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流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……

 

Mituo 
昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー

 
 
 
 
誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……


一目惚れしたのは、私が先よ、
手を出ししたのは、あなたが先よ


河口湖・パク・ジュニョン
作詞:石原信一・作曲:浜圭介


覚えてますか 別れの涙
夕映え染めた みずうみホテル
たどりつけない 愛の岸辺
激しく 燃えた夏の想い出
河口湖へは 出かけましたか
わたしのいない みずうみへ
枯葉舞う 季節です
愛がこの世の すべてでした





『里帰り』

田中麻衣子は、毎年、お盆が近づくと
里帰りしている。
夫の忠臣は、いつも仕事で忙しいので、
子ども二人を連れて先に行く。
家事をしなくてもいいので、息抜きにもなる。
麻衣子にとっては、一年のうちで、
一番の楽しみだった。
今年も、中学2年と、小学5年になる
二人の男の子を連れて、 実家を
訪ねる予定をしていた。
来年は二人とも受験だ。 ひょっとすると、
そんな余裕はないかもしれない。

子供たちも、おじいちゃん、おばあちゃんに
会えるのを楽しみにしている。
というよりも、お小遣いをもらえるというのが、
一番の目的なのかもしれないが。

ところが、ゴールデンウイーク明けに、
夫の忠臣から、「ちょっと、話を聴いてほしい」と、
改まって言われた。ドキッとした。
「実は、会社の経営が悪くて・・・」と言う。
忠臣は、中堅どころの電気部品メーカーに勤めている。
45歳、開発部の課長だ。以前から、
会社の業績が芳しくないことは耳にしていた。
しかし、今回は、ただ事ではない様子だ。

「近く大きなリストラがあるらしい。  
ウワサだと、20%の社員が対象になるって聞いた。  
40歳以上が狙い撃ちにされるかも。  
外資系に買収されるって話もある」
麻衣子は青ざめた。
7年前に住宅ローンを組んで家を買った。
当時は景気が良かったので、精一杯、
銀行から借りた。
それが最近では支払いが苦しくなっている。
当て込んでいたボーナスが減ったのだ。
その上・・・。

麻衣子は、結婚する前、金融機関に勤めていた。
そのおかげで、少しは人よりお金の知識に明るい。
それが、こんなときには、反対に作用する。
(たぶん、今、家を手放しても借金だけが残るわ)
そう思うだけで、目の前が真っ暗になった。
辛い話を自分の心の中だけに仕舞っておくことは
できないものだ。でも、子どもに
心配させるわけにはいかない。
長男の智也が聞いてきた。

「なんか、お母さん最近、元気ないよ。
どこか具合が悪いんじゃないの?」
「ううん、大丈夫。  お母さんも年だから、
あんまり心配かけないでよね。
ちゃんと勉強してるの?」と切り返す。
「チェ! せっかく心配してやってるのに」と
不満げな顔つき。

「今年はさあ、ちょっと早めにおじいちゃんちへ
行かない?  
おじいちゃんがさ~、若い頃に買った
鉄道模型をくれるっていうんだ」
智也は鉄道ファンだった。
趣味が同じということで、麻衣子の父親と
仲がいい。 というよりも、麻衣子の父親の
影響で、鉄道が好きになったのだ。

「裕也もさー、カブトムシを取りたいって言ってるし」
裕也とは、次男のことだ。
麻衣子は、一層心が暗くなった。
家族で、北海道まで行く交通費だけでたいへんだ。
ローンさえ苦しいのに、どうやって捻出したらいいのか。
いつリストラが行われるかもしれない。
ビクビクしながら毎日を過ごしていた。
そんな中、だんだんと、夏休みが近づいてきた。

一番の親不孝は、親を心配させることだ。
もし、娘の旦那の会社が危ないと聞いたら・・・。
でも、それを黙ったまま、過ごすわけにはいかない。
最初は、「智也も裕也も来年は受験でしょ。  
今年は小樽に帰らずに、勉強させるわ」と
言い訳するつもりだった。
ところが、先に智也が祖父に電話を
してしまっていた。
鉄道模型をもらうのを楽しみにしていると・・・。

麻衣子には、もう一つ、悩みがあった。
毎年、夫の名前で、両親に豪華な
お土産を持って行ってた。
ある年には、お酒の好きな父には、
岩手の有名な酒蔵の吟醸酒
母には、ブランド物のミニ・リュック。
友達と日帰りのウォーキングを趣味にしているのだ。

里帰りはあきらめてでも、 なんとか年に一度の
豪華なプレゼントだけはできないかと思案していた。
(あ~あ~、どうしてもお金が足りない)
よほど、夫に内緒でクレジットローンに
手を出そうかと思ったが、留まった。
借りても返す当てがないのだ。
とうとう、心の中に悩みを仕舞っておくことができず、
ポロッと母親に電話で零してしまったのが、
7月の中頃のことだった。

「あんた、何か隠してるでしょ」
さすがに肉親だった。 心配事は、
言わなくても伝わるものだ。
全部話した。住宅ローンの返済が苦しいこと。
大きなリストラがあるかもしれないということ。
そして、今年のお盆には、
帰省できないかもしれないということ。

案外、カラッとした返事だった。
「こんなとき、あんたがしっかりしなくちゃどうするの!  
忠臣さんが一番辛いのよ」
そう言われてハッとした。きっと、夫は、
会社の中で大変なのに違いない。
自分が弱気になってどうするのだ。
何度も励まされて電話を切った。

それから、3日後のことだった。
麻衣子のもとへ、小樽の母親から現金書留が届いた。
開封すると、なんと20万円も入っていた。
おそらく、年金からやりくりしてくれたのだろう。
実は、そうなることを、チラリと予想していた。
それもあって、言いたくなかったのだ。
(忠臣さんに相談してから、返そう)と思った。
今年は、子どもたちにきちんと事情を説明して、
里帰りは止めにしようと思った。
でも、プレゼントだけは送りたい。
頭の中で、財布のやりくりをあれこれ巡らせた。

その時だった。 一万円札とともに、
一枚の紙切れが封筒から出てきた。
母親のメモ書きだった。
「麻衣子へ  古い日記を読み返していたら、
こんなものが出てきました。  
手土産は何も持って来なくていいから、  
お盆には、これを使わせてちょうだいね。
(ちょっと古いけど、有効期限は
書いてないみたいだから)
母・敏子」

メモ書きとともに、古い古い画用紙の
切れ端が入っていた。
横に点線が何本か引かれ、そこには・・・。
「肩たたき券」と書かれてあった。
五枚つづりだった。
何年生のときだったか、はっきりと覚えていない。
でも、間違いなく、麻衣子が母の日の
プレゼントに贈ったものだった。

(甘えさせてもらおう。ありがとうお母さん)
それは、子供たちが
夏休みに入った日のことだった。…

Author :志賀内泰弘


 宿 中条きよし -護あさな-



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる



君は吉野の千本桜、色香よけれど、気(木)が多い