流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場一樂編

妄想劇場一樂編

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


想い出まくら  小坂恭子
作詞:小坂恭子;作曲:小坂恭子


こんな日は あの人の 真似をして
けむたそうな 顔をして 煙草をすうわ
そういえば いたずらに煙草をすうと
やめろよと取り上げて くれたっけ

ねぇ あなた ここに来て
楽しかった事なんか 話してよ 話してよ
こんな日は あの人の 小さな癖も
ひとつずつ ひとつずつ 思い出しそう




『こりゃいかん!~コンビニものがたり』

「いらっしゃいませ」丹羽光太郎は、
コンビニに入るなり、 ぐるっと見回した。
そして店内を一周。
「別に特に変わったところは見受けられないなぁ」と呟いた。

つい先ほどのことだった。
「おかしいですねぇ」 「そうなんですよ・・・」
光太郎は、オーナーと狭い部屋で
パソコンのデータを見ながら腕組みをしていた。
光太郎は誰もが知るコンビニチェーンの本社に勤めている。
仕事はスーパーバイザー。
担当地区にあるコンビニ各店をグルグル巡回して、
売り上げが上がるようにと指導・監督するのが仕事だ。

担当する優良店の一つが、どうしたことか、
この1年くらいの間に売り上げがジリジリと落ち込んでいる。
景気のせいではない。同じブロックの他の店は、
どこも反対に伸びている。
「ホントにおかしいねぇ」何もかも徹底的に調査した。
それでも原因がわからない。

ただ一つ・・・「もしや」と思って光太郎がやって来たのが、
100メートルほど離れたところにあるライバル会社の
コンビニ店だった。

「お兄さん、何か探してるの?」
「え?」振り向くと、そこには小柄な小太りの
オバサンが立っていた。
ユニホームを着ている。この店の店員だった。
「あ、ああん。電池ないかなと思って・・・」
光太郎は、とっさにウソをついた。
「敵情視察に来ています」とは口が裂けても言えやしない。
「それならね、こっちこっち」おばさんは、
小走りに棚の反対側へ回った。そして、
乾電池を手に取って、「単三?それとも単二?」
「あ、はい・・・単三ください。
目覚まし時計のが切れちゃってね」
「あら、大変。ひょっとして、
今朝、寝坊しちゃったんじゃないの?」
「当たり!」光太郎は、適当に話を合わせて、
オバサンの後を追いかけるようにしてレジに回った。

それにしても、なんて店だろうと思った。
どうみても60歳を過ぎている。
本人はテキパキしているつもりだろうが、
動きが緩慢だ。 この店のオーナーは、
基本がわかってないんじゃないかと思った。

コンビニの売上を伸ばす、簡単な方法がある。
若くて美人のアルバイトを大勢雇うことだ。
それを目当てに、男性客が押し寄せる。
逆に、イケメン男子を雇うのもいい。

日夜、売上アップのために努力をしている
人間としては残念な話ではあるが、
それが偽らざる実体なのだ。
光太郎は、一万円札を差し出した。

「はい、先に大きい方のお釣りね。
よく見ててね・・・五千円札と、  
千円、二千円三千円、四千円。全部で九千円ね。  
念のためにお兄さんも数えなおしてね。
余分にあったら、ちゃんと正直に返すのよ」
オバサンは、ニコニコ笑いながら、
自分の口にした冗談にご満悦の様子。
光太郎は、(厚かましい対応だけど、一応ちゃんと
お釣りの確認ができてるじゃないか)と感心した。
というのは、どのコンビニ店でも「お釣りの返し方」の
マニュアルがあるにもかかわらず、
徹底されていないのが実情だからだ。
お釣りの間違いは、つまらぬクレームに繋がりやすい。

「じゃあ、残りの小さい方のお釣りね」と言って、
オバサンは右手でつかんだ小銭を差し出した。
光太郎が受け取ろうと右手を差し出したその瞬間だった。
「あっ」と思った。オバサンが左手を、
光太郎の右手の下にそっと差し出したのだ。
手のひらで、お椀の形を作って。

