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流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

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子を持つも持たぬも人の宿命(さだめ)なり 
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お行きなさい(生きなさい)




奇跡の詩(1)
92名中唯一生存した少女が果たした奇跡の生還


乗った飛行機が空中分解し、奇跡的に助かった
一人の少女がいる。
だが、彼女が放り出されたのは身の毛もよだつ
恐ろしいジャングルのまっただ中であった。
これまで苦労をしたこともなく幸せそのものに
過ごして来た少女が、突如、絶望と危険と死だけが
支配する恐怖の世界に放り込まれたのだ。
しかし少女は生きることを放棄することなく、
地獄のような環境と戦って行き抜く方を選んだ。

その日を境に壮絶なサバイバルが始まった。
少女は、親から教えられた知識をフルに活用し、
10日間もの間、地獄のジャングルをさまよったのだ。
そして、実に200キロ以上も緑の地獄を突破して
生還を果たしたのである。
これはまぎれもない実話で、当時
「奇跡の詩」として映画にもなり、
人々の心に一大センセーショナルを巻き起こした。
この映画を観た人は生きる喜びと
生きる勇気を教えられたに違いない。
絶望を乗り越えてひたすら生き抜こうとする
彼女の姿勢は、我々に生きることの素晴らしさを
教えてくれる。
私たちはここに命のドラマ、その名の通り
奇跡の詩を見る思いがするようだ。

過酷な運命

1971年12月24日クリスマスイブの日のこと、
17歳のユリアナは母親と共に、奥アマゾンのプカルパという
小さな町でジャングルの生態研究をしている父を訪ねるため、
リマの空港から飛行機に乗ろうとしていた。
ユリアナはほんの一週間ほど前に17才になったばかりで、
美しい金髪を持つ茶目っ気たっぷりの少女である。
両親はともにドイツ人で父親は有名な生物学者で
母親も鳥類の著名な学者であった。
ユリアナは物心がついた時から、父の研究のために
ドイツから遠く離れたここペルーに引っ越して来ていたのである。

日本の3倍以上という面積を持ちながら、
ペルーという国はまったく異なった二つの顔を
合わせ持っている国でもある。
太平洋岸に位置する平野部分は雨が少なく
比較的乾燥した気候地帯である。
都市から一歩もでると、延々と果てしなく砂漠が続いているのだ。
ところが、いったんアンデス山脈を飛び越してしまうと、
今度は高温多湿で人跡未踏の原生林が
どこまでも続いているのである。
こうした文明の手の及んでいない原始林地帯が
この国の実に6割以上を占めているのだ。

搭乗した飛行機は4発のターボプロップのプロペラ機で
目的地はアマゾン川流域にあるイキトスという町である。
イキトスは人口5万ほどのアマゾン奥地では最大の町である。
生物学者の父がいる所は、途中のプカルパで降りて、
さらに車で2日ほどかかる不便な場所にあった。
プカルカまでの飛行距離は400キロほどだったが、
途中で標高6千6百メートルもあるアンデス山脈
飛び越えねばならない。従って、7千メートルの高度まで
上昇せねばならないが、この上空はアンデス山脈
巻き起こす乱気流で飛行機がよく揺れることで知られている
空域でもあった。

この日の便は地元でクリスマスを祝おうとする客で
満席状態である。少女の後ろの席に坐っている幼い姉妹は、
アメリカから来たらしく先ほどから楽しそうに
クリスマスソングを歌っている。
離陸してまもなく、母親から誕生日の
翡翠の指輪のプレゼントを贈られたユリアナは
大はしゃぎだった。

しかしお昼頃、アンデス上空にさしかかったとき、
飛行機は乱気流にまき込まれて激しく揺れ出した。
揺れはおさまるどころか、ますます狂ったように
上下に激しく振動を繰り返し始める。
数人の乗客から鋭い悲鳴が上がり、棚からは
ばらばらと荷物が落ちて来た。突然、
ものすごい雷鳴とともに凄まじい閃光が走った。
「ビシッ!」鈍い音がした。ガンガン、機内が上下に大きく揺れる。
「きゃぁー」窓越しに翼からオレンジ色の炎が
メラメラと吹き出しているのを見て少女は悲鳴を上げた。
すべてが非現実的でコマ落としのフイルムのように
動いているようであった。すぐ横では母親が両手で顔を覆って
うずくまっているのがちらりと見える。
次の瞬間、目の前が真っ白になり、同時に猛烈な風と寒気が
ワーンと体中に襲って来た。体が宙に浮いているのか、
逆さになっているのかさえわからない。
体中の力が抜けるような奇妙な感覚になり
ユリアナは意識を失った。
薄れていく意識の中で、少女が最後に見たものは、
遠くにそびえるアンデスの山々と灰色の空と眼下に広がる
うっすらとしたジャングルの樹海のシルエットであった。

緑の魔境

頬を打つ冷たい雨の感覚と脇腹の締めつけられるような痛みで
気がついたユリアナは、最初、何が起こったのかわからなかった。
次第に記憶が戻ってきた彼女は、飛行機が墜落し
自分がシートごと空中に放り出され、運よく
ジャングルの木々に引っ掛かったために、
それがクッションの役割を果たして生き残ったことを知った。
腹が締めつけられる感覚は、自分が逆さまになった
シートの横に倒れ込んでおり、安全ベルトが
腹に食い込んでいるからであった。

