流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……
 

Mituo昨日という日は
歴史、
今日という日は
プレゼント
明日という日は
ミステリー

 

『期待の新人』

大谷修二は、毎年のようにこの時期になると
手を焼いていた。
自分の課に配属されてくる新入社員が、
なかなか一人前にならない。
自分に自信が持てないのが原因のようだった。

修二は、中堅の乾物食品のメーカーに勤めている。
主力商品は「花かつを」と「干しシイタケ」だ。
肩書は、「第一営業課長」。
スーパーマーケットなど、大型小売店舗への
卸売りを担当している。

自分が営業マンだった頃は楽だった。
とにかく、自分の営業成績だけを上げればいいのだから。
学生時代はラグビー部でならした。
体力には自信がある。
とにかく、相手が「イエス」と言うまで何度も通った。
「うちは創業時から他は仕入れないと決めているんだ」と、
ライバル会社の商品の名前ばかり言う
スーパーの社長がいた。それでも、二年越しで、
毎日のように通い続けて、ついに「うん」と言わせた。

よく酒を飲むと出る、修二の自慢話の一つだ。
ところがだ。係長、課長代理とポストが上がるにつれて、
会社の椅子に座っている時間が多くなった。
そしてついに、課長になったとたん、
ほとんどデスクワークになってしまった。
いつも会社にいて、部下に指示したり報告を
受けたりするだけの仕事になってしまったのだ。
修二は、課長になって以来この二年間、
ずっと辛い日々を送ってきた。
(ああ、また自分で営業がしたいなあ)

午後4時20分。新入社員の谷口太郎が帰ってきた。
「おう、太郎、どうだった?」
修二は、明るい口調で、かつ、笑顔で声をかけた。
しかし、その浮かぬ表情から、
結果が思わしくないことは容易に見てとれた。

「ダメでした・・・今日も」
「そうか、そうか。まあ、いい。明日があるさ
「・・・」谷口太郎は、カバンをポンッと下に置くと、
自分の席の椅子に、ダラ~ともたれかかるようにして
座った。そして、ハア~と溜息をついた。

太郎は今、課長に言われて、 地元のスーパー・
三徳屋に新商品の売り込みをしている。
ライバル会社も似たような商品を納入している。
それだけに割り込むのは大変なことだ。
それを知っていて、修二は太郎に、
「これを毎月、500ケ仕入れてもらって来い」と
ノルマを課していた。

「いつも言ってるだろ。あきらめるな」
「ハア、あれですよね。課長の若いときの話」
「そうだ。俺はな、2年間も毎日通ったんだ。  
その結果、7千万円の契約に繋がったんだ。
あきらめなきゃできる!」
そう言われた太郎はというと、心の中でぼやいていた。
もちろん、口には出さない。
課長は口癖のように言う。
「俺の若いときは」と。しかし、時代が違うのだ。
20年も前の話を言われては、たまったものじゃない。
しかし、上司の命令だ。愚痴を言っても始まらない。
「はい、明日また言って来ます!」と、
元気なフリをして日報を書き始めた。

そんな実りのない日々が、二か月ほど続いた。
だんだん太郎の様子が暗くなっていくのがわかった。
修二も、そのことがずいぶん気になっていた。
しかし、相変わらず、「あきらめるな!」と
励まし続けていた。
修二は、「このへんが潮時かな」と思った。
かなり限界に来ている。
お尻を叩いたり、励ましたりするのも効き目がない様子。

「残業する」というのを無理やりやめさせて、
行きつけの飲み屋へ誘った。
二人で、ビールの大瓶を一本空けた。
頃合いを見て、修二はこんな話を始めた。
「俺な、小学生のときにな、逆上がりができなくってな」
「へええ、以外ですね。課長って小さいときから  
スポーツ万能なのかと思ってました」
「ううん、とんでもない。それどころか、
虚弱児で運動音痴。  
近所の女の子とオママゴトしていて、
それも、その女の子に泣かされるような子でな」
「ええ!?そうなんですか?」
「今、思い出しても恥ずかしいよ。
だから、あまり小学生のときのクラスの奴らには
会いたくないんだ」
「へええ」太郎は、修二の意外な一面に興味を持った。

「それでな、なかなか逆上がりができなくて、
手のひらが豆だらけ。でも、担任の先生が厳しくて。
全員が逆上がりをできるようになることを  
クラスの目標にしちまったんだよ」 「・・・」
「みんな次々とできるようになっていく。  
そんな中、毎日、放課後に頑張って練習するんだけれど、  
ちっともできない。とうとう、できないのは
俺一人になっちまってな」

「なんか信じられないですよね」
「辛かったよ。それでな、ある日、
オフクロに泣きついたんだ。  
先生に『うちの子はできないからあきらめてくれ』と
頼んで欲しいと。  
もう1万回くらいやったけどダメだった。
もう僕にはできないよ、と。  

そしたらな、オフクロが優しい顔をして、こう言ったんだ」
「なんて?」修二は、一呼吸置いて呟くように言った。
「いいかい、修ちゃん。1万回もやって頑張ったねぇ。
エライねぇ。でもね、後、1回だけやってごらん。
ひょっとしたら、次の1万と1回目で、  
できるようになるって、
神様が決めていてくれるかもしれないよ。  
それなのに止めたら惜しくないかい?」

「ふう~」太郎は、話に引き込まれるように
溜息をついた。
「もうダメだと思っていたけど、
次の日もやってみることにしたんだ」
「それで・・・」 「やっぱり、できなかったよ」
「なんだ」 「うん。でもな、次の次の日も
トライしたんだ。  

ひょっとして、今日ができる日かもしれない。
神様が決めた日かもしれないってな」 「・・・」
「それから5日後さ。体育の時間に、
みんなが見ている前でな。
どうせまた、できないと思ってやったら、
クルッてな」
「できたんですね!」
「おおっ、忘れられんな。あのときの感じ。
自分でもよくわからんかったな。  
なぜ、回れたのか。
でもさ、クラスのみんなが拍手してくれたんだ。  
なんだか、そっちの方がうれしかったな」

「課長・・・わかりました。明日も頑張ってみますよ!  
ダメかもしれないけど、
明日こそ三徳屋さんの発注、もらってきます」
「まあ、期待しないでいるよ」
「課長、せっかくボクがやる気になってるのに
ヒドイじゃないですか」 「ハハハハ」

翌朝、朝礼が終わると、太郎は事務所を
飛び出して行った。
今日は、朝一番で、三徳屋の仕入部長に
掛け合うという。
その後ろ姿を見ながら、
修二は受話器を取って電話をした。
それはスーパー三徳屋の番号だった。

「おお、修ちゃん、おはよう」
「おはようございます、山田部長」
「何かしこまってるんだよ、修ちゃん。
お前と俺の仲で」
「いやね、うちの新人が毎日のように
お邪魔して悪いね」
「いいや、いいってことよ。
でもさ、最近、元気ないよ、
あの谷口太郎って子。ちょっと心配だね」

「うん、その件で電話したんだ」
「おおっ、ひょっとして、そろそろかい」
「うん」 「わかった。
今日も来るのかな。
そうしたら、大口の発注をかけてやるよ。  
新商品のキャンペーンも打ってやるかな。
広告にデカデカ出すからさ、少しは
値引きも頼んだよ」
「了解」

「それにして部下思いな奴だよな、お前は。
最初はびっくりしたよ。  
うちの社員がセールスに行っても、
絶対仕入れるなっていうんだから・・・」

Author:志賀内泰弘




『モアイの秘密』
 





人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる



 

P R
  カビの生えない・きれいなお風呂
 
  お風呂物語    

                                                   
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