流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場一樂編

妄想劇場一樂編

信じれば真実、疑えば妄想……


バイカル湖の悲劇~
人類史上、未曾有の大量凍死~


シベリアの真珠


バイカル湖中央アジアとシベリアの中間に位置し、
周囲を深い原生林に囲まれた三日月型をした
巨大な湖である。
長さは640キロほどで総面積は31,500平方キロもあり、
平均深度は730メートル。
この巨大な湖に約350の河川が流れ込んでいる。
別な表現で言えば、琵琶湖の面積の50倍、
水量では850倍である。
これは北米の5大湖の全水量に匹敵する。
つまり、地球上の全淡水の2割の量を
占めていると言えば、バイカル湖がいかに
巨大な湖なのかわかるだろう。
この巨大な湖は、一年のうち半分は氷に閉ざされ
、湖面全体が凍ってしまうという
極寒の気象条件下に置かれている。
凍った巨大な湖面はシベリアの真珠とも謳われ
大変美しいものである。
しかし、この湖の底には今も、25万とも言われる
大量の人間の魂が眠っているという事実は
意外に知られていない。
歴史の闇に葬られてしまった悲しい史実の
一つがここにある。

死の逃避行の開始

話は、第一次大戦の最中。連合軍陣営として
ドイツとの戦いを続けていた帝政ロシアに、
突如、革命が起き、ロマノフ王朝は崩壊してしまった。
1917年2月のことである。
やがて、政権を握ったソビィエト政府はドイツと
休戦協定を結んでしまい、
逆に、ロシア国内で帝政ロシアの復活を目指す
白軍との戦いを始めた。

白軍は帝政ロシアのコルチャック提督に率いられ、
東ウラルのオムスクという都市を拠点に、
革命軍である赤軍と激しく戦ったが、
1919年の11月についに占領されてしまった。
そこで再起をはかるために、東に逃れることとなった。

目指すは赤軍の追手のかからぬシベリアの奥地である。
白軍は50万人を数え、それに帝政時代の
貴族、僧侶などの亡命者75万人が加わった。
うち、約25万人以上は女性や子供だった。
彼らは帝政ロシアを復活させるための軍資金
約500トンのロマノフ金貨と財宝を携えていた。
軍民合わせて125万人の大キャラバンは、
赤軍に追い立てられるかのように
死の強行軍を開始した。

しかし、目指す目的の太平洋岸に到達するには、
8000キロもある広大なシベリアを横断しなくては
ならなかった。折しも、気温は急激に下がり
恐ろしい冬将軍が到来していた。
気温は、連日零下20度まで下がり、
烈風は恐ろしいうなり声をあげて吹雪となって
人々に容赦なく襲いかかった。
吐いた息は音をたてて凍り、肺の中は
霜のようになって呼吸することさえ出来なくなる。
まぶたの前にはツララがぶら下がり、
泣きたくても涙は凍ってレンズのように
目をおおってしまうのである。

襲いかかる恐ろしい寒さ

氷点下70度の激寒の中、25万の人々の
死の行進が始まった・・・
行軍開始より凍死者が後を絶たなかった。
動けなくなった者はそのまま見捨てられた。
最初は励まし合っていた人々も、今は無表情で
足を無意味に交互に動かしているだけだった。
毎日毎日凍死した死人の列がその跡に
連なっていった。
20万の人間が一晩で凍死した日すらあった。

それでも、死の行進は休むことなく続けられた。
3か月がたった。最初125万いた人々は
25万人ほどに減ってしまっていた。
脱落し見捨てられた人間は大部分が
凍死したのである。やがて、燃料も底を尽き、
運搬のための馬もあまりの寒さにことごとく
死んでしまった。ついには、500トンの金塊も
見捨てられる時が来た。

それでも、残った25万の人々は、
2000キロ離れたイルクーツクまでたどり着いていた。
しかし、人々の前には凍った巨大なバイカル湖
たちふさがっていた。
凍った湖面はガラスのようにキラキラ光り、
厚さは3メートルほどあった。
向こう岸までは80キロほどと思われた。
人々は今一度、渾身の力を振り絞って
バイカル湖を横断することとなった。

25万人の人間の集団がトボトボ渡り始めた。
それは、まるで亡者の行進のような景観だった。
その時だった。脳天をもカチ割るかのような
恐ろしい寒波が彼らに襲いかかったのだ。
たちまち猛吹雪となり、バイカル湖の上は
極限の寒さにまで下がり始めた。
その寒さは、零下70度にまで下がり、もはや
いかなる毛皮を身にまとっていようと無意味であった。
湖面、中ほども行かぬうちに何千人もの人々は
動けなくなり次々と凍死していった。

一人の婦人が急に産気づいたが、もはや、
誰もそれに手を貸す者などなく、無表情で
通り過ぎて行った。
産声がほんのしばらくの間、聞こえていたが、ほどなく、
猛烈な風の切り裂き音にかき消されてしまった。
哀れな婦人は赤ん坊とともに、そのままの姿で
コチコチに凍ってしまったのであった。

だが、残りのすべての人々にも、まもなく、
同じ運命が待ち構えていた。
やがて、気の狂いそうになる寒さの中で、
25万人の人間が折り重なるように凍死した。
一切合財の動くもの全てが凍りつき、
もはや湖面上に生きているものは存在しなくなった。
累々と連なった凍死者を弔うかのように、
猛吹雪が立てる恐ろしい切り裂き音は、
悪魔の雄叫びのごとくいつまでも
鳴り響いていた。

暗い湖底に今なお眠る魂

凍死した25万の屍は数カ月もの間、
そのままの状態でとり残されていた。
やがて、春が来て雪解けの季節となった。
そのうち湖面の氷も溶け出した。
そうして、兵士や女性、子供を含む25万の
凍死した屍はゆっくりバイカル湖の水底深く
引込まれるように沈んでいったのである。

遺体の中には、生まれたての赤ん坊とともに
凍ってしまった婦人も含まれていた。
こうして、125万人いたキャラバンはことごとく
死に絶えてしまった。
人類の歴史上、これほど多くの人々が
凍死した事実は前例にない。
バイカル湖の暗い湖底には今も恨みを残して
死んだ数十万の魂が眠っている・・・

Author: 庄司浅水/世界の奇談



『ロシア音楽』黒い瞳




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