彼女の周囲には2、3の遺体と飛行機の残骸が折り重なっていた。
目に見えるものは黒焦げになった死体と散乱した荷物ばかりである。
よろめくように立ち上がって、歩き出そうとした少女は、
そばにあった死体につまずいて倒れそうになった。
それを見た彼女はぎょっとして思わず手で口を覆った。
遺体は機内でクリスマスソングを歌っていた幼い
アメリカ人の姉妹だったのだ。
彼女らはニューヨークからはるばるきたと言って
陽気にはしゃいでいたのである。
それが今は、髪を振り乱して目を見開いたままの
ものすごい形相になってボロクズのように折り重なるように
横たわっていた。
しかし、この姉妹はまだましな方で、目につくものと言えば、
手足がバラバラになって人の形を留めていない死体ばかりである。

「ママー!ママー!」少女は何度も母親の名を呼んだ。
それこそ声を限りにして叫んだが、
雨の降り続く不気味なジャングルの中に
虚しく吸い込まれていくだけである。
その時になって少女はメガネがなくなっていることに気がついた。
彼女は軽い近視だったのである。
機内で喜んで左手の薬指にはめた翡翠の指輪も
どこかに飛んでしまっていた。

のどがカラカラで焼け付くようだった。
彼女は広い葉っぱについた水滴を集めてそれでのどをうるおす。
泥に混じって落ちていたキャンディーの袋を見つけた彼女は、
それを拾うとびっこを引きながらあてどもなく歩き出した。 
キャンディーを一粒取り出して口に含む。
たちまち甘酸っぱい味が口中に広がってゆく。
彼女は自分に言い聞かせた。さあ、歩くんだ。歩くしかない。
少しでも希望があるうちに歩き続けるんだ。

こうして果てのないジャングルの中で彼女の生きるための
戦いが始まった。
一般に、緑の魔境と言われるジャングルで、
人が2日間生き続けることは不可能だと考えられている。
うっそうと茂るジャングル内には想像を絶するような危険が
そこかしこに潜んでいるのだ。

ジャングルにわんさといる獰猛な蚊は服の上からでも
平気で刺してくる。しかも、これらは恐ろしい熱病のもとになる
病原菌を媒介することでも知られている。
気が狂いそうになるほどの猛烈な蚊とブヨの攻撃に
発狂する人間も多い。手の届かぬ傷口に
肉バエに卵を産みつけられた時は悲惨そのものだ。
ウジは成長するにつれてそこら中の肉をむさぼり食い、
骨にまで達するほどにズタズタにされてしまうからだ。
最後には皮膚の下は虫食いの穴だらけの
スカスカという恐ろしい状態にされてしまうこともある。

また、木蔭には猛毒を持った蛇が身動きもせずに
かま首だけ持ち上げて赤い舌を出し入れしている。
朽ち果てた枯れ木や石の下には、何でも食い尽くすという
獰猛なアリや数十センチはあろうヤスデやムカデが
とぐろを巻いている。
沼には、20センチはあろう巨大なヒルがいて、
手と言わず足と言わず体中に吸い付いて来る。
いったん吸い付いたヒルを引き剥がすことは
容易なことではない。しかし恐ろしいのはヒルだけではない。
肉食の恐ろしいドジョウもいて、これに食らい付かれると、
壮絶な痛みとともに肉を深くえぐり取られるのだ。

この他、沼や河の至る所には牛でも食い尽くす
獰猛なピラニアや馬さえも感電死させてしまうという
電気ウナギも生息している。水辺にも危険が一杯だ。
枯れ木だと思って知らずに近づくと巨大なワニが
大きな口を開けて待ち構えていたりする。
この恐怖の捕食動物は、頑丈な口で
獲物を食わえ込むと恐ろしい力でグイグイと
水中に引きずり込んでしまう。
そして、水中で骨もろとも細切れにして
飲み込んでしまうのである。

水生の大蛇アナコンダは音もなく忍び寄って来る
殺人マシーンである。全長8メートルにも達し、
胴まわりは巨大な丸太ほどある。
これにかかると、生きたまま鵜呑みにされるか、
長い胴体で巻きつかれて体中の骨を
粉々にされてしまうのだ。

しかし何よりも絶望的なのは右も左もわからぬ
ジャングルの地形である。
日の光も差し込まぬ薄暗い気味の悪い密林の中を
歩いていると、自分がどの方角に向っているのか
まったくわからなくなる。何度も何度も同じ場所を
堂々めぐりしていても気がつくこともない。
やがて、妄想がわき、幻聴、幻覚などに襲われ
発狂していくのである。

少女は必死に歩き続けた。歩きながら彼女は
生物学者である父の言葉を思い出していた。
「ユリアナ、密林の中で迷ったら、水の流れる方へ
たどればいい。どんな小さな流れでも、
やがては大河となってゆくものだ。
大河のほとりには必ず人が住んでいるからね」
少女は何度も何度も父親の言葉を頭の中で反すうした。
雨のあとに出来た流れを見失わないようにしながら、
彼女はひたすら注意深くたどっていくのであった。

つづく



Author:
『世界の絶景まとめ』

 




時は絶えず流れ、
 今、微笑む花も、明日には枯れる


添うて苦労は覚悟だけれど、
  添わぬ先から、この苦労