流れ雲

繰り返しと積み重ねの、過ぎ去る日々に、小さな希望と少しの刺激で、今を楽しくこれからも楽しく (^o^)

歴史・履歴への許可証

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歴史・履歴への許可証

昨日という日は歴史、
明日という日はミステリー、
今日という日はプレゼント(贈り物)





「下座に生きる」境内の木の下で泣いていた
 女の子


「何だ、まだ他にもいるのか。
誰だい、そのもう一人って」
そう問われて、卯一は何かを思い出すように、
遠くを見た。
「昔、おれが神社の床下で寝起きしていたころだ。
朝起きてみると、境内の大きな栴檀の木の下で
泣いている九つぐらいの女の子がいた。
おい、どうしたと近寄っていっても
その子は逃げないんだ。  
ぼろぼろの着物を着たおれの姿を見たら、
大抵の子は恐ろしがって逃げるのにな。
『昨晩、おっかさんに叱られて、
家を放り出されたの』
朝御飯は食べたのかと聞くと、
昨夜も食べていないという。
『ちぇっ、おれよりしけてやんの』と
言いながら、縁の下に潜り込んで、
とっておいたパンを差し出した。
『これでも、食いな !』
するとその子は目をまん丸くして、
『えっ、兄ちゃんくれるの』と言いやがった。
おれのことを兄ちゃんって言ったんだ。
あの馬鹿たれめが。
『やるから早く食いな』って言うと、
むさぼるように食った。  
それでおれは おれの分の半分も差し出して、
『これもやるから食いな』って言うと、
それ食ったら兄ちゃんの分がなくなるというんだ。
あの馬鹿たれが。いいから食えというと
おいしそうに食った。
『食べ終わったら、早う家に帰れよ』と言ったが、
その子は帰らんという。帰らなかったら、
おれみたいになっちまうぞと言っても、
『おっかさん、大嫌い。
もう家には帰らん!』と言う。
脅かしたら帰るだろうと思って、
帰らんと殴るぞと拳を振り上げると、
家の方に逃げた。
追っ掛けると、その子は二つ目の横丁を曲がって、
豆腐屋に駆け込んでしまった。
『お前、昨晩はどこに行ってたんだ。
心配したぞ』
家の人がそういうのが聞こえてくる。
『ざまあ見ろ。帰りやがった。
よかった、よかった』
おれはそう思って神社に帰ってきた。
でもなあ、でもなあ・・・」
そこまで話すと、
卯一は涙声になった。
「どうした、泣いたりして」
「おれはなあ、またもとの
独りぼっちになってしまったんだ」
卯一はわあわあ泣いた。
あの枯れ切った体のどこから
出るかと思うほどに
泣きじゃくった。


続く

幸せがつづいても、不幸になるとは言えない
 不幸がつづいても、幸せが来るとは限らない