流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

妄想劇場・特別編

妄想劇場・特別編

信じれば真実、疑えば妄想……

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 昨日という日は歴史、

今日という日はプレゼント

明日という日はミステリー
 

 

採用試験『何かの間違い』…!!
朱音は、真顔で大熊を見つめ返した。
その表情が真剣だったからか、大熊は、
「会社の誰かに何か言われたのかい?」と尋ねた。
「いいえ・・・はい・・・大学の友達に・・・」
「ちょっと、こっちへ来なさい」
大熊は、すぐ近くの空いていたテーブル席へ
朱音を促した。
大熊には朱音の視線が、珍しく鋭く感じられた。

「あのね」 「はい」大熊はあぐらをかいて座った。
朱音は、正座して向き合っている。
「絶対に他言は無用だ、いいかい」
「絶対に他言は無用だ、いいかい」
「え?」 「誰にも喋っちゃいけない。
トップシークレットだからね」
「あ、はい」
朱音は、大熊が何を言い出そうとしているのか
想像がつかなかった。
しかし、自分が聞いてはならないことを
聞いてしまったのだと、反省していた。

「斉藤さんはね、特別枠なんだよ」
「特別・・・枠?」
「うん、社長がね、特別に推薦して採用する枠だ」
「そんなの変です。だって、私、コネもないし、
社長さんのことも知らないし」
「でもね、田中社長は、
少なからず君のことを知っているようだよ」
「まさか」

うちの会社はね、去年から
「特別枠採用制度」というのを設けたんだ。
面接の日にね、お弁当を
みんなで一緒に食べたろう。
そのときの「素行」が採用基準になってるんだ。
「どういうことですか?」
「これはさ、他で喋ってもらうと
今年から困ってしまうんで内緒にしてくれよ」
「は、はい」
「一つは、食べる前に「いただきます」と
「ごちそうさまでした」を言うか言わないか。  
いま一つは、箸を正しく持てるかどうか。
それだけできれば、合格。  
成績やその他の能力は度外視」

「そんなあ~、誰だってできるでしょ」
「ところが、ほとんどできない」
「それが私だったってことですか?」
「うん」
「嬉しいっていうより、ちょっとショックです」
「なぜ?」
「だって、成績やその他の能力は度外視だって。  
私、秘書課に配属になって、
毎日付いて行くのが大変なんです。  
いくら勉強してもミスばかりで・・・」
大熊は、少し考えあぐねていた。
言おうか言わまいかと。
「あのさ・・・斉藤さん。絶対内緒だよ」
「・・・はい」話にはまだ続きがあるようだった。

「君さ、覚えてるかな」
「何をですか?」
「最終の役員面接のときにさ、
控室を出たところのドアの前に落ちていた
紙屑を拾ったろう」
朱音は首を傾げた。思い起こすが記憶にない。
「覚えてないのかい」
「はい」
「あの時さ、ドアの前に落ちていた紙屑を
サッと拾ってさ、山田君に差し出したそうだね」
山田とは、人事部の若手男性社員だ。
面接室まで案内する係である。
「山田君から聞いているんだ」
「どういうことですか?」
「う、うん、それが君の
最大の採用ポイントになったんだからね」
「え?!」朱音は、何が何だか訳がわからなくなった。

大熊は、少しだけ酔いが覚めて来た様子で、
はっきりとした口調で話し始めた。
「実はね、食事のときの素行だけでは
選考できなくなってしまったんだよ」
「なぜですか?」
「君のせいだよ」 「・・・」
「君がさ、大声で、『いただきま~す』
なんて言うからさ、全員がつられて一斉に
『いただきます』って言うんだもの・・・。  
こっちの企みというかヨミは大外れさ」
「・・・」 「それでね、社長がさ、
急遽もう一つ課題を出したんだよ。  

控室を一歩出たところに、紙屑を置いておく。
誰かが落としたんじゃない。  
我々が置いておいたんだ。
それに気付いて拾い、  
すぐ近くに設置してあるゴミ箱に捨てるかどうか。
拾えばマル。そのままならバツ」
「そんなぁ~」
「ところがさ、君は我々の目論見の上をいったんだ。  

山田君が『そこのゴミ箱へ
捨てておいてください』って君に言うと、
君は、『ひょっとして大切なものだといけないので、
受け取っていただけませんか』って言ったそうだね」
「そうでしたっけ」
「おいおい、そりゃないよ」
「ちょっと思い出したかも」
朱音は思い出した。

それは、くしゃくしゃと丸まったコピー用紙だった。
何かそこにはワープロで文字が打ってあった。
その時、ふと頭に浮かんだのは、
ある一流ホテルの清掃係の人の話だ。
お客様の部屋を掃除するとき、
もし床にくしゃくしゃに丸まった紙切れが
落ちていても、 けっしてゴミ扱いはしない。
ひょっとして、
たまたまゴミに見えるだけかもしれない。
そっと、机の上に置いておくか、
既にお客様がチェックアウトされていたら、
何日か保管しておくというのだ。

朱音は無意識にそのマネをしていただけだった。
「社内にゴミなんて、
落ちていてもほとんど誰も拾わない。  
うちは食品メーカーだからね。
清潔であることが重要だ。  
人事としてはあまりこのことは威張れないけどね。  
だから、ゴミに気付いて拾うだけでも
素晴らしい・・・と社長が言うんだ。  
あくまで、社長がね。
しかし、君は、その上をいった」

その時だった。
「おい、大熊、何やってんだよ!」
振り向くと、秘書室長の佐藤がいた。
朱音の上司だ。
「おい、大熊、オレの可愛い部下に
何、説教してんだよ。
それも、こんなところでコソコソと。
おおっ、セクハラか?」
佐藤も相当に出来上がっている様子だった。
「バカヤロー、そんなんじゃない。・・・
でも、可愛いやつなんだよ、コイツはな」
「おお、それは認める」
「おお、だから秘書室に配属してやったんだ。
感謝しろ」酔っ払い二人のオジサンに挟まれて、
朱音は目頭が熱くなった。
佐藤が言う。「ああ、お前泣かしたな~」
「泣かしたのはお前だろう」
朱音は、明日から、もっともっと頑張ろうと思った。


おわり

Author :志賀内泰弘



【お別れ会 】



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる








furo
P R 

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