流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

信じれば真実、疑えば妄想

メジャーでは無いけど、
こんな小説あっても、良いかな !!


信じれば真実、疑えば妄想……


昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー、


アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい.

Author:紀之沢直

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韓信
紀元前二〇〇年代の中国大陸。
衰退した秦の末期という動乱の時代に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
そこから始まる彼の活躍…
国士無双」「背水の陣」「四面楚歌」。
そんな彼を描いた小説。 

楚の滅亡ー3
韓信の父は、庶民というものを絵に描いたような男だった。
生活は楽ではなく、これといった定職もない。
矛盾しているようだが、それでいて働き者であった。
ある日に畑を耕していたかと思うと、
次の日は城内で井戸を掘る作業をし、
昼前に重い材木を肩に担いで歩いていたかと思えば、
午後にはやはり畑を耕している、といった具合である。
しかしそれもこれもすべて人にいいように使われて
働いているのだった。
そんな彼に良縁が舞い込み、邑(村)でも
一、二を争うほどの美女を嫁としたのだが、
当初彼は自分のそんな幸運が信じられず、
あるいは騙されているのではないかと疑い、
妻を抱くこともできなかった。

あり得ない幸運が信じられず、
あるいは寝首をかかれるかと思っていたのである。
妻はそれを悲しみ、ある日夫に訴え、涙ながらに言った。
「私は日夜汗水たらして働くあなた様を尊敬していますのに、
なぜ抱いてくださらないのですか」
それまでの人生で人に尊敬などされることもなかった
韓信の父は舞い上がり、
わだかまりを捨ててその夜からしきりに妻を抱くようになった。
その結果、韓信が生まれた。

韓信の父に転機が訪れたのは、
韓信が生まれてから半年もたたないころである。
なにが転機だったのかというと、
国から戦地処理の命を受けたことであった。
戦地処理といっても実際は死体を片付ける作業が主なので、
誰もが気味悪がってやりたがらない。
そんな仕事が回ってくるあたり、
自分の運の悪さを感じるのであった。
美女を妻とした反動であろうか、とも彼は思うのである。
彼はそれを悪い意味での転機と捉えたのである。
手のかかる赤ん坊と妻を残し、
長い間家を空けることには申し訳なさを感じたが、
国の命を受けて働くということは、
考えようによっては名誉なことに違いない。
そんな彼の考えを証明するように、
朝廷は彼に爵一級を授けたのである。

今日から私は公士(一級爵の爵名)だ。
喜び、意気込んだ夫を妻は笑った。
「楚の国は圧迫され、よき人物がおらず、
宮廷はあって無きようなもの、と聞きます。
民爵をもらったといっても、おそらく名ばかりのものでしょう。
与えるものがないから、爵を与えてごまかしているのです」
本来爵に応じて農地や家屋が与えられるものであるが、
妻のいう通り韓信の父にはいっさいそのようなものは
与えられなかった。
しかしもちろんそれを理由に
命令を辞退するわけにはいかない。
彼は出発の前に妻に告げた。

「留守の間は、私の知り合いに
栽荘先生という方がおられるので、
そのお方を頼るといい。
すでに私からおまえ達のことは依頼しておいた。
ご高齢で林間に隠れ住んでいるようなお方だが、
智が高く、温和な方でもあるゆえ、
いずれ(息子の)信の教育をお願いしようと思っていた。
安心して身を寄せなさい」
妻は寂しそうな顔をしたが、
その腕に抱かれた韓信は、
父の出発に際して泣きもしなかった。
これには父の方が泣きそうな顔をした。

その韓信の父が赴いた先が、
先に戦闘のあった城父である。
国を守ろうとして命を落とした名もなき兵士たちが、
そこに遺体を晒しているのである。
彼らを弔うことに大きな使命感や
義務感をもった彼であったが、
城内に蔓延する屍臭を嗅ぐと、それらはぐらつき、
城外に腐乱した状態で散乱している
遺体の群れを目にしたとき、それらは完全に失われた。
戦地処理といっても後世のように
なきがらを遺族の元に届けるようなことはせず、
大きな穴を掘り、その中にどんどん遺体を
放り込んでいくだけである。
無情なようでも感情を抜きにして
効率的に働かなければ、
作業する人間の方が耐えられなかった。

黒の甲冑は秦兵の証である。
遺体は秦兵のものばかりだった。
秦は敵軍であり、なおかつ虎狼の国と知りながらも、
韓信の父には哀れとしか思えなかった。
なんと秦兵の姿の無惨なことよ。
戦に負けるとはこういうことか。
しかし、もし立場が逆だったら、と思うと
末恐ろしくなる。
秦には逆襲する力が有り余るほど残っているが、
楚にはそれがまったく無いのだ。

秦の男子は皆、徴兵されると聞く。
いずれは私にも、この黒い甲冑を着て戦う日が
やって来るのだろうか。
そう思いながら作業を進めていくと、
珍しく帯剣した遺体が目に入った。
たいていの遺体は武具を奪い去られていたが、
慌ただしさもあったのだろう、
何体かは武装したままの遺体があった。
その遺体の腰の剣は使い込まれて
多少年季が入っていたが、
柄の部分に青銅の装飾が施されており、
長大なものだったので、見栄えもした。
これは、いただいておこう。
金目のものを見つけた、というわけではなく、
幼い息子の韓信の護符にしようと思ったのだった。
つまり、お土産に丁度いいと思ったのである。


つづく


Author :紀之沢直
http://kinozawanaosi.com.

愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る

誰にだってあるんだよ、人には言えない苦しみが。
誰にだってあるんだよ、人には言えない悲しみが。
ただ、黙っているだけなんだよ、
言えば愚痴になるから……



歌は心の走馬灯、
花に例えた古い歌
 今さら聞いても仕方がないが
 何処に置いても飾っても 、
  歌も花も、枯れてゆく……
  人生、絵模様、万華鏡…



初恋   小林  旭


時は絶えず流れ、
    今、微笑む花も、明日には枯れる