流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……
 
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『バードウオッチング』その2


「しまった~」ひとみは、空に舞った雁を
見上げて目で追った。
「おかしいなぁ~」ひとみは首を傾げた。
なぜなら、雁の群れまではかなりの距離があった。
彼らがいくら臆病だからといって、
安全を脅かしたわけではないのだ。
でも、明らかにひとみを敵だと認識したのだ。
(こんな若い女の子に失礼ね!)そんなことを考えていると、
空を飛び回っていた群れは、
かなり離れた田んぼへと着地した。

もう一度、近くまで行って観察してやろう。
そう思っていた、その時だった。
「あんた、雁に嫌われちまったなあ~」と
いう声が聴こえた。
(え?!)声の主が、予想もしないところから顔を出した。
20メートルほど先に、ワラが家のように
こんもりと積んである。 その陰から、一人の老人が
現れたのだった。70歳、いや80近いかもしれない。

腰を屈めてひとみの方へと近づいてきた。
「えらいベッピンさんやなぁ」 「・・・」
「鳥を見に来たんじゃろ」そう言うと、老人は
ニコニコして話しかけた。
「あ、はい・・・ここの田んぼの方ですか?」
それには答えず、老人は訊いてきた。

「あんたな、何で雁が逃げたかわかるかな」
「え?」唐突に訊かれて言葉を失った。
「何でって・・・私が近づき過ぎたからですよね」
「たしかに。近づいたら逃げるわな。
でもな、あんたより、ワシの方がずっと
雁の群れ近くにいたんじゃよ。  
それも、ワシは身体を動かして作業をしておった。  
それなのに、雁はワシのことなぞお構いもせずに
メシを食うておった。

雁が急に飛び立ったんで、ワシも妙だなと
思ったんじゃ・・・  
そうしたらあんたの姿が見えたんで
声をかけたというわけじゃ」

「・・・ごめんなさい」
「いやいや、別に謝らんでもいい。
あいつらは、この時期、どこへ行ってもメシは食える。
第一、ワシが飼っているわけじゃないしな、ハハハハッ」
「そうですよね」そう言うと、ひとみもつられて微笑んだ。
「でもな、一つ気になることがあるんじゃ」
「え? 何でしょう」
「あんたな、何でそんなに『気』を出しているんじゃ」
「・・・『気』ですって?」
老人は、戸惑うひとみに対して、さらに問いかけた。

「あのなぁ~、あんたからはビンビンというのかな、  
ババッというのかな、上手く言えんが、  
『気』が発せられているように感じるんじゃ」
「ビンビンって・・・」 「何と言うか・・・
電波みたいなもんじゃな。ここに私はいますよ~、
こっちを見て下さい~ってな。  
そうそう、大声で叫んでいるみたいな感じかな」

「大声ですって?」
「いやいや、実際に声を出すという意味じゃない。  
あんたの存在自体が、こっちを見てよと
喋っているみたいに感じられるんじゃ」
「そんなことしてません」ひとみは反発した。
それよりも反対に、 気配を消すようにと
努力していたつもりだ。
「じゃあ訊くがな~、ワシはあそこでずっと
仕事をしておった。あんたが来てからも、ずっとな。
でも、ワシには雁は驚かんかった。  
なぜだかわかるかな?」 「・・・」

「ワシはな、何も『気』を発していないからじゃ。  
ワシの存在が自然の中に溶け込んでいるからじゃ。
ワシは敵ではない。いや、味方ですらない。
ただの無意味な存在というかな。  
それに比べて、あんたは、雁を見よう見ようとしている。  
いや、見るために、気づかれないようにしようという
『気』を、知らぬ間に発していたんじゃ」
ひとみは言い返すことができなかった。
理屈としては理解できないが、 老人の
言わんとしていることが事実として伝わってきた。

さらに老人は、追い打ちをかけるように言った。
「よけいなおせっかいかもしれんがな~、
あんたひょっとするとな、普段から、
そんな『気』をビンビン出してはおらんかな?  
私の方をみんな見て見てってな」
ひとみは愕然とした。 その通りだった。
子供たちに敬遠されている理由が、そこに
あるような気がした。

「どうしたんじゃ、大丈夫かな?」
老人は心配そうにひとみの様子を伺った。
「あ・・・は、はい」 「もしよかったらな、
さっきの連中が降り立ったところまで、
一緒に行ってみようか。もちろん、近づけば
こっちの存在はわかるに決まっておる。  
でもな、ワシらは危ない奴とは違うんじゃよ~。  
敵でもないけど味方でもないよ~ってな。
いっぺんやってみんか」

「は、はい。よろしくお願いいたします」
「よし、行こう行こう」そう言うと、老人は
スタスタと田んぼの中を歩いて行った。
後ろをついて行きながら、ひとみは思った。
気張り過ぎていたんだ。それが、子供たちに
ビンビンに伝わってしまった。
押し付けだから、引かれてしまった。
だから・・・ウザイ。

老人が振り向いて言った。
「あのな、一つ頼みがあるんじゃがなぁ」
「はい、何でしょう」 「その双眼鏡、
ワシにも覗かせてくれんかな」
「いいですよ」と言い、老人に差し出した。
その時、ひとみは思った。
双眼鏡なんていらないのかもしれないと。
見よう見ようと思っていた自分の心に
気付いた瞬間だった。

「おおっ、こりゃいい! こんなに近くに見える! 
ウワッハハ」老人が大声で笑うと、
遠くにいた雁の群れが、
またまた一斉に空へと飛び立った。


《終わり》


歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…


「紅とんぼ」 ちあきなおみ




高倉 健も彼女のフアンと言われており、
この歌で ”しんみりしないで "ケンさん"  と
歌われている


人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば言い訳と、愚痴になるから……



朝日楼(朝日のあたる家) ちあきなおみ




時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる






P R

カビの生えないお風呂

お風呂物語

furo