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流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・一樂編

妄想劇場・一樂編

信じれば真実、疑えば妄想


昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


Mituo
人の為(ため)と
書いて
いつわり(偽)と
読むんだねぇ 


 
『あの日の忘れもの』


気が重かった。
小学校のクラス会に向かう電車の中で、
だんだんと胸が苦しくなり、よほど途中で
帰ろうかと思ったほどだった。

新岡鉄平は、建設会社に勤める設計士。
大学を卒業して就職すると、全国の工事現場を
転々とする生活を送っていた。
クラス会の案内状を受け取ったのは、
出欠の往復はがきに書いてある締め切りの
当日のことだった。
実家の母親が、転送するのを忘れていたのだ。
開催日を見ると、たまたま東京の本社への
出張日と重なっていた。

何年かに一度、案内状が届く。
しかし、仕事の都合がつかず一度も
参加したことがなかった。
迷っているところへ、小学校の頃からの親友、
いや悪友のケンジから電話があった。
「おい、クラス会来れるか?」
「おお、案内来てるよ」
「たまには会社サボってでも顔出せよ」
「うん、その日は東京にいるんだ」
「そうか、そうか。それだったらいい知らせがあるんだぜ」
ケンジが少し声のトーンを上がるのがわかった。

「岡やんが出席するんだってさ」
「・・・え?! 居所がわかったのか?」
「おお。いつも幹事やってくれている酒屋の・・・
じゃなかった今はコンビニか。  
まあ、いいや。酒屋のミッちゃんがさ。  
新商品の内覧会とやらに行ったら、
主催者側の挨拶に立ったのが  
どこかで見おぼえのある顔でモヤモヤしたんだそうだ。  
それで、よくよく名前を確認したらさ、
岡やん、岡倉雄二だったってわけよ」

「・・・岡やん、何やってんだ、今?」
「広告代理店の課長だってさ。何だかカッコイイじゃん」
「・・・」 「だからさ、絶対来いよ、お前。
あいつも含めて、俺ら五人仲良かったじゃないか」
「おお、わかった」
「じゃあ、待ってるぜ」
ケンジに、岡やん、ライダーにウンちゃん。そして鉄平。
五人は何をするにも一緒だった。
授業の休み時間はもちろん、
遠足や修学旅行でも同じ班。
家に帰ってからも同じ学習塾に通っていた。

ところが、6年生の秋のことだった。
突然、岡やんが転校することになった。
父親が亡くなり、母親の実家がある札幌に
引っ越すことになったのだった。
それも、向こうで母親が新しく勤め始める仕事の関係で、
来週には出発するという。
悲しんでいられる暇もなかった。
いつも一緒の仲間が、一人いなくなるということは
想像すらできないことだった。

引っ越しの前日、送別会をすることにした。
岡やんは「そんな女々しいことしたくない」と
嫌がったが、 無理やりやることにした。
岡やんの家は引っ越しでバタバタしているので、
鉄平の家に集まることになった。
送別会といっても、別に何をするわけでもなかった。
いつもにように、何の目的もなく集まって
くだらない話をするだけだった。
これがもし、女の子同士なら「プレゼント交換」とか
「食事会」みたいなことをやるのだろう。
これがみんなで集まれる最後の日だというのに、
何の目的もないまま時間を過ごした。

その日は、岡やんが自慢のミニカーを持って来ていた。
亡くなったばかりの父親がミニカーが好きで、
家には100台以上がケースの中に飾ってあった。
鉄平は、岡やんの家に遊びに行くたびに、
そのミニカーを眺めるのが好きだった。
でも、「ちょっと、走らせてもいいか」と聞くと、
「父さんのだからダメだ!」と岡やんは冷たく言い放った。
「いいじゃん、触るくらい」
「壊れたらどうするんだよ」
ちょっとケンカ腰になる口調にたじろいで、
いつもあきらめるのだった。

その中で、一番のお気に入りはシルバーメタリックの
ポルシェ911カレラだった。
それを岡やんは、鉄平の目の前でドアを開け閉めしたり、
机の上を走らせたりして見せびらかした。
とても「いい奴」だけれども、
その瞬間だけ「嫌な奴」に変身した。
「送別会」の日、岡やんは大切にしているミニカーを
10台ほど持ってきた。
「みんなで遊ぼう」と言った。
いつも、あれほど嫌がっていたのに・・・。
やっぱり、これが最後だと思っていたに違いない。

