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流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!

アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.

Author:紀之沢直
 

 
Kanshin021111韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
国士無双」「背水の陣」
「四面楚歌」
そんな彼を描いた小説。
 
 
 
漢の韓信-(107)

韓信が臨に突入したころには、
すでに斉の高官たちの姿はそこになく、
あるのは取り残された下役人と宮女たち、
そしてわずかな数の宦官の姿だけであった。
「生は! 生はどこにいる」探しまわる韓信のもとに、
ひとりの男が近づいてきた。
その男は、おずおずと一通の書簡を差し出し、
韓信に対して仔細を説明しだした。

「私は、広野君の従者でございます。
従者は私の他に何名かおりましたが、
他の者はみな四散してしまいました。
ただ私だけは韓相国(韓信のこと)さまにこちらの
書簡を渡すよう申し付けられておりましたので、
ここに残った次第でございます」

「生はどうした。どこにおられるのか」
韓信は従者の言葉を遮るように質問した。
「広野君は、すでにお亡くなりになりました……。
壮絶な最期でした。
どうかその書簡をご覧になってください。
広野君は生前より、こうなることを予測して、
その書簡を相国宛にしたためておられたのでございます」

韓信は生がすでに亡いという現実を突きつけられ、
激しく動悸を感じた。結局はこうなるのか、
どうして逃げなかったのか、という思いが錯綜し、
しばらくの間呆然と佇んだ。

「……どうか」従者は書簡を読むよう韓信に催促すると、
自分も難を逃れようとその場をあとにした。
韓信はそれに気が付きながらも、
ただその後ろ姿を眺めているばかりである。

「将軍……」蘭が読むように促すと、
ようやく韓信は我に帰り、おそるおそる書簡を開いた。
『……ここに至り、わしは礼の正体を知った。
一口に言えば、礼というものは相容れることのない
人間同志の欲を反影したものなのである。
遅まきながら、わしはついにそれを知ったのだ。

人はそれぞれ内面に欲を抱えており、
それをまったく持たない者は、人ではない。
人は程度の差こそあれ、誰しも欲を持ち、
それを隠そうとしない者は、一般的に悪人とみなされる。
しかし、欲こそが人生、ひいては
社会を向上させる原動力となっていることは否定できず、
堯舜(ぎょうしゅん)の時代
(堯、舜ともにはるか古代の聖王の名。
神話のように昔であることを指す)から今日に至るまでの
世界の発展の素因となっていることは確かだ。
いわば欲は人における必要不可欠の構成要素であり、
礼はそれをあらわにしないためのごまかしの道具なのである。

かつて荀子は人間の本性は悪であるとし、
礼によってそれを正すことができると説いたが、
仮に人の欲望を悪とみなすのであれば、
今さらながらその説は正しいと認めざるを得ない。
しかしあえてわしはその説を前提から疑う。
はたして欲は、本当に悪であろうか。
生物はすべて現状に満足せず、
常により高みを目指すもので、
これはなにも人に限ったことではない。

野にいる獣でさえも、より良い餌場を求めて
縄張り争いをし、
子孫の繁栄のために同胞同士で相争うものだ。
人の欲もこれに似たようなもので、
欲を原因とする争いごとは絶えることがない。
これを思うに欲とは生物に本来備わった
本能というべきもので、悪だ、とはいえない。

しかし獣と違って知恵を備えた人という生き物は、
その知恵ゆえに欲を隠そうとする。
その道具こそが、礼なのである。
ではなぜ人は欲を隠そうとするのかと言えば、
隠しておいた方が欲の実現が容易であるからだ。
欲を隠さない人物は、
警戒され、文化的でないと批判される。
その結果、欲を実現させることは難しい。

これに対して利口な者は礼を用いて、
内面に潜む欲を隠し、誰にも気付かれぬよう、
その実現に向けて努力をするものだ。
将軍は儒者ではないが、わしの見るところ、
礼を巧みに用いている。よって将軍の内面に潜む欲が
なんであるのか見極めることは非常に難しい。
しかしわしは、ついに将軍の欲がなんであるのか
発見することに成功したのだ。

常に孤高の存在でいること。これはおそらく
将軍自身気付いていないことであるに違いない。
だが、わしにはわかる。
将軍は、項王はおろか漢王からでさえも
干渉を望んでおらぬ。
しかしそれは自身が王になりたいがためではない。
将軍は誰にも膝を屈したくないだけなのだ。
将軍がそれを自覚しているならば、
今までにその機会は何度となくあった。
しかし将軍は自身の抱えている欲がなんであるか
気付いていないため、行動を起こせずにいる。
知恵や仁、義、あるいは礼の精神が
将軍の欲の発揚を抑えており、
わしとしては、もどかしく思うばかりだ。

ところで、礼の正体を知り尽くしたわしは、
人生の目的をほぼ達したわけだが、
ひとつやりたいと思っていたことがある。
わしに残された最後の欲の実現だ。
それは、自らの死を尊敬する者のために捧げたい、
という欲である。迷惑かもしれないが、
士というものは自分の死も劇的に演出したがるものなのだ。
間もなくわしは、ここ臨で死を迎える。
願わくば将軍はわしの死を有意義に
活用することを考えてもらいたい。
死者に対しては、礼など不要だ。

わしの死と引き換えに斉の地を将軍のものにするがいい。
将軍と初めて会った時、
わしは将軍にかしずいてみせる、と言ったものだったが、
あれはあながち冗談ではない。
わしは将軍のことを本気で敬愛しているのだ。
最後となるが、いずれ項王は敗れ、
天下は漢のものとなろう。
しかし将軍はたとえ一人になっても独立を保つべきだ。
将軍の才能は項王亡き後、漢王にとって
きっと有害なものとなるからだ。
このこと、決して忘れたまうな』

生の書簡を他人に見せることはできなかった。
韓信は書簡を懐深くしまい込み、
内容に関しては蘭にさえも語ることはなかった。
ただ彼の記憶の中には、この内容が
克明に刻まれているのである。
当時の人々にとって韓信がそのときなにを思ったのかは
定かではなかったが、彼が臨を平定して
さらに東方を目指す姿に、常にない悲壮感が
漂っていたのは誰の目にも明らかであった。
「……生……くそっ!」
韓信はその途上でたびたびそう呟き、歯がみした。


つづく

Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.

愚人は過去を、賢人は現在を、
狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…


「お久しぶりね 」小柳ルミ子
 



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば、言い訳になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる


P R
    カビの生えない・きれいなお風呂
    
    お風呂物語