声や襲われた動物の上げる悲鳴が
ひっきりなしにする。疲れているが、神経が高ぶって眠れない。
こうしている間にも、恐ろしい大蛇や猛獣が
忍び寄っているかもしれないのだ。

「バサッ!」その時、近くの木の枝が揺れると、何かが
少女の肩に飛び移って来た。
少女は恐ろしさのあまり声も立てず、息を潜めたままで
身動きもせずにいた。
どのくらい時間が過ぎたことだろう。依然、生き物は、
肩のあたりにへばりついている。
しかし害を与える様子もなく危険がないように思えて来た。

少女は、そっと顔を起こしてその生き物の方に目を向けた。
なんと、その生き物は小さな猿だった。
おそらく、親と離れ離れにでもなったのだろうか、
おびえたように少女の肩にしがみついて
ふるえているのである。「きっと迷子になったのね」

少女は袋からキャンディーを一粒取り出すと、
小猿の方にそっとさし出した。「お腹空いてるでしょ。あげる・・・」
小猿は小さな手をこわごわ差し出すと、キャンディーをつかみ
口に含んだ。小猿がおいしそうに食べてくれたので、
少女は思わず微笑んでしまった。「おいしかった? 
またあげるね」小猿も心なしかうなづいているように見える。
やがて気を許したのか小猿は逃げようともせず、
少女の胸の中に飛び込んで来た。
少女を母親ザルとまちがえたのであろう。
抱きしめると、小猿の暖かい感触とドックドック
脈打つ鼓動が伝わって来る。

今まで忘れかけていた生命の息吹き。じいんとする
なつかしい感触。少女はもう自分は孤独ではないと思った。
同時に生き抜いてどうしても父親に会いたいという衝動が
心の底からわき上がって来るのを抑えることが出来なかった。
「これからずっと一緒にいてね」少女は小猿を抱きしめて
そう誓うのだった。その時から小猿は少女の大切な仲間となった。
地獄のジャングルで知り合った心を許すことのできる
唯一の友達なのだ。少女は起きると、
小猿がそばにいるか確かめる。

キャンディーの袋を取り出すと小猿は近寄って来る。
一粒を自分の口に入れ、小猿にも一つあげる。
小猿はもみじみたいな小さな手で受け取ると、
口に含んでもぐもぐとおいしそうに食べる。
その仕種がかわいいので思わず笑ってしまう。
遭難して以来の始めての笑いだ。
こうして小猿を胸に抱いてまた一日が始まるのだ。

時々、小猿が無邪気に胸を引っ掻いて甘えて来ることもある。
そんな時、少女はリマの海水浴場で恋人と過ごした
なつかしい日々をなぜか思い出してしまう。
抜けるような青い空、白い砂浜、打ち寄せる波、
少女はそうした楽しかった思い出を反すうしながら
ひたすら歩き続けるのだ。また一つ茂みを越え、木の枝を抜けて・・・。

4日目、少女は小猿を抱きながら、ジャングルの中を歩いている。
昨日、キャンディーの袋は大きな蛇を見つけて
逃げ出した時に落としてしまった。
たった一つの食料源を失ってしまったのだ。
食べるものはなく、今は木の葉のしずくをすすることだけであった。
陽だまりの小さな空地で眠り込んでしまい、
水の流れを見失ってしまったこともあった。
だが、川のほとりにだけしかいないという鳥の鳴き声を聞き、
自分が川に近い位置にいることを悟った彼女は
その方向へ歩き始める。
それは鳥類学者だった母親から教えてもらった知恵だった。

こうして彼女は、ワニや蛇に襲われながらも、
父親の言葉、母親から教えられた知識を思い出しては、
ひたすら歩きつづける・・・。
唯一のなぐさめは胸に抱いた小猿だった。
彼女は小猿に語りかけたり、眠る時は子守唄をうたう。
でも今はもうその小猿にあげることの出来るキャンディーすらない。
水の流れをたどっていくうちに、それは小川になった。
小川の周辺は茂みがものすごく 歩くことは出来ない。
少女は小猿を抱いたまま小川の中を歩くことにした。
雨はまだ降り続いている。

「ゴー!」その時、後ろで何かがつぶれるような音がした。
振り向くと濁流が渦を巻いて襲いかかって来る。
雨で水かさが増し、それを塞き止めていた古木が
欠壊し鉄砲水となったのだ。一瞬の出来事だった。
少女は濁流に押しながされそうになるところを
とっさに近くのツルにつかまった。
「キー!キー!」水につかった小猿はおびえて
彼女の肩から枝に飛び移るとスルスルと木の上に逃げて行く。
「行かないで!私をひとりにしないで!」
少女は叫んだが無駄だった。
もうどこを見回しても小猿の姿はない。
小猿はそれっきり少女のもとには帰って来なかった。
こうして少女は再びつらい孤独と戦わねばならなくなった。