この日初めて、鉄平はポルシェ911カレラに触ることができた。
手のひらに乗せると、思ったより軽く感じられた。
そのうち、これが欲しくて欲しくてたまらなくなった。
値段を聞いてびっくりした。
何でも、ポルシェの販売代理店が店先に
飾るために作られたもので、 売り物ではないらしい。
それをマニアの父親が、ボーナスをはたいて
骨董屋さんで手に入れた代物だという。
それを聞いたら、よけいに眩しく見えてしまった。

ケンジだったか、ライダーだっか、
誰かが、「河原へ行こう!」と言い、
皆で立ち上がった。土手で暗くなるまで遊んだ。
「じゃあな、また明日」と言って別れた。
家に帰ると、机の上に、 あのポルシェ911カレラがあった。
岡やんが忘れて行ったのだ。
少し「悪い心」が鉄平の心に芽生えた。
(このまま・・・) (引っ越しでわからなくなることだってある)
その瞬間、首を横に振った。

翌日、ミニカーをカバンに入れて学校へ行った。
岡やんは、みんなの前で挨拶だけしたら、
すぐに空港へ向かうという。
母親が校門で待っているという。
クラスのみんなが、「元気でな~」
「遊びに来いよ~」と言う中、教室を出て行った。
追いかけることはできた。 教室を飛び出して、
返すことはできた。
でも、鉄平は自分の心に負けて、
ポルシェをカバンの中に仕舞ったまま家に帰ってしまった。

それ以後、岡やんとは、25年会っていない
。クラス会は、小学校の近くの商店街にある
居酒屋で行われた。
なんと40人中、31人が参加していた。
よぼよぼになった担任の小川先生も来ていた。

鉄平が部屋に入ると、例の4人が顔を揃えていた。
ケンジが大声で呼ぶ。
「お~い、鉄平~。こっちへ来い!」
「おおっ」気が重かった。
その原因は、ジャケットの内ポケットに入ってる
ポルシェだった。
「どうしたんだよ、鉄平。疲れてんのか?」
ウンちゃんがおどけて言った。
「こいつ働き過ぎなんだよ。そんな稼いでどうする?」
「・・・」鉄平は、心の中で
「今しかない、今しかない」と思った。
ずっと、ずっと、背負ってきた罪をみんなの前で
白状するんだと。

そして、おもむろにポケットからポルシェを取り出して、
車座になった5人の真ん中に突き出した。
ケンジが言う。「なんだよ、コレ?」

岡やんが、急に顔をほころばせて口を開いた。
「懐かしいなぁ~。まだ大事に持っていてくれたんだ?」
「え!?」
「俺がさ、転校するのが決まったときにさ、  
みんなで送別会してくれたろ。
その時に鉄平に思い出にってあげたヤツじゃないか」
「え? あげた・・・?」
「だってお前さ、いつもコレが欲しい欲しいって言ってたからさ」

鉄平は思った。俺が勝手に記憶違いしてたのか?
ずっと、盗んだと思っていたのに・・・。
でも岡やんは、いつプレゼントしてくれるって言ったっけ。
俺の勘違い? 
頭の中で記憶がぐるぐると回った。
この25年間の苦しみが馬鹿げたことだったとは・・・

しかし次の瞬間、心の中で「いや違う」と首を横に振った。
間違いない。これは岡やんが忘れていったものだ!
そう確信して岡やんの瞳を覗くと、
鉄平の方を向いてやさしく微笑んでいた。
そして、岡やんは小さく小さく、コックリと頷いた。
少々古ぼけたポルシェ911カレラが、
にじんだ涙でキラキラ輝いて見えた。

《終わり》

Author :志賀内泰弘


歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…



松尾和子・「再会」  
作詞:佐伯孝夫 作曲:吉田正 


逢えなくなって 初めて知った
海より深い 恋心
こんなにあなたを 愛してるなんて
ああ ああ 鴎にも
わかりはしない




東京都大田区蒲田生まれ、箱根育ち。
戦後、ジャズに惹かれたことと、
家族の生活のために歌手となる。
進駐軍のキャンプやナイトクラブ等で歌ううち、
徐々に人気が上がっていき、やがて、
赤坂のクラブ・リキ(力道山が経営していた)の
専属歌手となり歌っていたときに、
フランク永井に認められスカウト。
吉田正に紹介されて、ビクターに入社。



誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……



時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる






P R

きれいなお風呂・宣言 

お風呂物語

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