流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

漢の韓信-(116)

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


こうして、こうすりゃ、こうなるものと、
  知りつつ、こうして、こうなった


メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.



Kanshin021111 韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
国士無双」「背水の陣」
「四面楚歌」
そんな彼を描いた小説。 
 
 
 
漢の韓信-(116)

どうだ、体の具合は?」
韓信のもとに使者が現れたのは、その後、
間もなくであった。
使者は、名を武渉(ぶしょう)という。
盱眙(くい)の出身で、純粋な楚人であるらしかった。
いよいよ私も、項王に一目置かれる存在となったか。
韓信は過去を振り返り、自嘲気味に笑った。
かつて自分はなにを進言しても目もくれない
項羽に不満を持ち、楚を見限った。
ところがいまや自分は斉王となり、
ようやく項羽に認められる存在となったのである。

見返してやった、という気持ちは確かにあった。だが、
それで人生の目的を達したとは、当然韓信は考えない。
「漢王はひどい奴で、あてにできぬ男です」
武渉はそう言って、話を切り出した。
韓信としては、予想どおりの話の展開なので、
それを理由に会見を打ち切るつもりはなかった。
項羽の気持ちを知る機会はそう多くなく、
使者の言上から楚の実情を知り得る
良い機会だと考えたのである。

「項王は秦を破滅させたのち、将軍たちの功績を数えて
土地を割き与え、それぞれの領地の王とし、
士卒を休息させました。
漢王は功績相応の領地を得ておきながら、
勝手にそれに不満を持ち、いまや楚を攻撃しています。
欲が深く、満足することを知らない、そんな奴です」

「……ふむ。続けるがいい」
「そもそも漢王は、鴻門で項王に情を受けて、
今に至っております。
あのとき項王は、漢王を可哀想に思い、
生かしてやったのであります」
「そのときの仔細は私も知っている。
確かにその通りだ」
「ところが危機を脱した漢王は、何度も約束に背き、
項王を攻撃する始末……。
奴に親しみをかければ裏切られ、約束をすれば破られる。
どうやったらそんな男を信用できる、というのですか」

劉邦に反転して攻撃しろと献策したのは、
他ならぬ自分……。
この男はそれをわかっていて言っているのだろうか。
韓信には武渉が間接的に自分を
批判しているかのように思えた。
しかし、だとすれば劉邦がいま苦境にある
根本的な原因は、自分にあるのかもしれない。
自分の策に乗って行動している劉邦を見捨てることは、
過去の自分の献策が間違いであったことを
示すことになる。韓信は、そう考えた。

「漢王に反転を勧めたのは他ならぬこの私であるが、
それには私なりの考えがあってのことだ。
しかし、その判断が正しかったかどうかは、
他人と論じたことがないので確信がない。
良い機会なので武渉どのを相手に論じてみたいのだが、
いいだろうか」

使者の武渉は、突然の韓信の問いに、
どう答えてよいのか分からぬ様子だった。
「は……?」
武渉は使者としての責務を一時的に忘却したかのような、
間の抜けた反応を示したが、韓信はそれに構わず
話し始めた。
「幼少の際、私は師から聞いたことがある。
人が病に倒れたときは、その体内に病原が宿っていると。
病原の正体は菌であるが、不思議なことに
その菌を駆逐して人を快方に向かわせるものも、
菌なのだそうだ。

つまり人の体内には善玉の菌と悪玉の菌が共生しており、
ひとたび悪玉の菌が活性化すると、
善玉の菌はそれを駆逐するために戦いを挑むのだ。
病に倒れた人の体を乱れた世界と置き換えてみれば、
私には菌の戦いが現在の我々の戦いを
象徴しているかのように思える」
「すなわち、我々が社会において菌のような
存在だと言うのですか」
「うむ。人の体に自浄作用があるのと同じように、
社会にも自浄作用があるのではないかと
考える次第だ。

人が戦い合うのは、つまるところ世界を
平和に維持するためではないかと。
しかし、そう考えると皮肉だ。
平和のために戦い続けるなど、実に人というものは
救われない生物だと感じざるを得ない」
しかし漠然とした感情が彼を不安にさせるのであった。
「…………」
「意識と知恵を持つ人類がやっていることは、
それを持たぬ体内の菌の働きと変わらない。
しかし戦い合わねばならぬとしたら、
せめて少しでも世界を改善させたいものだ。
だが私の見る限り、項王の戦いの目的は
そうではなかった。
彼は覇権を握ると新安で捕虜を穴埋めにしたうえに
咸陽を焼き払い、諸国を分割して王をたてた。
秦が実現した統一国家を否定し、
世界を逆戻りさせたのだ。

結果から見ると、秦によって故国の楚を
滅亡に追いやられた項王が、民族的恨みを
はらしたに過ぎない形になっている」
武渉はこの韓信の発言を聞いて、
信じられないとでも言いたそうな顔をした。
「斉王様は、秦の統治が正しかった、と
仰りたいのですか」
「秦の改革はやや性急過ぎた感は否めないが、
諸国を廃して郡や県を置くという統治策自体は
素晴らしいものであったと思っている。
私は国境というものは少なければ少ないほど
良いと考えているのだ。
人は国境の垣根を越えて交流し合うべきだ。
そうすれば血は混じり合って、
民族の壁はなくなるに違いない」

韓信の言葉は、この時代ではかなり
特異なものであった。
彼は国があるからこそ争いごとが絶えない、と
主張しているのである。
「仰ることは、理屈としてはわかります。
しかし、人々がそれを受け入れることは
ありますまい。人は、基本的に
安定を求めるものですから」

武渉はそう言って韓信の言を否定した。
「私にもそのくらいのことはわかる。
強引にその政策を推し進めた秦が
たった三十年で滅んだという事実も、
君の正しさを証明しているだろう。
ゆえに私は思う。

先ほど私が言ったような社会が完成するまでは、
五十年、いや百年という時間が必要ではないかと」
「私には疑問ですな。百年のちの世界にも、
きっと国境は依然として存在しているでしょう」
「うむ……実を言うと私にも自信がない。
しかしその兆し程度のものは
存在しているのではなかろうか……
そう願いたいものだ」

「しかも今までのご発言は、あなた様が
漢王に味方する充分な理由にもなっておりません。
果たして漢王の天下になったとして、
将来世界がそのような姿になっているという
保証があるのでしょうか」

「保証か……いや、それはない。
しかし、項王の天下になったとしたら、
その可能性は皆無だ。
彼は、楚人による楚人のための世界を
築き上げるに違いない」

韓信はそのように項羽を評価することによって、
武渉がどのように反応するかを注視した。
項羽を敬愛する楚人であれば、
今の発言に激怒するはずだと思ったのである。

しかし武渉にその様子はない。
それどころか、彼は平然とした表情のまま、
実に大胆な発言を韓信に浴びせたのである。
「人の思いはそれぞれ違い、
しかもどれが正しいということもありません。
項王には項王の、漢王には漢王の思いがあり、
斉王様にもそれがございます。
あなた様がご自分のお考えを
実現する手段としては、漢王に
それを求めるのではなく、あなた様ご自身で
それを実行なさることに尽きます」
「…………!」

つづく


Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.



愚人は過去を、賢人は現在を、
狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…


『 百億の花 』






人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば、言い訳になるから……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる



P R
    カビの生えない・きれいなお風呂
    
    お風呂物語