流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……

Mituo2_2 
昨日という日は
歴史、
今日という日は
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明日という日は
ミステリー

 

『下座に生きる』その2



坐という文字は土の上に、二人の人が
並んでいる、
上下でなく対等にならんでいる
そこが実にいい


「再・リクエスト」
・18歳の孤児の生涯
それはもっとも尊い人としての逝き方。


「お前の両親はどうした?」
 「そんなもん、知るけ」
嫌なことを聞くなと拒絶するような雰囲気だ。
「知るけって言ったって、親父やお袋が無くて
赤ん坊が生まれるかい」
少年は激しく咳き込んで、血を吐いた。
おれはなあ、うどん屋のおなごに生まれた
父無し子だ。親父はお袋のところに
遊びに来ていた大工だそうだ。
お袋が妊娠したって聞いた途端、
来なくなったってよ。
お袋はおれを産み落とすとそのまま死んじまった」

お母さんは、 うどん屋で奉公している中に、
出入りのお客さんと仲良くなって妊娠した。
それを知ったその男は、 彼女から
遠ざかっていった。
結局、 お母さんは、 母体が
危ないよといわれながらも、
「自分が死んでもこの子だけは
何とかこの世に送り出して欲しい」 と
お医者さんに頼み、 お腹に宿した子を産んだ。
名前は、卯一と付けられた。
お母さんは、 お医者さんの言う通りに、
産んだ後に、息を引き取った。

「そうか」
「うどん屋じゃ困ってしまい、人に預けて
育てたんだとよ。
そしておれが7つのときに呼び戻して出前をさせた。
学校には行かせてくれたが、
学校じゃいじめられてばかりいて、
ろくなことはなかった。

店の主人からもいつも殴られていた。
ちょっと早めに学校に行くと、
朝の仕事を怠けたと言っては殴られ、
ちょっと遅れて帰ると、遊んで来たなと言って
殴られた。
食べるものも、客の食べ残ししか
与えられなかった。
だから14のときに飛び出したんだい」

「そうか。いろんなことがあったんだな」
十四歳の時に、家を飛び出して、そして、
神社の賽銭泥棒になった。
卯一は何かを思い出すように、遠くを見た。  

「昔、おれが神社の床下で寝起きしていたころだ。
朝起きてみると、境内の大きな栴檀の木の下で
泣いている九つぐらいの女の子がいた。
おい、どうしたと近寄っていってもその子は
逃げないんだ。ぼろぼろの着物を着た
おれの姿を見たら、大抵の子は
恐ろしがって逃げるのにな。
『昨晩、おっかさんに叱られて、
家を放り出されたの』
朝御飯は食べたのかと聞くと、
昨夜も食べていないという。

『ちぇっ、おれよりしけてやんの』と言いながら、
縁の下に潜り込んで、
とっておいたパンを差し出した。
『これでも、食いな !』するとその子は
目をまん丸くして、
『えっ、兄ちゃんくれるの』と言いやがった。
おれのことを兄ちゃんって言ったんだ。
あの馬鹿たれめが。

『やるから早く食いな』って言うと、
むさぼるように食った。  
それでおれは おれの分の半分も差し出して、
『これもやるから食いな』って言うと、
それ食ったら兄ちゃんの分がなくなるというんだ。
あの馬鹿たれが。いいから食えというと
おいしそうに食った。

『食べ終わったら、早う家に帰れよ』と言ったが、
その子は帰らんという。帰らなかったら、
おれみたいになっちまうぞと言っても、
『おっかさん、大嫌い。
もう家には帰らん!』と言う。

脅かしたら帰るだろうと思って、
帰らんと殴るぞと拳を振り上げると、
家の方に逃げた。
追っ掛けると、その子は二つ目の横丁を曲がって、
豆腐屋に駆け込んでしまった。

『お前、昨晩はどこに行ってたんだ。
心配したぞ』家の人がそういうのが聞こえてくる。
『ざまあ見ろ。帰りやがった。
よかった、よかった』
おれはそう思って神社に帰ってきた。

でもなあ、でもなあ・・・」そこまで話すと、
卯一は涙声になった。
「どうした、泣いたりして」
「おれはなあ、またもとの独りぼっちに
なってしまったんだ」
卯一はわあわあ泣いた。あの枯れ切った
体のどこから出るかと思うほどに泣きじゃくった。

「そうだったのか。そんなことがあったのか。
ごめんよ。思い出させちまって」
卯一は泣き止むと、意を決したように
三上さんを見据えて言った。
「おっさん。笑っちゃいかんぞ」
「何じゃ。笑いはせんぞ。言っちまいな」
「あのなー、一度でいいから、
お父っつぁんと呼んでいいかい」
三上さんは思わず卯一の顔を見た。

この機会を逃すまいと真剣そのものだ。
「ああ、いいよ。わしでよかったら、返事するぞ」
「じゃあ、言うぞ」「いちいち断わるな」
しかし、卯一はお父っつぁんと言いかけて、
激しく咳き込んだ。
身をよじって苦しんで血痰を吐いた。
三上さんは背中をさすって、介抱しながら、
「咳がひどいから止めておけ。
興奮しちゃあ体によくないよ」と言うのだが、
卯一は何とか言おうとする。

すると続けざまに咳をして、死ぬほどに苦しがる。
「なあ卯一。今日は止めておけ。体に悪いよ」
三上さんは泣いた。それほどまでして、
こいつはお父っつぁんと言いたいのか。
悲しい星の下に生まれたんだなあと思うと、
後から後から涙が頬を伝わった。

苦しい息の下からとぎれとぎれに、
とうとう卯一が言った。
「お父っつぁん!」
「おう、ここにいるぞ」
卯一の閉じた瞼から涙がこぼれた。
どれほどこの言葉を言いたかったことか。
それに返事が返ってくる。

卯一はもう一度言った。「お父っつぁん」
「卯一、何だ。お父っつぁんはここにいるぞ」  
もう駄目だった。大声を上げて卯一は泣いた。
十八年間、この言葉を言いたかったのだ。
わあわあ泣く卯一を、毛布の上から
撫でてさすりながら、三上さんも何度も鼻を拭った。
明け方、とろとろと卯一は寝入った。
三上さんは安らかな卯一の寝顔に満足し、
一睡もせず足をさすり続けた。

つづく


「下坐に生きる」神渡良平(作家)



【巷の噂話】浮気に明け暮れた中村勘三郎





人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ


誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴と、言い訳になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる






P R

カビの生えないお風呂

お風呂物語

furo