かすかな希望 

6日目、やっと雨があがり日が差し込んで来た。
少しだけ希望がわいて来る気分だ。
少女はちいさな空地を見つけると、そこで横たわった。
日の光が全身に降り注がれる。緑の草がクッションのようだ。
あれほどみじめだった気分がちょっぴり晴れやかになって来た。
少女は背中に羽があればいいのにと考えたりする。
だが、彼女の体力はもう限界に達しようとしていた。
体のふしぶしがズキズキ痛む。背中の傷口にはいつの間にか
肉バエが産みつけたウジがわき、傷口を食い荒らしているのである。
もう疲れ果てて動くことさえも難儀なことだったが、
ここでじっとしているわけにはいかない。
彼女は死力をふりしぼって川岸に出ると、
水辺に漂っている大きな木の枝を見つけて、
それらをツルで縛ってイカダをつくり始めた。
イカダというよりも木の枝を束ねた浮き輪のようなものだったが、
これにつかまって川を下るのである。

川はこれまでの雨でかなり増水している。
今なら流れに乗って川を下っていけば、
やがて大河となって人の住むところに流れていくはずだ。
だが、体力がいつまで持つのだろう。
ツルで枝を縛っていると、突然、胸にしびれるような痛みを感じて
少女はのけぞった。自分の胸を見た少女は恐ろしさで
総毛立ってしまった。何と20センチもあるヒルが数匹も
乳房のつけねあたりにぶら下がっているではないか。
ヒルは血を吸って小豆色に変色しているのもあった。
少女は悲鳴をあげてむしり取ろうとした。
しかしヌルヌルとした気味の悪い感触がするだけで
すべって引き離せない。彼女は木の枝を拾うと、
貝殻をこじ開けるようにして一匹、2匹、3匹と
渾身の力で引き剥がしてゆく。
ようやく全部引き剥がし終えた時、
全身から力が抜けて行くようだった。

少女はあまりの恐ろしさにその場にへなへなと
座り込んでしまった。
しばらくは川に近づきたくもなかったが、夜が来るまでに
何とかせねばならない。やがて気を取り直すと、
流木を探そうとして水草の生い茂る水辺に入っていった。
そのとたん、今度は足に猛烈な痛みを感じる。
恐怖で顔をゆがめ、よつばいになってやっとの思いで
岸にあがってみると、ふとももに大きなかみ傷ができて
血がボタボタと流れていた。

獰猛な肉食ドジョウに食いつかれたのだ。
背中の傷はますます悪化して盛り上がって熱を帯びている。
中でウジがうごめいているらしく、その度にズキンズキンと
強烈な痛みが走る。苦痛に懸命に耐え、
絶望と恐怖に戦いながらも、どうにかイカダらしきものが
出来き上がったのはもう夕方近くになってからであった。

一方、捜索隊は8日目にしてやっと機体の破片を発見した。
現場に到達した捜索隊は、あまりにも酸鼻をきわめた
現場の状況に生存者はいないとの結論を下さざるを得なかった。
機体は細かく広範囲に散乱しており、
時たま発見される遺体にしても、腐乱してほとんど
原形を留めていなかったのだ。恐らく、飛行機は
はるか上空で爆発して空中分解を起こし、
粉々になって落下したと考えられた。
この知らせを聞いた少女の父親は、涙はすでに
枯れ果ててしまったのか、顔を両手で覆ったまま
何時間も何時間も椅子に腰をおろしたままであった。

流れのなかで 

少女はイカダとともに流れを下っている。
流れは増水のためかかなりのスピードで流れていた。
川幅も次第に大きくなっていくようである。
もうどのくらいイカダとともに流されているのだろう。
時たま見え隠れする曇った空、濁った灰色のしぶきが
容赦なく顔にかかる。今が夕方なのか朝なのかさえもわからない。
下りながら彼女は眠ったり、変な夢にうなされたり、
幻聴と幻覚が交錯し、現実と夢の区別もつかなくなっていた。
もうだめ、いよいよ私の最期よ。苦しいのは一瞬、
それさえがまんすれば、後は楽になれるんだ。
絶望と苦痛のあまり何度もそう思って手足を投げ出して
死を受け入れようと考えたこともある。
しかしその都度、母親や父親や恋人の幻があらわれ、
彼女の耳もとで叫ぶ声が聞こえる。

「ユリアナ!もう少しだ。がんばるんだ!」
「ユリアナ、私の分まで生きて!」
「ユリアナ、希望を捨てるな!」
9日目の朝、もうろうとした意識で少女は小さなカヌーが
岸につながれてあるのを目にする。また幻覚なのだろうか。
イカダにつかまってほぼ2昼夜、彼女は
気力だけで持ち堪えていた。弱々しく手と足を使って
やっとの思いで岸にはい上がる。小さな小屋があるのが見えた。
人影はなかったが、うっすらと煙が立ち上っているのが見える。
焚き火だ、誰かがいる! こう思うと、彼女はよろめきながら
最後の体力を振り絞って小屋に向かっていった。
もう体力はほとんど尽きかけていた。
まるで頭の中に白いモヤが張りついているようで
すべてがぼんやりしている。彼女はフラフラで
小屋の入口まで来るとついに意識を失って倒れ込んだ。

