流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・一樂編

妄想劇場・一樂編

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー



Mituo
人の為(ため)と
書いて
いつわり(偽)と
読むんだねぇ 

 

 
 
『内緒でアルバイト』


藤田守は、高校の教師をしている。 とにかく忙しい。
なぜなら、生活指導部の部長しているからだ。
柔道部の顧問だけで大変なのに、
無理やり校長に押し付けられた仕事だった。

幸い、暴力沙汰で騒ぎを起こすような生徒はほとんどいない。
しかし、小さなトラブルは日常茶飯事。
家に帰ると、妻に愚痴を聞いてもらうのが日課になっていた。

そんな中、何度注意しても言うことを聞かない男子生徒がいた。
三年生のタカシだ。
タバコを吸うとか、カツアゲをするとか、
そういう素行に問題があるわけではない。
どちらかというと、真面目な方だ。
成績は・・・というと、すこぶる悪い。
すべての教科が、いつも赤点ギリギリ。
成績が悪いと、先生からはバカ呼ばわりされる。

親は、大学に行かせたがっているらしいが、
本人は、「勉強は嫌いだから」と就職を望んでいる。
こういう生徒は、スポーツが得意だったりする。
ところが、それもからっきしダメ。
そのせいか、自分に自信が持てないでいた。
それが言葉に出る。 「どうせ・・・」が口癖で、
見ている方がやきもきしてしまう。

日本史の担任の小山田先生から、守にご注進があった。
「藤田先生、遠藤タカシのことですが・・・」
「はい、タカシが何か」
「この前の日曜日にね、隣町のレストランへ行ったんですよ。  
たまたま、家族でドライブをした帰りにね。  
そうしたら、遠藤がウエイターをやってるのを見つけて・・・」

守の学校では、アルバイトを禁止している。
よほどの事情がある場合は、親の同意を得て
申請書を提出する決まりになっている。
その「よほど」とは、生活の問題だ。
親が病気で働けないなど、どうしても
アルバイトをしないと暮らしていけないなどという
金銭的な理由がある場合のみ許可している。

以前にも、二度、アルバイトがばれて厳重注意3日間の
停学処分を受けていた。
それにもかかわらず・・・。
早速、守はタカシを呼び出した。
守は、今回はかなり厳しく言い聞かせようと、
強面を決めることにした。

「お前なぁ、何で呼ばれたかわかってるだろうな」
「あ、いいえ・・・あ、はい」
「どっちだ」
「あ・・・バイトのことですか」
「わかってるじゃないか」
「こっちを見ろ」うつむいていたタカシが目を合わせる。
「そんなに金が欲しいか」
「・・・」 「何だ、買いたいものでもあるのか」
「・・・」タカシは答えない。
「いいか、すぐに止めろ。今度わかったら、
停学を通り越して退学処分だ」
「え!そんな~」
「そんな、じゃない。どうなんだ!」
「はい、わかりました」
「よし、わかったら、ここに書け!誓約書だ。
もう二度とアルバイトはしませんと」 
「はい・・・」守の差し出したレポート用紙に、
言われるままに汚い字で
「今後、アルバイトをしないことを誓います」と書き、
肩を落として職員室を出て行った。

次の日曜日。 守は、タカシがアルバイトをしていたという
隣町のレストランに出掛けた。
駐車場に車を停めて、外から様子を伺う。
もし、まだ勤めていたら、 首根っこを押さえてでも
連れ帰ろうかと思っていた。

自動ドアが開いた。 遠くのタカシとパッと目が合う。
しかし、タカシは目をサッととそらして、
お客さんのテーブルに湯気の立っている鉄板を運んだ。
ハンバーグのようだ。

さすがに、営業中の店でもめるわけにはいかない。
白髪の店員が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ」胸の名札には、
「店長・新城」と書かれている。
「どなたかと待ち合わせですか?」と聞かれた。
タカシの姿を捜していたからだろう。

「い、いえ・・・実は・・・」守が戸惑っていると、
店長は、意外なことを口にした。
「ひょっとして、藤田先生ではありませんか?」
「え?・・・どうしてご存じで・・・」
「わたくし、この店の店長の新城と申します。  
もしよろしければ、こちらへいらっしゃいませんか」
そう言うと、店長は守を奥へと促した。
「STAFF ONLY」と書かれたドアを貫けると、
小さな会議室のような部屋に通された。

テーブルには電気ポットと湯呑が置いてある。
従業員の休憩所だろう。
「遠藤タカシのことでいらっしゃったのですね」
「なぜ・・・」
「申し訳ございません。お宅の高校が
アルバイトを禁止しておられることはよく存じ上げています」
「・・・そうですか」
「何度も、藤田先生から止めるように言われていることは
タカシから聞いていました」
「それを承知で雇っておられるのですね」
「はい。たいへん申し訳ございません
。私も実は、何度も迷いました。  
規則に違反してまで雇うつもりはありません。
でも、良い機会です。  
先生にも話だけでもお聞きいただきたいと思っていました」

守は、初対面ではあったが、新城と名乗る店長の
誠実そうな口調と瞳にひかれて頷いた。
「タカシ君・・・いつもみたいに、
タカシって呼ばせてもらいましょう。  
タカシはね、ここで働くのが『楽しい』って言うんですよ」
「楽しい?」 「はい、それって、
ものすごく!うれしいじゃないですか、
経営者としては」どうやら、
店長は、この店のオーナーでもあるらしい。

「遠藤タカシは、働くのが楽しいって言ってるんですか」
「はい、先生。楽しいって。なぜだと思われます」
「さあ・・・」 「この前ですね。バイト料を渡すときに、
こんなことを言うんです」
マモルは店長の言葉に引きこまれる。

「今日も言われましたって」
「え? 何を?」
「私も聞き返しました。何を?って」
「するとですね、タカシがこう言うんですよ。
 
今日も『美味しかったよ、ありがとう』って言われたと」
自分が作ったものじゃない。
料理を作るのは厨房のコックだ。
タカシはそれを運ぶだけ。それでも、それをわかっていても
「美味しかった」と言われて嬉しい。
だからバイトが楽しいと。

守は、ハッとした。自分は「仕事が楽しい」と
思ったことがあるだろうかと。
さっき、タカシがお客さんにハンバーグを運んできたときの
笑顔が思い浮かんだ。
それは、学校では見たことのないような、
生き生きとした笑顔だった。

(明日、校長に掛け合ってみよう。特別に
バイトの許可をもらえないか)
守は、何か大切なことをタカシに教えられたような
気がして、レストランを後にした。


《終わり》

Author:志賀内泰弘




『ママ!この人靴が変だよ』




誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と言い訳になるから……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる




P R

カビの生えない・きれいなお風呂

お風呂物語

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