それは、小銭を受け取りそこなって落ちないようにと、
下で受ける仕草だった。
(おや? このオバサン、なかなかやるじゃないか。  
これは、このコンビニのマニュアルだっけ?)
「どうかしたの? お兄さん。お釣り間違ってた?」
「いいや、大丈夫です。
そうそう、コピーも取らなきゃいけないんだった。  
忘れるところだったよ」
「あらそう、よかった。でも、ごめんね。
わたし機械音痴なの」
「いいですよ、いつも使ってるから」

光太郎は、ちょっと動揺して、またまた
ウソをついてしまった。
そのままコピー機のところまで行くと先客がいた。
大学生の女の子だった。試験対策だろうか。
ノートをコピーしている。
その子が振り返って声を上げた。

「おばさ~ん!小銭がなくなっちゃって~。
千円両替して~」
「はいはい」と言い、オバサンは、レジから出て、
またまた小走りにやってきた。
そして、その女の子の前まで行くと、
エプロンのようなデザインをしたユニホームの
前ポケットに手を突っ込んだ。
そこから、ジャラジャラッと小銭を取り出した。
「全部100円玉でいいかな」
「うん、友達からノート借りててね。
急いで全部取らなきゃいけないの」
「はい」とオバサンは、千円札と交換に、
100円玉10ケを女の子に手渡した。

光太郎は、ハッとした。ちょっと待てよ。
このオバサン、レジの中からじゃなくて、
ポケットから100玉を取り出したよな。
てえことは、いつも準備しているってことか?
そんなことが脳裏をよぎった次の瞬間だった。

ドアを開けて、一人の若い男性が店内に入って来た。
頭はツルツル。サングラスをかけて、
上下ともに真っ黒のスーツを着ている。
スーツの下は真っ白なTシャツだ。
首には、シルバーのネックレスが下がっていた。
それは、どう考えても、あの筋の人だった。

まっすぐに、ホットの缶コーヒーのコーナーに
足を向けた。
君子危うきに近寄らず。
チラッとドアの外に視線を向けたオバサンは、
強面の男性に声をかけた。
それも、かなりの大声で。

「ちょっと、ちょっと、お兄ちゃん!」
サングラスの顔がこちらを向いた。
光太郎はドキッとした。
(おいおい、大丈夫か、オバサン)
「悪いけどね、車を移動させてくれないかな」
「・・・」 「聞こえなかった?車をね、
他へ移動させて欲しいのよ」

ようやく、自分のことを言われているのだと
気付いたサングラスの男性は、低い声で答えた。
「何だって?」 (怒ってるぞ)
光太郎は、そこから逃げ出したい気分だった。
さらにオバサンが言う。

「あのね、店の入り口の真ん前はね、
車椅子とか、身体の不自由な人が
停められるように空けておいて欲しいのよ。  
お願い、ね!」
オバサンは、光太郎に話しかけるのと、
まったく変わらぬ笑顔で言った。

「ああっ、悪い」そう言うと、
男性はポケットから車のキーを慌てて取り出して、
ドアの外へ飛び出して行った。
光太郎は、オバサンの顔をまじまじと見つめた。
それに気付いたオバサンが、
「え? 何か顔に付いてる?」
「いえ・・・別に・・・」

光太郎は心の中で呟きながら、店を後にした。
(いかん、いかん。こりゃいかん!
うちの店がかなわないはずだ)

……終わり
Author:志賀内泰弘 
 
Mituo 
人の為(ため)と
書いて
いつわり(偽)と
読むんだねぇ 

 
 
 
子を持つも持たぬも人の宿命(さだめ)なり 
日に日に努めて行かむ
あなたの人生なんだから好きなように
お行きなさい(生きなさい)



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる


P R
    カビの生えない・きれいなお風呂
    
    お風呂物語