インディオの青年は、彼女にお粥を進めたが少女は
食べることは出来なかった。お腹の中はほとんど
空っぽのはずなのに食欲が出てこないのだ。
その代わりに少女は水をガブガブとひたすら飲んだ。
一人が彼女の背中の傷にわいたウジをとってくれる。
ガソリンをかけて、苦しまぎれになって出てきたウジを
1匹、1匹、根気よく取り除いていくのだ。
傷は骨まで達していて、取るときには死ぬほど強烈な痛みを伴う。
驚いたことにウジは全部で35匹もいた。
すべてが終わった時、少女は始めて自分は助かったんだという
実感に目頭が熱くなって来た。今、私は生きている、
こう思うと涙が後から後から溢れて来るのだ。
夜になって、もう一人の青年がこのことを町に知らせるため
危険を顧みずカヌーで下っていった。

残った青年は自分がここで番をしているから
安心して休めばいいと言ってくれた。
心の優しいインディオの青年たちだ。
しかし、彼女は眠れなかった。
体は衰弱し疲労でクタクタに疲れているはずなのに、
眠ったと思うとすぐ目が覚める。母のことを思い出して泣いたり、
一緒だった小猿は無事でいるだろうかと心配してみたり、
父のこと、恋人のことなど、まるで次から次へと
走馬灯のように思い出されて来るのだ。
でもそうこうしているうちに、いつの間にか眠りが
少女を捕らえたようであった。

翌朝、彼女は毛布にくるまってカヌーで川を下っていた。
依然、体は衰弱して体中の傷はズキズキ痛み、
立つこともできないが気持ちはすっきりと落ち着いていた。
川はいつもと同じように濁ってよどんでいたが、
小川のせせらぎのように快適にさせてくれる。
頭上で輝いている太陽も、風にそよぐ緑の木々のこずえも、
遠くで鳴く鳥の声も、すべてが少女の帰還を
祝福してくれているように感じるのだ。すべてのものが、
どうしてこんなに美しく輝いて見えるのだろう!
生きていることがこれほど素晴らしく思えるなんて!
こうして、丸一日カヌーで運ばれた彼女はそこから
飛行機に乗せられ、プカルパの町に運ばれることになった。

少女が生存しているという知らせにプカルパの町では
大騒ぎになっていた。一人娘のユリアナが生きているということを
聞かされた生物学者の父親は呆然と立ちすくんでいた。
「まさか、あの地獄のジャングルで10日間も
死なずにいたなんて・・・」
生物学者の彼は、日頃からジャングルのことを知り尽くしており、
人がジャングルの中で迷って2日も3日も生きられるはずはないと
口癖のように言っていたのである。
博士は信じられぬという表情のまま病院に向った。

私は生きている!

少女が担架に乗せられてプカルパの町に着いた時、
人々の中から「奇跡だ!」「奇跡が起きた!」
「神さま!」という声があちこちでささやかれるのが聞こえた。
地面にひざまずいて祈りをあげている人もいる。
少女を幼い頃から知っていた修道女は、
泣きながら奇跡が起きたと言って少女の体をきれいに洗ってくれた。
日頃から、何かと言えば奇跡、奇跡を口にしたがる
修道女のおばさんを、少女もよくからかったこともあったが、
今は不思議に何の抵抗もなくその言葉を聞くことができるのだ。

少女の傷を丹念に調べた医者は、放心したようにつぶやいた。
「全身に切り傷、刺し傷20か所、両目は眼底出血、
左鎖骨骨折、肉食ドジョウに食いちぎられた傷、全治1か月
・・・よく助かったものだ。これくらいの傷だけで・・・」

病室でユリアナは駆け付けてきた父と再会した。
父親の顔を見ても少女は何もしゃべることが出来なかった。
「ママが、ママが・・・死んじゃった・・・」それだけ言うと
その先はもう声にはならない。ただ涙が止めどもなく
溢れて来るだけである。父親の方も流れ出る涙を
拭おうともせずに言った。

「ママは死んでもお前が生きている。よくがんばったね。・・・ユリアナ、
お前が生きているんだ。天国のママだってきっと喜んでいるだろう」
もうこれ以上言葉を交わす必要はなかった。二人はしっかりと抱き合った。
92名中たった一人生き残ったユリアナ・ケプケ。
彼女が語った言葉がある。
人間の偉大さは大きな石を運んだり、巨大な建物を
つくったりすることだけではない。
人間のちっぽけな体からは想像も出きないような力が秘められている。

それは絶望の淵に立たされていようとも、
体力の限界に来ていようとも、
いざとなれば湧き出て来る不思議な生命力なのだ。
こうした底知れぬ力が私たち一人一人に秘められている。
これが神から与えられたものかどうかわからない。ただ、
どんな苦境に陥ろうとも決して忘れてはならないことがある。
幸運にめぐまれ、たゆまざる努力があるとき、
そこに奇跡が起こるということを・・・

終わり

Author:  ジュゼッペ・スコテーゼ




Author:
『世界の絶景まとめVol.3』

 




時は絶えず流れ、
 今、微笑む花も、明日には枯れる


添うて苦労は覚悟だけれど、
  添わぬ先から、この苦労