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流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場一樂編

妄想劇場一樂編

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


Mituo

人の為(ため)と
書いて
いつわり(偽)と
読むんだねぇ 
 
 
『小豆に祈りを込めて』


立花久美の家は、代々、和菓子屋を営んでいる。
近くの山で採れた栗を使った「きんとん」や
「栗ようかん」が自慢の店だ。
祖父の源太郎の代で七代目になる。
八代目になるはずだった父親は、
幼い頃に交通事故で亡くなってしまった。

久美は高校三年に上がる春頃から迷っていた。
(おじいちゃんの後を継ぎたいなぁ)と。
高校を卒業したら、お菓子の専門学校へ行くか、
どこか有名な和菓子屋さんへ修行に出る。
その後、家に戻って店を継ぐ。
でも、まだ誰にもそのことは話していない。
学校の先生にも家族にも。
周りはみんな、大学へ進学するものと
思っているらしい。
成績優秀で、地元の国立なら楽勝と言われていた。
それだけに決断ができないでいた。
ぼんやりと、「後を継ぎたい」と
思うようになってからというもの、
祖父の仕事ぶりが気になって仕方がなかった。
久美は、すでに小学生の頃から店の手伝いをしていた。
配達や店番。法事や祝い事で、
大量の注文が入ったときには、
包装するのが母親と久美の仕事になっていた。
しかし、祖父は、お饅頭の仕込みを
手伝わせてくれることはなかった。

「わたし、このお店をやりたい」
「お菓子を作らせて」
この数日、何度も祖父に言おうとしたが、
のどの奥に言葉が詰まってしまい出てこなかった。
寡黙に餡(あん)を練る後姿を見ると、
何も言えなくなってしまう。

いつもは優しい祖父が、
まるで大きな岩のように見えてしまうのだった。
いや、岩どころか鬼のように見える瞬間もあった。
そのたびに、「わたしは甘いなぁ」と思う
久美だった。

配達の帰り道。郵便局の前で、
マサルにばったり会った。
久美の家の真裏にある農家の長男だ。
幼稚園から中学まで、ずっと一緒だった。
それこそ、夏休みも冬休みも。
「好き!」と口にしたことはなかったが、
高校へ入る頃から 「アイツのことが好きなのかな」と
思うようになっていた。
でも、あまりにも近い存在のまま育ったので、
そんなことを考える暇もなかった。
ある時を境にしてマサルとだんだんと
口をきかなくなってしまった。

マサルは、足が速くて陸上のスポーツ特待生だった。
次のオリンピック強化選手とも嘱望されていた。
ところが、高校に入ってすぐのこと、
アキレス腱を切ってしまう。
そのままケガは完治せず、
自ら退学の道を選んだ。
会おうと思えば、いつでも会える。
徒歩で50歩。 そんな距離がゆえに、
反対に声をかけられなくなってしまった。

「まだ落ち込んでいるんじゃないか」と
心配は募るばかりだった。 と同時に、
「好きだ」という思いが心の中で
大きく膨らんでいくがわかった。
「何やってるのよ」心とは裏腹に、
ちょっと、いじわるっぽい口ぶりで言った。
マサルが、郵便ポストに向かって
手を合わせていたからだった。
まるで、神社でお参りをするときのように、
礼をして柏手を打っていた。

「・・・クミ」マサルは、何か悪いことを
していたところを見つかったときのような
バツの悪い顔をして クミの方を振り向いた。
「うるせえ」
「はは~ん、わかった。あれでしょ。
テレビのクイズか何かの懸賞のハガキを出したんでしょ。  
だから『どうか当たりますように』って拝んだりして・・・」
「ち、違うよ」マサルは、急に顔を真っ赤にして
下を向いた。

「わあ~、図星だ」
「うるせえ」クミは久しぶりに会ったのだから、
「もっと他の話をしなくちゃ」と思った。
「そうそう、最近、お爺ちゃんのリンゴの
手伝いをしてるんだね。感心、感心」
「あ、ああ。いろいろ思うところがあってな」
「思うところ、なんて、なに気取ったこと言ってるのよ」
久美は、「よかったね」と素直に言えない
自分が嫌になった。
マサルはそのまま、「じゃあ」と言って
駆けて行ってしまった。

翌日の土曜日のことだった。
朝、起きると、顔を見るなり母親に言われた。
「クミちゃん、お爺ちゃんが工場へ来なさいって」
「あ、はい」久美は、(なんだろう)と思いつつ、
工場へ降りた。
工場といっても10畳ほどの小さなスペースだ。
昔はすべて手作業だったというが、
今はいろいろな機械も入っていて、
その分手狭になっている。

「クミよ、今日からアンコの焚き方を
教えるからここに来なさい」
「え?」
「いやか?」
「ううん、やるやる・・・ううん、
教えてください。お願いします」
「じゃあ、ここに来なさい」
祖父の源太郎は、大きな布袋から枡で
小豆を取り出し、ザルの上にあけた。
「さあ、ワシと並んで」と言うと、
ザルの小豆に向かって両手を合わせた。
そして、パンッ パンッ!と大きな音を立てて
柏手を打った。 そして小さく礼をした。
クミも慌てて、パンッ パンッ!と柏手を打つ。

「おじいちゃん、なんで小豆にお参りするの?」
「アンコの神様に、どうか美味しいお菓子を
作らせてくださいってお祈りするんだよ。  
お前だって、高校を受ける時、
天満宮さんにお参りに行ったろう」
「うん」
「それと一緒だ」
「でも・・・小豆にわかるかなぁ」
「わかるわかる。いいか、クミ。
物にはすべて心があるんだ。
ここにある鍋にも釜にも。しゃもじにも匙にも。

心っていうと軽いなあ、う~ん、魂かな。  
魂に心を込めれば、気持ちは通じるんだよ」
「わかった。気持ちが通じるように祈るわ」
クミは、今一度、真摯な気持ちで山盛りの小豆に
手を合わせた。
これが久美にとって、祖父に弟子入りした
最初の仕事だった。

その日の午後のことだった。 ふと、郵便受けを見ると、
一通の手紙が届いていた。
まるで子供のような、ずいぶん下手糞な字だ。
「立花久美様」とある。
クミが裏を向けると、そこにはマサルの名前があった。
ハサミを探すのももどかしく、慌てて指で封を切る。
便箋ではなく、薄いレポート用紙に、
これまた汚い文字が躍っていた。
クミへ心配かけてごめん。 もう高校には戻らない。
じいちゃんのリンゴの後を継ぐつもりだ。
それから、ずっと久美のことが好きだった。
また遊んでくれよな。……マサル

……終わり

Author:志賀内泰弘


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる




『 古いカフェで、オムライスと
飲まないコーヒーを注文するおばあちゃん。 』





誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と言い訳になるから……



P R
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